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ステップ1、周囲の把握

さぁ、この氷の大地から審判を越え、神の国へと至ろうではないか!!


……と、大見得と啖呵を切ってみたはいいものの。

状況としてはただ接岸しただけ。周囲に何があるかもわからない。まずは斥候を派遣して周囲の探索を進めなければ。


「周囲の状況が把握できるまでは寝泊まりは船内で、安全が確認されればここを拠点にします」

「んじゃぁ俺らが行きますよ」

「では探索はベウラー夫妻を始めとした数人で」


威厳が出るようにかしこまった物言いで。意識しながら周囲の探索を指示する。ベウラー夫妻は我々の中で最も目が利く。船上からこの接岸点を見つけたのもあの夫妻だ。

見つけるべくは獣のいる森だ。それが近くにあれば拠点を置くには最高の立地となる。獣の肉は食料になり皮革は防寒に役立ち、木は建材から薪まであらゆる役割をこなす。


「……それにしても」


永久凍土と呼ばれている割に、想像していたほど寒くはない。体感だが、故郷の厳冬の日の夜朝の冷え込みくらいだ。しっかりと着込めば凍えることはない。オランジェットバナナで釘が打てるとかそういった光景は望めないだろう。

気にするべきは、この気温はこの地の常なのか、それともたまたま一番暖かい日の気温が上がっているタイミングなのかだ。要するにこれ以上寒くなるのかどうか。仮にこれ以上冷え込むとしたらどの程度まで。オランジェットバナナで釘が打てるくらい寒くなるとするならそれに備えなければ。


拠点作りは先を見越して、あらゆる可能性を考えて行わなければならない。

たった30人程度とはいえど、私は皆の命を背負っている。私の判断ミスでこの命が一瞬で奪われるかもしれない。


「……おや、もう戻ってきたようじゃの」


大老の呟いた方を見てみれば、斥候にと派遣した誰かが戻ってきた。ベウラー夫妻の旦那の方だ。その顔色は明るい。何か知らせを聞かせるために一人で帰ってきたようだ。


「吉報です。西に森が、あぁもちろん獣もいますよ。早速鹿狩りだってアルヴァナが張り切っちまって」

「気が早い……いえ、よくやりました。森に脅威がないのであればここを拠点に決めましょう」


そういえばアルヴァナさん、いえ、アルヴァナは鹿狩りが趣味だったか。成程それで旦那だけが戻ってきたのか。アルヴァナは今頃森に生息する獣の習性や縄張りを把握しようと斥候に連れて行った皆とあれこれ調査しているのだろう。行って帰ってくる時間がもったいないから行ってこいと旦那だけを蹴り出した。


「森から木を切り出して建材に使いましょう。切り出しと加工はフォレスさ……フォレスに一任します。人を募って伐採にあたってください」

「了解だ。ガーディナー! 手伝ってくれ!」

「応」


フォレスとガーディナーは故郷でも名うての木こりだったから心配はいらないだろう。故郷とここでは木の状態も違って勝手が変わってくるだろうが、それにも問題なく適応してくれるはずだ。

あの2人に任せておけば木材の調達はどうにかなる。ある程度の木材が確保できればそれを加工して家を建ててもらう。そのあたりも大工のカーペンターに任せればいい。


「ライカ様ぁーい、さっき甲板で釣りしたんスけど……どうっすかこのデカい魚!」

「兄さん、礼儀がなってないよ……兄がすみません。でも、食べられそうな魚が釣れたので報告に」


ピルカトルとウェナトルの兄弟が魚網を担いで駆け寄ってきた。網の中には成人男性の身の丈の半分ほどの巨大魚。魚の種類など詳しくはわからないが、見た目からして故郷で食べていたものと同じだ。漁師という天敵がいないことでこれほど大きく育つことができたのだろう。

甲板から釣り竿を垂らした程度で魚が釣れるのだから海には食用魚が豊富とみていいかもしれない。この兄弟をはじめとした魚釣りが得意な者に釣りをさせれば食料の足しになるだろう。


食料のうち、肉、魚はおそらくクリアできた。問題は。


「……野菜とかってあるんでしょうか」


この永久凍土の地で植物が育つのだろうか。いや、森があるくらいだから雪中に育つ山菜もあるか。

だが、雪を掘り起こし土を耕し畑を作ることは難しいだろう。野菜や果物、それに麻や綿といった植物由来の素材の調達はおそらく絶望的だ。主食のひとつである穀物類も欠ける。

その栄養価の不足を森に生える山菜で補えるかというと……。


「薪で暖めて……うぅん……」


……いや、それを考えるのはまだ先か。いつかの未来より目の前の今日だ。

頭を振って思考を追い出し、それから大判の羊皮紙を机に広げる。そろそろ斥候のベウラー夫妻たちが戻ってくる。報告をまとめられる準備をしておかなければ。


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