女王と密会
そして翌朝、転移で城まで向かった。
早朝だったので、警備の人とか少ないかなと思っていたが、そんな事は無かった。
むしろたくさんの傭兵が、厳重に城の警備をしている。
「えっと、女王と会う約束をしていた南條 雪哉という者ですが」
「南條……あぁ、悪魔の勇者ですか。女王までたぶらかしてる奴……!」
城の門番をしている傭兵に、道端に落ちているゴミを見るかの様な目を向けられる。
何だよコイツ……!
女王の客人を悪魔だの、たぶらかしてるだの言って貶すなんて……
門番失格だぞ。
「え……そんな事、言わないで……よ」
「っ!」
男でもメロメロにしてしまう、ゆきや様の顔を見たか!
角度35度の下から目線!
その上、泣きそうなウルウルボイス!
「おにいちゃ……僕、誰もたぶらかしてなんかないよぅ」
「え……かわいい……!」
「へ?」
可愛い発言、いただきました!
俺のこと、可愛いって言ってくれでありがとな!
ほらな、俺ってかわいいだろ? な?
ヤバイ……調子乗って言ってみたけど、虚しくなってきたわ。
泣きそう。
「え、いやぁ、何でもないよ。ごめんね、悪魔なんて言って……! 今、中に入れてあげるから!」
「ありがとう! おにいちゃん♡」
「うっ! 可愛すぎて心臓に悪い……!」
チョロいな。
それで城の中に入れてもらい、女王に会いに行った。
「よぉ、女王。久しぶりだな」
「久しぶりね、雪ちゃん」
「ちゃんはやめろ」
「まぁまぁ、それより今日来てくれたのって、」
「ゼンから貰った手紙についてだ。俺についてしつこく聞いてきた勇者がいるってな」
「そうそう。あの北村と樹上って勇者の事よ。一番貴方が良く知ってるでしょ?」
北村茜……本当俺に絡んでくるよな。
うざいんだが!
大輔も調子乗ってるクズだし。
「まぁ俺の事はノーコメントでよろしく」
「元よりそのつもりよ。でも、変なのよね」
「たしかに、お前の事を躊躇いもなく殺そうとしたなんて、考えられんな……」
「考えられないわね。たかがそんな事で人を殺すなんて……」
「裏に何かいそうだよな。とりあえず、あいつらの事は、執拗に監視しておいてくれ」
「任せて〜」
「じゃあ、帰る」
「あ、あと、ゼンくんについて何だけど」
「あ?」
「しっかり働いてくれてるわよ。じゃあまたね、私の彼氏」
「あ、あぁ。彼氏のふりだがな」
そして転移で宿屋へと帰った。
「ただいま」
「お帰りなさいませ、マスター」
「お帰りなさい!」
部屋に帰るや否や、玄関でエレナとアリスが出迎えてくれた。
まさか、俺が部屋を出てからずっと玄関で待ってたのか!?
「君たち……いつから玄関で待ってたの?」
「え? ご主人様が部屋を出てからですが」
「いや、普通にくつろいでてよ」
「奴隷がくつろぐなんて事、できません!」
「はぁ……何でそんな自虐的なの?」
「マスターが優しすぎるんだよ!」
「そう?」
まぁ、俺が優しすぎるのには同感。
かわい子ぶってるからな。
でもなぁ、奴隷って単語……好きじゃないんだよな。
奴隷って英語で何て言うんだっけ?
確かアニメでは……
「……サーヴァント」
「へ?」
「あぁ、僕の世界で奴隷の事をサーヴァントって呼ぶんだよ。後、従者って意味もある。」
「従者何てそんな……滅相も無いっ!」
「だから何で自虐的なの!?」
「確かに……私は奴隷よりも従者の方が良いです!」
「アリス! 奴隷が出しゃばらないの!」
エレナは奴隷について、差別意識が高すぎるな。
まぁ、この世界の奴隷使いにろくな奴がいないかはだろ。
仕方無い……
この手を使うしかなさそうだ。
「じゃあ命令だよ。自分の事を奴隷と言わないで」
「え!? そんな……!」
「何? マスターの言う事が聞けないの??」
「え……」
「良い? よく聞いてね、エレナ。僕が魔王になったら、君たちは僕の臣下になる。だから今のうちに、奴隷と主人じゃなくて、従者と魔王の関係を築いて行かなきゃいけないんだ」
「な、なるほど!」
「ほら、分かったら今日もダンジョン行くよ」
「了解ですっ!」
「えっ! ちょっと待ってください!」
「置いてくよ〜」
「待ってくださいよっ!」
こうして今日もダンジョンでレベル上げをした。
名前:南條 雪哉
職種:勇者Lv.68
魔法適性:All Lv.50 闇魔法:Lv.150
闇魔法のレベルは上がりやすいが、勇者と他の魔法のレベルは上がりづらいな。
というか、闇魔法のレベルが異常なくらい高くなってしまった!
