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第13話 黒マントの怒り

 賢者の石。

 それは錬金術師と呼ばれる、魔女術(ウィッチクラフト)とは違う魔術体系を会得した者たちが作成できるという魔法の道具(マジックアイテム)の一種だ。

 膨大な魔力を宿しており、一般的には魔法の触媒として用いるものとされている。


 賢者の石を作成できる錬金術師は少なく、彼ら曰く「自分たちの作る賢者の石は紛い物だ」との事だが、それでも強力な魔術的物品(リソース)である事に変わりは無い。


 しかし、光あるところに闇あり。

 包丁や車が殺人の凶器となり得るように、賢者の石もまた、誤った使い方をすれば容易に脅威へと転じる。

 例えばそれは──


「貴様、()()に手を出したな……! 度々感じていた悪寒の正体はそれか!」


 黒マントの、悲鳴にも似た叫び。


 それと同時に、鉄の棘が突き立てられている悪女野風の背中が、大きく膨張を始めた。

 やがてそれは、無数の肉の刃へと転じて鉄の棘を切り裂き砕き、黒マントへも到達せんとする。

 しかし、黒マントは靴底のルーンを用いてその場から退避。何とか事無きを得た。


「AAAAAAAAA、あぁああぁあああぁ、ウフ、ウフフ、フ」


 ヌルリ、と立ち上がる悪女野風。

 身体の至るところに残る棘の破片は、全身に形成された幾つもの口によって捕食された。

 額の賢者の石が瞬く度、彼女の全身に刻み込まれた傷は少しずつ再生を繰り返していく。


 真っ赤な深紅のドレスは襤褸(ボロ)切れへと転じ、妖艶な美女を思わせる表情は、目の焦点さえ合わない狂人のそれへと変貌していた。


「賢者の石を人体に直接用いる事は禁忌と定められている。貴様の食人衝動も大方、賢者の石に魔力を吸われた事によるカロリーの枯渇が原因だろう」


 そう吐き捨てる黒マントの目には、悪女野風に対する()()()が浮き出ていた。

 敵意でも、殺意でもなく。目の前の悪に対する、明確な嫌悪の感情。


「貴様が元はどんな人物だったのかは知らない。だが貴様は邪法に手を染め、賢者の石を自らの肉体に埋め込み、その身を魔性の存在へと貶めた」


 邪法。

 その種類・分類は多岐に渡るが、概ね「魔法使いの間で禁忌とされている」魔法の事である。有名なところで言えば死霊術(ネクロマンシー)がその例だ。

 先ほど黒マントが言った通り、賢者の石を人体に直接使用する……しかも肉体に埋め込むなど、禁忌中の禁忌。


「その結果が、貴様の有り様だ。賢者の石が貴様の再生にリソースを裂き過ぎて、正気も保てていないな?」

「AAAA、ぁあああぁあ、ぁぁあぁ……」


 虚ろな眼差し。初めて接触した時のそれとは思えないほど、悪女野風の表情は歪み切っている。


「とぉっても、気持ちがいいの。この石を埋め込んでから、気分がフワフワして気分がいいのぉ」

「…………」

「お腹がとても減っちゃうけれどぉ……子豚ちゃんたちを食べれば直ぐに幸せな気持ちになれるわぁ」


 賢者の石を人体に使用する事が禁忌とされている理由、その1つが()()だ。

 潤沢に魔力を含んだ賢者の石は、人体に埋め込もうものならば、悪女野風のように肉体を怪物のそれへと変貌させてしまう。

 それだけに飽き足らず、賢者の石が宿す膨大な魔力は精神にも絶大な悪影響を及ぼす。


 端的に言うならば、重度の()()()()()だ。賢者の石によって精神を破壊され切った悪女野風は、身も心も理性亡き怪物と化し、食欲という衝動のままに振る舞っている。


 そんな有り様を見た黒マントの脳裏に、魔法を勉強していた3年前の光景が映し出される。


 黒マント──翔が魔女術(ウィッチクラフト)を学ぶ切っ掛けとなった魔導書(グリモワール)

