婚約破棄ですか? では覚悟をしてくださいね。 ~悪役令嬢は婚約者に引導を渡す~
何番煎じ悪役令嬢ものですが最後まで読んで頂ければ嬉しいです。誤字などあれば直しますので報告していだければ助かります。
「今この時を以て王太子グラム・ブルム・オルトラから王位継承権を剥奪し王家からも追放、ただの平民とする!」
「そ、そんな父上!? 私を廃して誰が王太子の大役を務められると言うのですか!」
「公の場では陛下と呼べと何度も言っていたはずだ! 貴様はこれまで何を聞いていたのだ!」
視界が真っ赤になりそうなほどの憤怒を抱え、王太子の廃嫡を宣言したのはオルトラ王国国王であるランドム・バグッド・オルトラだ。普段は巌のように変わることがない顔だが今は違う、まるで悪鬼のような凄まじい形相になり愚かなことをしでかした二人を睥睨している。
そんなランドムに対し命知らずにも不服を訴えるのは実の息子であり、廃嫡されたばかりの元・王太子グラム・ブルム・オルトラだ。
様々に自分の無実を主張するグラムの近くで、床に力なく座っているピンク色のウェーブがかった髪をした可愛らしい少女は男爵家の令嬢であるティアナ・フクロムだ。
「黙れと言っているのが聞こえなかったのか馬鹿者が!」
「ひっ!?」
口煩くも騒ぎ続けるグラムの頼みをランドムはバッサリと切って捨てる。
「小娘の虚言に踊らされた挙げ句に王命で定められた婚約者に対し、有りもしない罪で断罪し婚約破棄をする痴れ者など王族には不要だ! 兵達よ早くこの愚か者共を地下牢に連れていけ!」
「「「はっ!」」」
兵士達が一斉に二人を拘束しようと動き、グラムは止めろ放せ、この無礼者がと叫びながら暴れ始める。一方ティアナは俯いたまま大人しく兵士に従っていた。
一国の王子が取るにはあまりに無様な姿を、多くの貴族の令息・令嬢は呆れと侮蔑が入り混じった冷たい目で見ていた。
ここは貴族の子供たちが通う王立アーキス学園であり、この日は明日から始まる長期休日の前に学園ではパーティーが開かれ、多くの生徒がこのパーティーを楽しみにしていたというのにグラム達のせいで台無しにされたとあっては怒りたくもなるだろう。
こんな事になった原因は全てグラムと共に捕まっている男爵令嬢ティアナのせいだった。
一年前に学園に入学してきたティアナはその愛らしい容姿を利用して多くの貴族の子息達と仲良くなっていくと、とうとう王太子のグラムにも近付いていきグラムを完全に虜にしてしまったのだが、その後があまりにも酷いものだった。
グラムは王族ということもあり生徒会長を務めていたのだが、元々サボリ気味であまり仕事をしていなかった上に、ティアナと出会ってからはさらにひどくなり、一緒に遊び呆けてばかりで、王太子としての公務すらも放り投げていた。
その上、ティアナがねだるままに本来ならば婚約者の為に使用するべき予算から高価なドレスやアクセサリーを購入してプレゼントしていたのだ。
元から問題児として知られていたグラムの評価はどんどんと下がり今では悪い方向に振り切れ、地に落ちるどころか地下の奥深くまでめり込んでいる現状だった。
これには国王と上層部も頭を痛め、王太子を見直すべきではないかと議論されていた矢先に起きてしまったのが、グラム達による婚約破棄だ。
それもその理由は王太子の婚約者である令嬢が醜い嫉妬により自分が愛したティアナを虐め殺そうとした、というものだがその内容はあまりにもお粗末なものであり、少し考えれば誰でも嘘だと分るようなものだった。
慌てて駆けつけ場を収めたランドムだが、学園には留学生もおり他国にまでも自国の恥を晒したようなものなのだから激怒するのも頷けるというものだ。
「本来なら楽しい宴の席をこのように騒がしくしてしまってすまなかったな、この痴れ者共のことは忘れて最後まで楽しんでくれ」
パーティーを再開するように告げ、ランドムがグラム達を連れて去ろうとしたその時、凛とした声がホールに響く。
「陛下、申し訳ありませんが殿下達を連れて行くのはもう少しだけお待ちいただけないでしょうか?」
国王の決定に逆らうかのような言葉に全員の視線が声の主に集まる。