サーヴァントの二人も、闇魔法のレベルが100を超えたそうだ。
「二人とも、今日は20層まで行ってみる?」
「え? 良いのですか? いつもは、20層より深く行くと危険だからって……ボスも強いモンスターになるらしいですし……」
「全く……エレナは慎重すぎるよ! マスターも超強いし、大丈夫だって!」
「アリスは能天気すぎますって……」
「まぁいざとなったら、僕を見捨てて逃げていいからね」
「「逃げません!」」
「へっ?」
何かすごい威圧感を持った目で睨まれた。
何でだよ!?
「もし危険な状況になったら、マスターこそ私達を置いて逃げて行って下さいね」
「マスターは私が守るから安心してて大丈夫だよ」
「あ、ありがとう、二人とも……僕も頑張るよ」
「あははっ! マスター、可愛い!」
「ほ、ほら 行くよ!」
20層に着いたは良いものの……
罠はおろか、魔物が1匹もいない!
流石におかしくないか?
「ねぇ……何か妙じゃない?」
「……確かに……1匹も魔物をみていません」
「マスター、生物探知に何も引っかからないです」
獣人族は、生物探知というスキルを持っている。
半径100メートル以内に存在する生物を探知するというスキルだ。
だが、その生物探知にさえ何の生物反応も起きないとは……
ここはダンジョンだぞ? 何故魔物がいないんだ?
「あっ! マスター! 」
「どうしたの? エレナ」
「ボス部屋の前に誰かいますよ」
「それは人間か?」
「恐らく……」
「まぁ、人間だろうと殺しちゃえば同じだですヨ!」
「アリス……人間をむやみに殺しちゃダメだよ」
「冗談ですって」
冗談には聞こえないぞ……アリス。
まぁ、そんな事よりもボス部屋の前に誰がいるかが問題だ。
20層まで潜れる奴なんて、勇者以外にはほとんど……
「お前! たぶらかし野郎だなっ!」
「っ!?」
「へぇ〜 悪魔の勇者が20層まで何で来てるの? 死んじゃうって〜 早く地上に戻りなさいよ」
北村ァァァ! 樹上ぇぇぇ!
お前らこそ何でいるんだよ!?
こいつらマジで付き合ってんのかっていうくらいずっと一緒にいるよな、お前ら。
とりあえず、可愛いく話そう……
「あ、どうも〜 北村さんと樹上さんっ! こんな所で会うなんて、偶然だね!」
何でこいつらここにいるんだ?
ここは中級ダンジョンだから、お前らのレベルではすぐ死ぬぞ。
「フン、でも私達の方がボス部屋の前に早く来たんだから貴方達は引きなさいよ」
「それはできないよ。僕らもボスと戦いたいもん」
アリスは何故さっきから無言なんだ?
少し気味が悪くなって来た。
「なら、俺らのパーティ対南條のパーティで勝負だ! でも可哀想だな…… 俺のパーティは七人だけど、お前らのパーティは三人なんだから!」
「さっきから黙って聞いていれば、マスターに向かって何という口の利き方! 身の程をわきまえろ!」
エレナは、茜と大輔の態度に相当苛ついた様で、きつく反論をしている。
「あぁ、貴方も雪哉に騙されているのね。可哀想そうに……」
「騙されてなどおりません! まだ二週間しかお側におりませんが、マスターが立派な事は分かっています!」
「はぁ? 南條が立派? ないない、こいつはただのチャラ男だって! 顔だけが取り柄のクズだ!」
「おい……」
あ、アリス?
