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食糧事情

出港の準備と諸々は実際に海に出る彼らに一任するとして。

私たちのクランを宣伝しに放浪するナフティスと、海賊を討伐しに行く船乗りたちと。外政の結果をただ待つのも暇だ。彼らが戦果を上げるまで、町の現状確認といこう。


気になるのは食糧事情だ。町に住み始めて1ヶ月、特に食料で困ったことはないのだが、きちんと内情を把握しておきたい。

私の食事を優先して民は粗末な食事でしたなんてことはまさかないとは思うが。


領館を出、町へ。元々観光都市だったため、領館周辺は観光客のための施設が立ち並ぶ。今は不要な施設なので、領館近辺は修理もせず寂れたままだ。ここに定住する民たちが暮らす居住区は町の外縁側にあり、修理はそこを優先している。町の中央部が寂れて外縁部が賑わっているなんて不思議だなぁと思いつつ、居住区の方へと足を向ける。


「おや、ライカ様」

「どうも。様子を見に来ました」


調子はどうですか、とベウラー夫妻に問う。返事は快いものだった。

曰く、町を出て1日で往復できる距離はすべて調査を終えたのだとか。町の中についても勿論。町の中と外の2枚の地図を今何枚も複製し、皆に配って回っているという。


「もっと外は……ほら、あんまり外を調べちゃいけないかなぁって」


町の外の広域的な調査は氷の民と交わした不干渉と非接触の同盟に触れるかもしれない。

だからとりあえずざっくりと、目の前に脅威がないかどうかだけの調査で済ませたそうだ。それから、資源を得るための森への経路の組み立てだけ。


「接岸地点からずっと東になっちまいましたからね、森まで時間がかかるようになっちまって」


あぁ成程。我々が見つけたあの森は確かにここから距離がある。雪に足を取られることもあるだろう。

早急に道を拓いて、安全かつ迅速に行き来できるようにしておかないと後々に響くかもしれない。


その点を頭に入れつつ、本題の食糧事情についてベウラー夫妻に問うてみる。

町の中だけでなく外も行き来する斥候部隊なのだから、事情にはそこそこ詳しいだろう。


「えーと、漁はピスカトルが、鹿追いの狩りはウェナトルがよくやってますよ」

「あと野草の採取はガーディナーがやってるねぇ。畑はアグリコラの姐さんが手を入れ始めて、ファルマのやつも手伝ってるとか」

「手伝わせてるの間違いだけどな!」


要約するに、それぞれの得意分野を活かして食料調達を担当しているようだ。

畑だった土地に生えていた豆っぽい野菜については、食べてみたところ独特の青臭さがある以外は毒性も見当たらなかったのでそのまま栽培に着手してみるのだそう。


「他には?」

「心配事っていったら食事にレパートリーがないことだなぁ」


青臭い豆もどきと雪中の山菜、氷海の魚と雪原の獣。得られる食料はそれだけで、量については問題ないものの幅がなさすぎる。

船には穀物などの食料も積んではあったがそれもいつかは尽きる。その時待っているのはいつも同じメニューの食事だけ。

それでは腹は満たされても心は満たされない。


「む……それは困りましたね……」

「そ。だから今回の海賊討伐の成果についてちょぉっとは期待してるところもあるんすよ」


樹のクラン"トレントの若木"とつながりができれば、彼女らから寒冷地に強い植物を融通してもらえるかもしれない。

それに、樹のクランというだけあって彼女たちの植物に関する知識はかなりのものだ。この青臭い豆もどきの品種改良について一案をもらえるかもしれない。

それを期待しているということだった。


「種や苗を譲ってもらう……、ふむ、交易についても考えないとですね」


恩をダシにタダで譲ってもらうというのも図々しい。こちらも何か渡せるものをひねり出さないといけない。

その点についても考えておかなければ。とはいえ何もない永久凍土で生産できるものがあるだろうか。生活には困らないが交易するほど余剰が作れるか。


「む、む……検討してみます」

「ほいほい。困ったらすぐに言うんだよ」


一人で何でも片付けるんじゃないよと肩を叩かれる。ベウラー夫妻はそのまま仕事に戻っていってしまった。後に残ったのは私と、肩を叩かれた体温だけ。

困ることがあれば頼れと言うその優しさは嬉しい。だが、私は指導者なのだから甘えるわけにはいかない。きちんと自立しなければ。


「義兄さんは他の人に頼ったりはしてないんだから……」


ぽつりと呟いた声は路地の風がさらっていった。

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