そこに毅然と立っていたのは艶のある絹糸のように美しい銀髪と氷のように澄んだアイスブルーの瞳の美しい女性だ、彼女は先程までグラムの婚約者だったロムディア公爵家長女エリカ・フォル・ロムディアだ。
「エリカ嬢か……」
ランドムはエリカを見ると渋面になりながら呻くが無理もないだろう、エリカの実家であるロムディア公爵家は建国から続く名家で王国随一の広さと豊かさを誇る領地を所有し、他国との強いパイプまで持つ家であり国王であろうと蔑ろにすることができない家の令嬢なのだ。
「グラムのことは本当にすまなかった。まさか此奴がここまで愚かだったとは思っていなかったのだ。この償いは後日必ずすることを約束しよう。だからこの場は引いてもらえぬか?」
「残念ながら陛下、それは出来ません。何故なら私などよりももっと殿下によってその名を傷付けられた友がおります。この場でそれを正さなければきっと永遠に傷付いたままでしょう。私にはそれが耐えることが出来ないのです。もしお許しいただけないのなら残念ですが私はもうこの国に居るつもりはありません、どこか他の国へ出て行かせていただきます!」
「なっ!? 本気で言っておるのか!?」
思ってもいなかった発言に、その場に動揺が走った。エリカは才女として知られ、既にその才能で王国に多大な利益をもたらしてきたのだ、そんなエリカが国を出ていったとなれば、どれだけの痛手になるか分からない者はこの場にはいなかった。
それにこんな理不尽な形で婚約破棄をされたのだ、子煩悩で知られるロムディア公爵が怒り狂うのは目に見えている。その上、エリカが国から出ていったと知ったらまずロムディア公爵が黙っているはずがない、下手すれば内乱に発展する可能性すらある、そこまでいかなかったとしても間違いなく王国は荒れることになるだろう。
「もちろん本気ですわ。さあ陛下、どうするのかお決めください」
「……よい、分かった。余が許可しよう、今からそなたがどのような発言をしようとも一切咎めることはせぬ。この愚か者共を好きにせよ」
一歩も引かぬとばかりに強い意志が宿る瞳で自分を見るエリカに、諦めたかのように肩を落とし溜息を吐きながら許可を出す。
「ありがとうございます陛下。ではそこのあなた、彼女を離してくれないかしら」
「え? 自分ですか?」
「ええ、そうです」
エリカが話し掛けたのはティアナを捕縛している兵士だった。この騒ぎの元凶であるティアナを自由にしてもよいのかと迷うが、ランドムが頷くのを見てほっとしたように掴んでいた腕を離した。ティアナがバランスを崩し転びそうになるのをエリカが助ける。
「大丈夫かしら? どこにも怪我などはない?」
「エリカ様! も、申し訳ありません! 私がきちんと殿下を止められなかったばかりにこんな事になってしまってっ、こ、この償いはひくっ必ずいたしますのでっうぅっ」
「貴女のせいなんかじゃないんだから、泣く必要なんてないのよティアナ。何もかも全部悪いのは殿下なんだから、それに貴女の話を聞くような方だったら最初からこんなことにはなっていないはずでしょ?」
「ですが……」
「安心しなさい、きちんとこの場で貴女の名誉は取り戻してみせますからね」
「あ、ありがとうございますエリカ様っ! うああぁぁ」
感極まったのか淑女らしからぬ大声を上げて子供のように泣き出すティアナと、それを落ち着かせるように優しく抱きしめるエリカ。二人の関係は婚約者を奪った者と奪われた者、加害者と被害者のはずなのに一体どうしてだろうと周囲の者が首をひねっていると怒声が響き渡る。
「そうか、そういうことかエリカ! 貴様俺を嵌めたんだな!?」
叫んだのは兵に押さえられているグラムだ、その額に青筋が浮かんでおり唾を飛ばしながら吠え続ける。
「父上 これは罠だったのです! 全てはこの性悪女が、いやロムディア公爵家が仕組んだ罠だったんです!」
「あらあら、面白くもない冗談ですね。殿下などを罠にかけて私に何の得があるというのですか?」
ティアナに向けていた時とは一転し騒ぐグラムに汚物を見るかのような冷たい目を向けるエリカ、よく見れば薄っすらとだが青筋が浮かび上がっている。