 そこには魔法を正しく用いる為の心得や、魔法の誤った使い方を警告する戒めの言葉が記されていた。

 魔導書の著者自身も、何かそういった経験があったのだろう。この魔導書を読むであろう未来の魔女候補へ向けたメッセージがそこにはあった。


 翔はそうした魔導書の記述に深く感銘を受け、魔導書の著者を尊敬し、1人の魔女術使い(ウィッチクラフター)として著者の意思を尊重しようと心がけている。


 例え会った事が無いとしても、例え言葉を交わした事が無いとしても。

 翔にとって、魔導書の著者は唯一無二の“先生”だった。


 故にこそ、これは。この行いは。


「俺は、貴様の行いを許さない」


 両手に、魔法の道具(マジックアイテム)を強く握り締める。マントの袖からは、今か今かと飛び出す時を待っている道具の数々が見え隠れ。

 黒マントの被る無地の仮面が、狂い切った悪女野風の姿を鋭く捉える。


 その目に宿す感情は──義憤。

 悪しき振る舞いへの、正しき怒り。


「例え法廷まで引き摺ってでも、裁きを受けさせる」


 それでも、黒マントは未だ冷静さを保てていた。


 悪女野風を倒す。その意志に偽りは無いが、殺すかどうかの決断はギリギリまで取っておいていい。

 例え怪物のような脅威であろうとも、ヴィランとは即ち犯罪者である。やむを得ない場合は、その場で殺す必要があるかもしれない。しかし、本来は法に照らして裁判を受けさせるべき存在だ。


