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ステップ2、現状把握

さて、斥候のベウラー夫妻たちが帰ってくるまでに人員の把握もしておこう。


私たちの人数はわずかに30ほど。全員が大人ではない。何人かは子供だ。

この人数でしばらくやりくりしていかなければならない。人が増える予定は、誰かが夫婦となって出産しない限りはない。まさか私たち同様にこんな永久凍土に入植するような集団はいないだろう。

船旅による運動不足で多少体は萎えてはいるが大きな怪我や病気はなし。全員が健康体だ。脱落者が出なかったことだけは奇跡であり僥倖だ。


「ただいまぁ! 仕留められなかったけど獣の痕は見つけたよ。明日にゃ新鮮な肉をお届けさぁ!」

「ご苦労さま。それでは探索の結果の報告を」


斥候の一団が帰ってきた。それでは、周囲の地形の把握といこう。


前提として、まず故郷のあった大陸とこの大陸の位置関係の話から。

私たちが離反した故郷があった大陸は世界の南東にある。古はディーテ大陸と呼んでいたそうだが、その名称で呼ばれることはほとんどなくなった。現在では南東大陸だとか、単に大陸と呼ぶ。他に人が住む大陸がないからだ。他の大陸はこの永久凍土と、もうひとつ、人の住まぬ大陸がある。

円をYの字に分割し、右半分が南東大陸、上部が永久凍土の大陸、そして残りが人の住まぬ大地だと言えば位置関係はおおよそ把握できるだろうか。


話が逸れた。南東大陸の北にこの永久凍土の大陸がある。古ではシャロー大陸と呼んでいたらしい。

この永久凍土の大陸は円の下半分のような形状をしていたという。それが"大崩壊"で地形が崩れ、その面積は半分以下に削り取られたと推測されている。実際に測量した人間が誰もいないので、あくまで伝承と歴史と地理をもとにした推測だ。


その大陸のどこかしらに私たちは接岸した。南東大陸から北を目指していたので、地理的には半円の右下、つまり大陸の南東あたりになる。はずだ。ナルドの荒海に流されている間にずれて南東ではなく真南までいってしまったかもしれない。


「とりあえず、海岸線を横一線に引くかの」


大陸のどこに着いたかはおいおい測量するなり調べるとして。

大老が羊皮紙の適当な部分に横一線に線を引く。狭い面積の方を斜線で塗り潰し、ナルドと書きつける。その海岸線の中央に印を。ここが今私たちがいる船の接岸点だ。


「森は西じゃったの」

「えぇ。ざっと歩いたけど反対側に抜けられそうもなかったから、相当広いと思うわ」

「ふむ」


少し歩けば地平線に影が見えるくらいに近くにある。

雪に足を取られながらでも1時間もあれば森の入口に行き着く。雪をどかして道を整備すればもっと早くなるだろう。


「森以外は?」

「木の上に登って眺めたが、北は雪に覆われた平原だな」


木の上から観測する限り、障害物も何も見当たらぬだだっ広い大雪原。地平線には峻厳な山。

接岸点から西、北と回っていったので東側についてはまだ未知だ。斥候を派遣させなければいけない。


「今日は休んで、明日東側に向かってみてください。無理はしないように」

「あいあい」


ベウラー夫妻を筆頭とした斥候たちをねぎらって、それからまた羊皮紙の地図を睨む。

当面の資源は西の森に頼るとして、ここに拠点を建てて発展させていくなら北の雪原に伸ばしていくべきか。さて、どうしたものか。まだ未来の話とはいえ今のうちから想定はしておこう。


「その前に、もうひとつ現状確認が必要なことがあるぞい」

「大老? なんでしょうか?」


人員の把握、周囲の地形の把握のタスクは順調。これからの土地設計を考えるのは早すぎるかもしれないが考えておくにこしたことはないし。

大老はいったい何のことを指しているのだろう。


「ワシらの目的の再設定じゃ。……お前さん、まさか『審判に勝ち上がる』などと曖昧な目標のままではおるまいな?」

「あ」


……そうだ。うん。今生き残ることも大事だが、そのためには支柱となる目的が必要だ。『何のために』という意義の存在は大きい。


再信審判――神々から人間へ、信を問う審判に勝ち上がること。審判に勝ち上がり、神の国へと至ること。

それはこの世界の人間すべてに課せられた使命であり存在意義。だけど、それはいったん横に置いておく。神の国へと至るだけなら故郷に与したままでいいのだから。


そうではなく。離反した意味だ。離反してまで何がしたいのか。その目的をはっきりさせないといけない。審判に勝ち上がるのはその次。


「……えぇ、そうですね。整理しておくべきでした」


私たちは何がしたいのか。いや、主語を大きくするべきではない。私は何がしたいのか。

それは私の信念が正しいことを故郷の皆々に証明すること。ではどうすれば正しいことを証明できるのか。それは、審判の地で彼らを打ち倒し、我々が神の国へと至ることだ。

そう、神の国へと至ることは目的ではなく手段。それを間違えてはいけない。


「うむ。それで、その手段を得るに必要なことは?」

「審判に参加する資格を得ること、ですね?」


神への信仰の違いにより、世界は6つの勢力に分けられている。国と言い換えてもいい。その6勢力で審判を争うわけだが、そこに私は『7つ目の勢力』として殴り込む。

だが、審判の参加者と認められなければただの乱入者。再信審判を汚す不敬者でしかない。不敬者が場を荒らしたところで神の国へと至れるわけがない。神々は不敬者を許さないだろう。


だからそのためには各勢力から『7つ目』として認められなければならない。世界の6分の1ずつを担う各勢力に認めてもらうには、我々もまた同様の規模にまで成長しなければならない。そのためにこの永久凍土の大陸を拠点とし、村から町へと発展させていかなければならない。


「目標は整理できたようじゃの」

「はい。……おかげさまで」


最終目標。故郷の皆々に私の信念の正しさを証明する。そのために再信審判に勝つ。そのために再信審判に参加する。そのために参加の承認を得る。そのために一勢力としての規模を成長させる。そのために拠点を発展させる。そのために生き残る。


「……よし」


とっ散らかっていた目標は定まった。目的を達成する道筋は整理できた。

あとは、やるだけだ。

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