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永久凍土から神の国へ、世界制覇を目指します  作者: つくたん
樹のクラン"トレントの若木"
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葉擦れに祈りを捧げる民

蔦船に乗り、ミリアム諸島リシタの里へと向かう道中。

潮風を受けながら、樹のクランの彼女らから話を聞く。


疑問がある。確かに海賊には悩まされていただろう。イルス海の交易路は外部を嫌う彼女らが開いた数少ない窓口だ。樹のクラン側ではなく、樹のクランと取引する商船や旅客船にとっては最重要事項。

だがしかし、外部からの接触がないならないで樹のクランとしてはまったく問題がないのだ。衣食住すべてクラン内で事足りる。森を拓き木々を燃やす人々はむしろ樹のクランが持つ信仰としては相容れない。むしろ接触がなくなってせいせいするとさえ言うのではないだろうか。

それなのに、海賊を平定したことだけで謝礼を寄越すだけではなく首領との会談までセッティングしてくれるとは。待遇が良すぎないか。


しかも、彼女らが語るには、クランとして承認するから交易相手となってくれという打診まであるという。

懇願されたので認めてやったという上下関係ではなく、ひとつのクランとして対等な相手でいたいというのだ。

それは少しばかり、話がうますぎはしないだろうか。


「是。ですから我々はそれをもって"ニウィス・ルイナ"を試そう……そうリネ様はおっしゃっておいででした」


商船のやり取りならば、商人同士の個のやり取り。しかし交易はクランとクランの間に結ばれるもの。

つまり何かあれば外交問題になりかねないもの。対応するのは首領であり、クランの面子に関わる。


それをもってして、樹のクランは"ニウィス・ルイナ"を試したいのだという。


再信審判への参加の承認は謝礼でも何でもなく、"ニウィス・ルイナ"がひとつのクランとして立ち行くかのテストの可否を示すものに過ぎない。

彼女らが判断しているのは、取引自体の公平さもそうだが、海路の安全もだ。対等な取引もせず、海路は危険などという事態になれば承認を取り下げる。


「樹のクランからの信頼に応えてみせろ、というわけですか」


おそらくナフティスから、私たちが『信頼』を掲げたクランだということを聞いているのだろう。

だからその言葉に二言がないかを試すために交易の提案をしてきたのだ。ひとつのクランとして対等な存在であると認め、信頼してやるからそれに応えてみせろ、と。『信頼』のクランならば容易だろう。そう言いたいのだ。


信頼とは言ったが、おそらく樹のクラン側としては裏切られても痛くはないだろう。なにせ立ち上がったばかりの弱小クランだ。そこに不当な取引や危険な交易路が敷かれると言うのなら今後関わりを断てばいいだけ。被害はさほどない。

リスクが少ないからこそできる芸当だ。


……さてさて。


「怯むようであれば会談は中止でも構わないとリネ様から仰せつかっておりますが、如何か?」

「とんでもない。大樹が育つ一助となるなら、ささやかな水でもあなたがたに捧げますよ」


世辞で飾った本音を言いつつ、地平線に陸地が見えてきた。あれがミリアム諸島だ。

諸島とはいうが、中央の島以外はほとんどが海面に突き出た岩だ。ヤシの木が1本生えているかどうかの小さな小さな無人島ばかり。

原初の時代にはきちんとした諸島だったという。しかし"大崩壊"でほとんどが削れてしまったそうだ。中央の島に覆いかぶさるように弓なりに沿った中島が壁となって中央の島は被害を免れたそうだが、壁となった中島と小島群はあぁして小さな岩一つとなってしまった。


***


蔦船が砂浜に接岸する。港というものはないようだ。外部と交易をしている里ならば港があるのだが、今回は中心部であるリシタの里に向かうので砂浜に乗り付けたそうだ。


砂浜から、防砂林の中へ。防砂林から続いて鬱蒼とした森へと分け入る。

森には獣道が1本、真っ直ぐ里に向けて引いてあるだけで、左右はひたすらに木、木、木だ。その木立の隙間に何かの気配を感じる。


「……リグラヴェーダ、あれは?」

「おそらく樹神の眷属の末端の精霊でしょう」


樹神の直系の眷属トレントよりもさらに下位の下位の、個体名さえ与えられない有象無象の木々の精霊だろうというのがリグラヴェーダの見立てだった。

おそらくは来訪者の監視、侵入者の排除と追跡などを担当しているのだろう。


「無礼がなければ大丈夫でしょう」


仮に、こちらに非がないのに手を出してきたとしても問題ない。ファムファタールの身は私がお守りしましょう。そうリグラヴェーダは微笑む。

属性の相関から、樹は氷に絶対に勝てない。どんなに生命力たくましくとも、氷の属性がその力を傾ければたちまちに凍りついてしまう。

樹神の直系の眷属であるトレント本体ならともかく、個の名前すらない末端精霊などには遅れを取らない。


「恐ろしいことはやめてください。……さて」


鬱蒼とした森を行く視界が開けてきた。森を彩る木々が跪くように背を低くして茂るその先、ひときわ立派な大樹がそびえていた。


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