「ヴィランめ、覚悟しろ」

「ネズミさぁん、ネズミさんネズミさんネズミさぁん!」


 狂ったように、悪女野風が絶え間なく言葉を投げかけてくる。いや、実際狂っているのだろう。ブワリ、と彼女の全身が膨張し、直ぐにでも肉の暴威へと転じるだろう態勢。

 黒マントはそれに対して怯む様子すら見せる事なく、右手に握り締めていた魔法の道具(マジックアイテム)を投げつけた。


 ガラスのような材質で作られた光る球体。悪女野風目掛けて投げられたそれは、空中で独りでにヒビが入り、やがて眩い光を放ちながら四散する。


「なぁ──にぃ……!?」


 黒マントお手製の閃光手榴弾(フラッシュグレネード)である。

 まるで昼間かと錯覚してしまうほどに激しく放たれる閃光は、悪女野風を一瞬怯ませた。


「“ヒドラのダーツ”!」


 左腕で視界を覆って閃光を防いでいた黒マントは、すかさずマントの袖からダーツを2本取り出し、間髪を入れずに投げ放つ。

 悪女野風の両目を狙って放たれた2本の毒のダーツ。毒が彼女に通用しない事は知っている。通用させる手もあるにはあるが、今重要なのは悪女野風の視界を潰す事にあった。


 閃光を裂きながら飛来する2本の呪詛。1本は左目に命中したものの、悪女野風の左目が瞬時に口へと転じ、ダーツを毒ごと噛み砕く。

 しかし、もう1本は右目の眼球に深々と突き刺さり、一時的にとはいえ彼女の視界を遮断する事に成功した。


 ここから死角に回り込み、再び強力な一撃をお見舞いする。もしくは、力の源である賢者の石を破壊する。

 そう考えていた黒マントの計画は、その直後に破られる事となる。


「ネェ、ズゥ、ミィ、さぁ、んんんんんんんんんん!」


 閃光に目が眩み、右目は破壊されて。それでもなお、悪女野風は前へ前へと動き出す。

 そこに知性なぞ欠片も無く、あるのはただ狂いそうになるほどの快楽に脳を焼かれた獣の本能のみ。


 いつの間にか再生していたらしく、悪女野風は両手をグニャリと変形させていく。10本の指は膨張を繰り返すと、太く硬く、長い長い肉の鞭に転じた。


「私がぁ──食べてあげるわぁぁぁああああぁぁあああぁ!!」


 1本1本が凶器に等しい肉の鞭を、悪女野風は四方八方へ振り回す。

 視界が潰された現状、黒マントがどこにいるかなど悪女野風に分かる訳も無し。故に彼女が取った選択肢は、360度全方位へ乱暴に攻撃を仕掛ける事。

 事実、それは有効な手段だった。


「チッ──暴君(タイラント)め!」


 黒マントは左腕を高く掲げると、袖の奥からアラクネーの糸を上に向けて射出する。ビルの少し高いところにあったパイプに糸が巻き付き、すかさず巻き取りを開始。

 (エワズ)のルーンによって強化されたジャンプと併用すれば、たちまち黒マントは空中へと躍り出る。


 悪女野風が縦横無尽に振り回す10本の暴力によって、アスファルトやビルの壁は砕け、窓ガラスが破砕されていく。

 黒マントはビルの壁を蹴り、近くの突起物へ糸を打ち放つ。それを繰り返す事で、まるで空を飛んでいるかのように鞭の暴威から逃れていた。


 時折吹っ飛んでくる瓦礫を避けながら、有効そうな道具の数々を吟味する。


(ハガラズ)……いや、(イサ)か…………っ!?」


 しかし、それにも限界があった。

 死角から飛んできた鞭の一撃に対処し切る事叶わず、黒マントの土手っ腹に直撃。そのまま、地面に勢いよく叩き付けられた。


「ガ──ハッ……!?」


 仮面の裏側から血が噴き出る。黒マントが吐血したのだ。

 衝撃で地面をバウンドする黒マントの身体。しかし彼は諦めない。バウンドによって鞭が自分の身体から離れた一瞬の隙を突き、アラクネーの糸を近くの突起物に引っ掛けて離脱した。


「そぉ、こぉ、ねぇええええぇぇえええぇぇえぇ!?」


 ぼやける視界で見てみれば、悪女野風の右目は修復されている様子。奥底まで濁り切った悪女野風の両目が、ボロボロになりながらも離脱した黒マントの姿をしかと捉えている。


 ズザザ、と音を立てて着地する黒マント。ローブマントには無数の砂埃が付着し、仮面は己の血で赤く染まっていた。

 肩を上下させながら荒く呼吸を繰り返す。先ほど焼いて止血した腹部の傷がまた開いたらしい。ローブマントの上まで染み込んでくる赤色の液体を押さえながら、それでも黒マントは悪女野風を睨みつけていた。


(まだ勝機はある……マントに備え付けてある緊急時用の術式は作動している……)