「ふん! 大方この茶番を以て王家の信頼を失わせ、貴族共に仲違いさせようと企んだんだろう!」
自分が助かるにはここしかないとばかりにエリカと公爵家の陰謀だと口汚く罵りだすのにエリカが呆れ黙っていると、何を勘違いしたのかグラムは我が意を得たりとばかりに声を大きくし非難する。
「残念だったなエリカ! どうせその売女を使って誑かし王家の恥にしようとしたんだろうが、そんな手に引っ掛かる俺じゃない!」
いや、もう完全にこれ以上ない恥を晒してるだろう。そう誰もが思うほどに無茶苦茶な言い分だったが本人は正しいと思っているのか勝ち誇った顔で言い切る。
「……ティアナが貴方みたいなどうしようもないクズを誑かすですって? どこまで馬鹿なのかしらね」
「なっ!?」
「まあ殿下は一先ず置いておくとして……そうですね、そこのあなた一つ聞きたいのですがよろしいかしら?」
騒ぐグラムを無視したエリカは近くで見守っている生徒の一人に声を掛けた。呼ばれた生徒は驚きながらなんだろうと訝しみつつも頷く。
「ではお聞きしますが、実家の権力を利用し、家族などを人質にとってか弱い女性に付きまとうことを誑かされたと言いますか?」
「いえ絶対に違うと思いますけど……」
それではただの悪質なストーカーだろうに、どうしてこんなことを聞くのだろうかと誰もが不思議がるが、グラムだけは怒りで赤くなっていた顔色を青へと変えていた。
「そこの貴女、本人が必要がない、欲しくないと言っているのにも関わらず高価なドレスやアクセサリーなどを贈りつけ、それらを身に着けないと暴力を振るうような行為を貢がされたと言いますか?」
「断じて違いますわエリカ様」
「お二人共ありがとうございます、では次に殿下にお聞きしますが貴方はどう考えますか? 今私が聞いたことを誑かされた、貢がされたと言いますか?」
「………」
エリカは静かにグラムに問い掛けるが、その目に宿る光は刃のように鋭く嘘など許さないとばかりに青ざめ冷や汗を流すグラムを睨んでいる。
「ここにきて黙秘ですか、あまり気乗りしませんが仕方ありませんね。貴女にとって辛いことだとは思うけれど、このクズに何をされていたのか本当のことを皆に話してくれないかしら?」
「わ、わかりました。……陛下、どうかお聞きください! 神に誓って言います、私はグラム殿下を誑かしてなどおりません! それどころか逆にしつこく付きまとわれて迷惑していたんです!」
まだ恐怖からか小さく肩を震わせていたティアナだがエリカに促され、一度深呼吸をすると背筋を伸ばしランドムの前に立ちハッキリと言い切った。
「……それはどういうことなのだ? そなたはグラムが好きで一緒にいたのではないのか?」
「違います! あんな身勝手な人なんて全然これっぽっちも好きではありません! むしろ酷く嫌悪していて近くにいられるだけで吐き気がするくらいです!」
「ならどうして今までグラムといたのだ? 嫌ならば教師達にでも相談すっ!?」
相談すればよかった、そう言い掛けたランドムは先程のエリカの言葉を思い出し、妙に静かになったグラムを睨む。
「私が側にいられると迷惑ですと告げると、下級貴族のくせに生意気だと激高し暴力を振るってきたのです! さ、更には『家族や領民達がどうなってもいいのか? 男爵家くらい適当に濡衣を着せて処刑することなんて王族には簡単にできるんだぞ、それが嫌なら俺と一緒にいるんだな』と脅してきたのです」
話している途中でまたも涙を零すティアナに場は唖然となってしまった。誰もが、まさかそんな嘘だろう? と信じられない思いだった。
グラムを誑かしていると思われていたティアナが、実は権力を笠に着たグラムによって悪質なストーカー行為を受けていたなどと誰も思っていなかったのだ。
「その後はグラム殿下の好き放題にされて……男子禁制のはずの女子寮の部屋にまで私に招かれたことにして入ってきては好き勝手に入り浸られて、私には心休まるところなどありませんでした……」
その時の光景を思い出したのだろう、ティアナの啜り泣く声が静まり返った場に響き耳を打った。