とても可愛らしいアリスの顔が、酷いことになっている。
アリスは殺意のこもった目で、茜達を睨みつけていた。
「マスターは、君らより強いし、格好良いし……クズだなんて言われると凄くムカつくんだけど」
「っ!?」
アリス!?
何があった、アリス!
アリスがそんな怖い事を言うなんて!
「まぁ、良いわ! 今ここで殺せばいいし!」
「アリス……殺しちゃダメだよ?」
「マスター、こいつらムカつかないの? いい様に言われてさ、マスターも少しは反論してくださ……」
「だって茜も大輔は、エレナとアリスよりブスだもん♡ ブスに何言われたって僕は構わないし」
「何よ、雪哉!」
「あ? 俺のがお前より格好良いからな 」
あ、すみません。
茜達を怒らせてしまいました。
でも、良いよな。こいつら今からぶっ飛ばすんだし!
「じゃあ、早速対決と行こうぜ。雪哉」
「望むところだよ☆ エレナ、アリス! 殺さない程度にぶっ殺すぞ!」
「はい、お任せ下さい」
「うん、ぶっ殺してやる♡」
「じゃあ、行くぞ。試合開始!」
試合開始早々、大輔が馬鹿正直に剣で切り掛かってきた。
本当馬鹿なの?
こんな攻撃、防御魔法ですぐに止められるぞ?
「我に取り巻く闇よ、今こそ守れ……」
「じゅ、呪文?」
『絶対魔法反射』
「ぐぁぁあぁあぁ!」
魔法が発動していると気付いていても、殴り掛かってきた大輔は、自分の攻撃の反射を受けた。
どれ程力を込めて切り掛かったのか知らんが、胸から大量の血が出ていた。
血飛沫がすごい。
「大輔ぇぇぇぇぇ! 大丈夫!?」
「余所見は厳禁だよ、北村 茜」
「はっ、しまった!」
アリスと鍔迫り合いをしている最中に余所見をした為、茜に隙が生まれてしまった。
「闇の炎よ……我の敵を焼き尽くしてしまえ……」
「っ!」
『大炎球闇!』
「あっつい! 熱い!熱い! あつ……」
そして茜は雄叫びをあげて、意識を失った。
アリスは楽勝だったな。
さて、エレナの方はどうかな?
「皆様、覚悟して下さいね」
「望むところダァ!」
「受けてやるぜ!」
「我の身体を鋼で包みたまえ……」
「鋼の肉体」
「身体に付与魔法だと!? 闇魔法か!」
「闇魔法など、光の勇者である我らに効くわけないだろ!」
「じゃあ、遠慮なくかかってどうぞ」
「あぁ! 女だからって容赦しねぇぞ!」
「うぉぉぉぉ!」
そして五人一斉に切り掛かってきた。
しかし……
ガキン
「なっ!」
切り掛かった全員の剣が折れてしまった。
やっぱり防御魔法には勝てないよなぁ、普通の剣じゃ。
「そんな……」
「オレの聖剣がおれた……」
聖剣? 馬鹿じゃねぇの?
見た所お前らの剣、魔法の付与さえされてないぞ。
なのに聖剣って……
「ではこちらから行かせてもらいますよ」
そこからはエレナの独壇場と化していた。
剣を失い、抵抗力のない人間どもをエレナが斬っていく。
死なない程度にと言ってあったが、こんなに血を流してちゃ死んでるかもな。
まぁ、いいか。
この鎌は血を吸うと強くなるし、死体の後処理をさせよう。
すると斬り尽くして満足したのか、エレナが満面の笑みで戻ってきた。
「全員切り刻みましたよ、マスター」
「私も! 茜っていう勇者、ぶっ倒した!」
「アリスはともかく……エレナ。殺すなって言ったんだけど」
「はっ! 申し訳ありません! マスター!」
「いや、いいよ。この鎌に血を吸わせるから」
「でも、なんか変だったよね。あの勇者達、目が正気っぽくありませんでしたよね」
「そうだね。前にあった時より、狂ってるよ」
「確かに……彼らを支配している奴が後ろにいそうですね」
「……まぁ、その時はその時で考えよう。んで、どうする? ボス部屋に行く?」