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永久凍土から神の国へ、世界制覇を目指します  作者: つくたん
樹のクラン"トレントの若木"
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樹よりの使者

ホムラを名乗る彼らが我々に加わり、そして同じくして行く宛のない同胞を迎えに行くと言って数日。

送り出した彼らの人数の倍、いや3倍くらいかもしれない。それくらいたくさんの人数を引き連れて戻ってきた。即座に連絡がつく者に軽く声をかけてこれだという。いったいどれだけ洋上を彷徨っているのやら。火のクランの摘発と追放はかなり過激とみえる。

念のため彼らの身の上を聞き、不審なことがないかを探ってから、忠誠を誓わせて"ニウィス・ルイナ"へと迎え入れた。今はそれぞれ得意なことを活かして町の修復や狩猟や畑仕事に従事させている。

これだけ人数が多いと、彼らは実は火のクランからの手先で、内部から瓦解させるために侵入してきたのではないかとあらぬ疑いが起きそうなものだが、民たちはそんな疑いを抱かずに受け入れたという。

曰く、『ライカ様が判断したのだから自分はそれに従う』とのことだ。


「……さて」


送り出して十数日。ナフティスはうまくやっているだろうか。

声や姿を届ける武具を持っていないので様子がわからない。もし何かあれば転移武具で戻ってくるだろうから、便りがないということは取り立てて報告するようなこともなく順調だということだろうか。


「心配ですか、ファムファタール?」

「リグラヴェーダ」

「望むなら遠見の魔法を使いますが」


そうか。リグラヴェーダは魔法が使えるのだった。それならナフティスの様子をこっそり覗き見ることも可能だろう。

……いや、でも。どうしますか、と柔らかく微笑むリグラヴェーダに首を振る。


「便りがないということは順調だと……そう信じることにしようと思います」


報告がないから心配で遠見の魔法を使って様子を見た、なんて。ナフティスならきっとやり遂げるだろうと信じて送り出したのに、その信頼を自ら裏切ってしまうことになる。

それに、ナフティスだってこっそり覗き見られていい気分はしないだろう。色々と。プライペート的な。


「そうですか。……おや」

「どうかしましたか?」

「……どこかの船団がこちらに向かっているようです」


氷の民が侵入者を感知するための探査魔法に何かの反応があったらしい。それによって私たちの上陸も察知したのだとか。

曰く、海上に張った探査魔法が船団を感知したらしい。私たちのように行き場なく彷徨っているだとか、迷子の船だとかではない。何らかの目的でもって真っ直ぐこちらに向かっていると。


「こちらというのは大陸ですか、町ですか」


私たちのように追い出された追放集団が新天地を求めてか。それとも、私たち"ニウィス・ルイナ"に目的があってのことか。

質問をぶつけると、リグラヴェーダは目を閉じ、こめかみに人差し指を当てる。精神を集中させ、探査魔法で読み取った反応を解析しているようだった。


「……大まかな方向は大陸に…………あぁ、この町の結界を見つけたようで……町に舵を変えましたね」

「成程。用件は私たちと」

「でしょう」


このタイミングで来る来訪者など、ナフティスが築いた成果の一環に決まっている。樹のクランから使者が来たのだろう。

それならば出迎える用意を。大老とリグラヴェーダを引き連れ、私は船が着岸するだろう港へと歩き出した。


***


船は木の板を組んだものではなく、蔦が隙間なく編まれて船の形をしているものだった。アレイヴ族特有の船だ。森を愛するアレイヴ族は不要な木の伐採ですら厭う。手入れのために間伐することはあれど、自分の生活のために木材を切り出すことへは敏感だ。集落の家や建物は間伐材でできており、施設が充実しているということはそれだけの間伐が長期間にわたってなされたという歴史の指標となる。


木材を切り出すことを厭う彼女らはその代わりに蔦を隙間なく編んで船を作る。大樹の精霊トレントが生やし育てた大蔦の船は一般的な船と性能は変わらない。


埠頭に乗り付けた蔦船から蔦を編んでの縄梯子が降ろされ、そこから数人のアレイヴ族が降りてくる。

興味深そうに周囲を見回す彼女らへ足早に近寄り、会釈する。


「私がこのクランの首領、ライカです。こちらは補佐役のハルツバリの大老と……」

「リグラヴェーダと申します」

「お初にお目にかかります。"トレントの若木"より参りました。ラロン・トレント・ジェロリーウと申します」


どうかお見知りおきをと頭を下げた彼女にこちらも礼を返し、挨拶もそこそこに本題を促す。

彼女たちはやはり樹のクランからの使者であり、イルス海の海賊の件への謝礼と、さらには首領リネとの会談の申し入れをしてきた。

待て待て、いきなりか。もっとこう、すったもんだあるものだと思っていたのに。長い交渉を経てなんとか面談がかなう、みたいな展開を覚悟していたのに。こうもあっさりと承認していいのか。いやだからといってすったもんだの紆余曲折がいいというわけではなく。


「よろしければ、あなたがたをこのまま蔦船に乗せてリシタの里までお連れするようにと承っております」

「わかりました。お受けしましょう」


ともかく、これはチャンスだ。受けない理由がない。

私がいなくても町は大丈夫だろう。大老も連れて行くと指示役がいなくなるので、会談に向かうのは私と……リグラヴェーダは待てと言って聞かないだろう。

船の大きさからしても何人も乗れるようなものじゃない。私とリグラヴェーダの2人だけでお邪魔するとしよう。


「では、出立の旨を皆に伝えてきますので、少々待ってもらえますか?」

「わかりました。準備ができ次第、蔦船がお送りします」


事態は一気に進むだろう。大ごとを前に背筋を伸ばして駆け出した。

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