「嘘だ! その売女は嘘をついているんだっ! どこまで俺を貶めれば気が済むんだ!」
このままでは不味いと察し騒ぎ出すグラムだが、その身に突き刺さるのは今までにないほどに冷たい氷のような視線だった。
「ならプレゼントだ! あれはどう説明するんだ!? お前は確かに俺に贈り物をねだったよな!? おいっそこのでかいの、お前だよっお前もこの女がプレゼントをねだっているのを聞いたことがあるよな!」
余裕のない必死の形相を浮かべ、噛みつかんばかりに生徒の一人に証言を求めるグラム。生徒は心底迷惑そうにしながらも国王も居るために無視もできず、眉間にシワを寄せながら答えた。
「確かにありましたね。ですがあれは……」
「なんだ? 続きを申してみよ」
「は! 彼女が欲していたのは殿下が贈っていたようなものではなく、文具などだったと記憶しております!」
「文具だと? 何故にそんなものを欲したのだ?」
貴族の令嬢なのだからわざわざ文具など望まなくても手に入るだろうにと首を捻るランドム。
「プレゼント自体が必要ないと断ってもグラム殿下には聞き入れてもらえませんでした。ならせめて学園で使うものをと思い文具を望んだのです。ですが、グラム殿下は一方的に私の趣味には合わない高価なドレスやアクセサリーなどを贈りつけ、見飽きるまでそれらを私に着用することを強要したのです!」
吐き捨てるように言い放つその様子に、生徒たちの頭の中にはティアナが着ていたドレスの数々が思い浮かぶ。あの悪趣味な派手に胸や脚を露出した娼婦のようなドレスの数々はグラムの趣味であり、ティアナは着せ替え人形のように扱われていたのだと理解った生徒達はティアナに同情の涙を浮かべた。
「そ、そこまで言うならしょっ証拠はあるんだろうな! もしも証拠もなくお前等の証言だけだったのなら、お前等は王族を侮辱したことになるんだ覚悟は出来てるんだろうな!」
もう誰もが犯罪者を見る目で自分を見ていることに気付かぬまま、グラムは見苦しくも言い訳を重ねる。まだ言い逃れ出来るとでも思っているのだろう。
本人は証拠などあるはずがない、そのことを利用して逆にエリカ達の方を罪に問うてやる、そんな浅はかなことを考えて嘲笑っていたのだが、あっさりとその考えは崩れることになる。
「はぁ、まさか私が殿下と一緒で何の証拠も用意せずにこのような場で貴方の罪を問おうとしたとでもお思いですか? リカ!」
「はっお嬢様!」
手を叩き名を呼ぶと次の瞬間にはどこから現れたのかメイドがエリカの前に立っていた。一体いつの間にと驚きの声が上がる中、メイドは山のように大量の書類と大きな魔法具をエリカの前に一瞬にして並べると、現れた時と同じように風のように消えてしまう。
「最初から今日にでも殿下が仕出かした悪行の数々を陛下に報告しようと準備をしていたのです。陛下、こちらの書類はティアナの話を聞き、公正な調査機関に依頼し作成してもらったものです。それと調査していくうちに新たに判明したことなども書かれております……どうか気を強くもってお読みください」
書類の一部を手に取り読むようにと差し出してくるエリカの不穏な言葉に、無性に嫌な予感を感じとったランドムだが、自分の息子が犯した過ちであるために見ないわけにもいかず、意を決して書類に目を通した。
「……っ!? 教師達を買収っ!? それにこんなことまでやっておったのか!? ぬがぁああああ!?」
書類を読み進めていくにつれて目まぐるしく顔色を変えていくランドム。赤から青に変わり次に白、そしてまた赤と忙しく変わる顔色はやがて黒になり表情も消えて完全な無表情に、そして最後には雄叫びを上げて書類を破り捨ててしまった。
普段は威厳ある態度を崩すことがない国王がこんなになるなんて一体何が書かれていたんだ? と気になって仕方のない生徒達をよそにエリカは運ばれてきた魔法具を動かす準備を始めていた。
「では次に行きましょう。これは特注の記録用の魔法具で、殿下がティアナに行ってきたことが記録されています。殿下がどれだけ最低最悪な下衆でろくでなしか見てください」