 黒マントが纏うローブマントには、ある仕組みがあった。

 作成時に(エイワズ)のルーン文字が織り込まれており、着用者が死の危険に晒された際に傷の治癒を施すよう術式が組まれているのだ。

 (エイワズ)のルーン文字が司るものは(イチイ)の木、そして死と再生。再生、つまり治癒の権能は、相対する属性である「死」が近付いた時に最も強く作用する。


 つまり、黒マントはまだ戦えるという事だ。しかし、それも長くは続かないだろう。

 マントの治癒術式にしても、完全に傷が癒えるまで悪女野風がチンタラ待ってくれる訳も無し。


 黒マントは血の滲むマントの奥へと手を伸ばし、あるものに触れる。それが無事である事を確認して「良し」と頷きを1つ。


「押し通る」


 砕かれたアスファルトの地面を強く踏み締める。力んだ事で傷口が更に開くが、気にしている場合ではない。

 こんな時でも(エワズ)のルーンは正常に作動し、術者である黒マントに前へ駆け出せるだけの脚力を与えた。


「ネズミさぁん、ネズミさぁん! 早くあなたのお肉を食べさせてぇ!」


 ボコボコと悪女野風の肉体が膨れ上がる。最早、腕だ髪だという問題ですらない。

 爆発するようにして悪女野風の全身が弾け飛び、全身を構築する筋線維、血管、骨までもが触手として放たれた。

 それら全てが先端に牙を持ち、標的たる黒マントを骨の髄まで喰らい尽くさんと迫ってくる。


 黒マントはそれに臆する事なく。ただ前へ、前へと突き進む。

 時にアラクネーの糸で回避し、時にミスリルの鎖で縛り付けて。または適当なルーンカードを押し付けて動きを止める。


 しかし、スーパーパワーを持たない黒マントではそれらの暴威に完全には対処し切れない。

 次第に1本、また1本。無数の触手は、黒マントの肩やわき腹をマントの上から引き裂いて咀嚼していった。


 それでも黒マントは走り続ける。ただ前へ、前へと突き進む。


「ぐっ……ぐはっ……! そ、そんなに喰いたいのなら……」


 そして、跳躍。アラクネーの糸を使う事なく、ルーンによる脚力強化のみで地面を蹴り飛ばして跳び上がる。

 全身から血が噴き出る。それがどうした、まだ動けている。黒マントの意志は硬い。


 黒マントは空中を滑空するように落下しながら、マントの袖の深淵より1つの小さな小瓶を取り出した。

 見るからに毒毒しい色の、ドロドロとした粘液めいた液体。それが収まった小瓶を、黒マントは右手に強く握り締める。


()()()()()っ! ただし──」


 落下する黒マントの到達地点。それは悪女野風の肩。

 黒マントが自ら飛び込んでくる事を知った悪女野風は、喜びの感情を露わにして、その大きく変形した口を開ける。


 対して黒マントは、大きく股を開いて彼女の両肩に着地すると、その勢いを殺す事なく右手を振り上げた。その手に握られているのは、怪しげな液体で満ちた小瓶。


「腹を壊しても知らんぞ!」


 ズボリ。大きく開かれた悪女野風の口へ目掛けて、黒マントの右腕が突っ込まれる。

 小瓶を彼女の喉の奥へと叩き落し、黒マントは無数の牙で傷つきながらも強引に右腕を抜き取った。


 勢い余って悪女野風の肩から転げ落ち、背中から地面に衝突する。

 血は全身から流れ出て、術者の死を警告するかのように(エイワズ)のルーンが治癒術式をフル稼働させていく。


 ゴクン、と小瓶を飲み込んだ悪女野風。彼女の目の前には、力無く横たわる黒マント(ネズミ)の姿。

 ようやく食事にありつける。そう認識した悪女野風は、大きく牙を剥きながら口を開き──


「──ガ、あぁあっ!?!?!?!?!?」


 激しく吐血した。

 何が起きたのか理解できない様子の悪女野風。しかし、そんな彼女を嘲笑うかのように喉から込み上げくるのは、焼けるような痛みと血。

 ボロボロと崩れていく触手。立っている事すらできず、その場に座り込んでしまう。


 血を吐き出して、血を吐き出して、血を吐き出して。それでも苦しみが癒える事は無い。

 快楽すら湧いてこない。あるのはただ、全身が焼けるかのような苦痛。


「い、一体……なぁに、がぁ……」

「き、さまが、飲み込んだの、は……」


 声がする。下から聞こえてくる。目線を下に向ける。

 黒マントだ。仰向けに倒れ、指1本動かせない状態にありながら、黒マントが言葉を紡いでいた。


「貴様が飲み込んだものは……俺がダーツに塗っている毒……その、()()、だ……!」


 彼が一体何を言っているのか、理解する事ができない。理解できるだけの知能は、既に賢者の石に奪われていた。

 それでもなお、黒マントは子供に勉強を教えるかのように言葉を続ける。


「4種類の毒草から抽出した毒素を、毒蛇の怪物ヒドラが持つ毒と混ぜ合わせて……儀式を以て呪詛を含ませた……普段は希釈して使用している、が……」


 ググ、と黒マントの首が僅かに上がる。

 ボロボロになりながらも、仮面を血で深紅に染めながらも、1歩も動けず倒れていても。

 黒マントは今もなお、悪女野風に立ち向かわんと対峙しているのだ。


魔女術(ウィッチクラフト)の深奥、魔女の呪詛毒……解毒してみろ、その粗雑な賢者の石でできるものならなぁ……!」

「ネェェェェ、ズゥゥウウゥウゥ、ミィイイイイイィイィィィイィ!!」


 血みどろになった悪女野風が、右腕を振り上げた。グズグズになった右腕が鋭い鈎爪へと変化する。

 そのまま行けば、悪女野風の鈎爪は黒マントの肉体をマントごと引き裂いて、死に至らしめただろう。


 しかし。


「────?」


 ふと、悪女野風は顔を上げた。

 それは果たして、自らへと迫り来る脅威を鋭敏に感じ取ったからか。


 彼女の目線の先。そこにあるのは、路地裏の出口。

 最早夕日は地平線の彼方へと消え去り、夜の帳に包まれた向こう側から(きた)る影1つ。


 影は大きく跳躍すると、黒マントを悠々飛び越えて悪女野風の懐へと飛び込んでいく。


「あの時とは逆だね。よく頑張りました」


 自らの上を飛び越えていくその()()からかけられた言葉。

 黒マントは──翔は、その声に聞き覚えがあった。その姿に見覚えがあった。


 迷彩柄のダウンベストと、その上からも際立つ豊かな双丘。栗色のポニーテールが揺れる顔立ちは、翔と同年代の少女らしいもの。

 そして何よりも。その両手に握られた──翼を模った柄の双剣。


「あぁ、なたぁ、はぁ……子ぶ──」

「黙ろうか」


 恐るべき悪女野風(ヴィラン)へと刃を向けるその眼差しは。紛れもなく、正真正銘の──


「“パラサスパイラル”!」


──英雄(ヒーロー)の在り方。


 少女が腰を捻り、空中で回転しながら放った双剣の連撃は、一瞬と見紛う速度と精度で悪女野風の全身を切り裂いた。


「あぁああぁぁああぁぁぁぁあああぁぁああぁ!? AAAAAAAAAAA────」


 グッタリ、と。その場に崩れ落ちる悪女野風。

 華麗に着地した少女は、()()()とは違い、倒れ伏す悪女野風に対して警戒を怠らない。


 剣の血を払い、しかし納刀はせずに。戦闘不能状態のヴィランから目を離す事なく、少女はゆっくりと口を開いた。


「ごめんね、来るのが遅くなっちゃった」

「あ……な、た、は……」

「ああ、喋っちゃダメ! 直ぐに教授が来るから、教授に治療してもらわなきゃ!」

「あなた、は……」


 ゴホゴホと血を吐きながら、黒マントはそれでも声を振り絞る。


「プテラ、ブレード……?」

「うん、その通り。あの時の借りは返したよ、“怪人黒マント”君」


 黒マントの窮地に駆け付けた人物。

 それは、かつて黒マントと共に悪女野風と交戦したヒーロー、プテラブレードだった。


「ごめんな……さい。ありが、と……う……」

「しゃ、喋っちゃダメだって!? あたし治療の心得とか無いんだから、教授を待たないと……! ああもう、教授とジャックさんは何やってるのさ!」


 忙しなく動き回るプテラブレード。それでも悪女野風への警戒を緩めないのは、流石ヒーローと言ったところ。


 その内、黒マントの意識は段々ボンヤリとしてくる。

 マントに施した(エイワズ)のルーン魔術は、今も最大出力で黒マントの傷を癒している。当然ながら、死と再生を司るルーン文字はこの状況を「最も死に近い状態」と認識していた。


 薄れていく意識。掠れていく視界。遠ざかっていく聴覚。


「教授! ジャックさん! こっちこっち! 早く来て!」

「これは……! 教授、警察の機動部隊が後から来ます。彼らに託して、彼を急ぎ警察病院に……!」

「……イヤ、待ち給エ。この魔力反応、術式が働いているのカ。それに彼の事を考えると、やはリ……」


 誰かと誰かが何かを話しているが、それを気にしている余裕も最早無い。

 その数秒後、黒マント──翔は意識を手放した。

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