スイッチを押し魔法具が動き始めると壁には、グラムがティアナにしてきた数々の悪行が赤裸々に映し出されていく。あまりにも酷すぎる横暴っぷりに見ていた者達は絶句し、こんなことをされていたのかとティアナを憐れみ、中には泣き出す者までもいた。
その記録映像は一時間におよび、終わる頃には皆が侮蔑が籠もった目から、殺意で怪しく光る目でグラムを睨みつけていた。
「……この映像はこれで終わりですが、これはあくまでこの一年ティアナが殿下から受けた仕打ちのほんの一部でしかありません。ですがこれで本当に悪いのがどちらなのかは解っていただけたと思います。それでは殿下、流石にもうないとは思いますが何か言い訳はありますか?」
何か、何か言わなければだめだ、そう分かっているがグラムからは言葉が出てこない。まさかここまで完璧な証拠が用意されていたなど思ってもいなかったのだ。
何も言おうとしないグラムに対し生徒達が大声で罵声を浴びせ始め、このままでは暴動になってしまうのではないかとエリカが思ったその時、息子の悪行を見てからピクリとも動くことがなかったランドムがゆっくりとグラムの元へ歩いて行き。
「このクズがあああぁぁぁっ!」
「ひでぶぇあ!?」
渾身の右ストレートを叩き込んだ。
悲鳴を上げて人形のように吹き飛ぶグラムを追い駆け、さらなる拳を浴びせながらランドムは叫んだ。
「余は情けないぞーーっ! 貴様のような人面獣心の輩をっ! 野放しにしっ王太子などにしておったとはっ! 国を民を守るべき王族からこのようなクズが出るとはっ!」
「ひぎゃああっ!? 止めっ止まってぐえばぁああっ」
次々と明かされる実の息子の悪行にランドムは切れてしまったのだ、それはもうプッツンと音が聞こえるのではないかと思うほどに切れていた。数分後、別人のように顔を腫れ上がらせぐったりと力なく床に倒れ込んだグラムを見下ろしながらエリカが止めを刺すために口を開いた。
「もう二度と会うこともないでしょうから言わせてもらいますが、私との婚約破棄をしたければ最初から素直にそう言ってくださればよかったのですよ。なにせ破棄したかったのは私も同じですからね」
「ひょぇは……どうゆうことらりゃっ? お、俺が好きらかきゃら婚約したんだろあ?」
意味が分からずきょとんとするグラムに心底呆れたように溜息を吐き続ける。
「性格は歪んでるし頭のできも悪い、顔と血筋以外に何一つもいいところが無い殿下など誰が好きなものですか! 私は貴方のことが大嫌いだったんです、近くによられるだけで鳥肌が立ってしまうほどにね! ティアナ、貴女も言いたいことがあるのなら言っておきなさい、色々と溜まっているでしょう?」
「はい! 私も貴方のことが大嫌いでした! いつもいつも私をまるで物のように扱ってっ、それに口を開けば自画自賛ばかりで本当に気持が悪くてしかたありませんでした! もう二度と私の前に出てこないでください!」
エリカはともかく、ティアナにまで嫌われていたなど夢にも思っていなかったグラムは、その自尊心を刃のように鋭く切り刻まれた。やがて溜まっていたものを吐き出すかのように言いたいことを言い終えた二人は清々しい笑みを浮かべ喜んでいるのに対し、グラムからは全く生気を感じられず死人のように成り果て、そのまま兵士達によって引きずられるようにして連れて行かれたのだった。
後日、エリカとティアナの元に王家から正式にグラムの事で謝罪が成され、今回の詫びとしてエリカには莫大な慰謝料が支払われ、更に新しく立太子した第二王子との婚約話を持ち掛けられたのだが、エリカはもう王家との婚約は懲り懲りだと丁寧に断った。
そしてある意味一番の被害者とも言えるティアナに対しては莫大な慰謝料と領地、そして実家も男爵から伯爵にと陞爵され、一連の騒動は全てはグラムに非がありティアナには一切の責任がないことを王家から正式に通達された。
余談だが、学園でティアナが男漁りをしていたというのは貧乏貴族のために誰とも婚約が決まっておらず、真剣に婚約してくれる相手を探していただけであり、王子がストーカーになっていたことを知らなかった生徒達が勘違いをして間違って広まっただけであった。