悪魔の勇者
女王に別室に連れてこられた俺は、色々と質問を受けた。
「本当に魔王を目指すんですか?」
唐突に女王が聞いてきた。
なんだ、その事か。
てっきり、北村 茜とクロエの嘘をどうやって見破ったかとかを聞いてくると思ったんだが。
「はいっ! 魔王ってカッコいいじゃないですか!」
「へぇ〜」
すると女王は、おもむろに椅子から立ち上がり、俺の方に迫ってきた。
え……?
殺されたりしないよな?
大丈夫だよな?
「えっと、女王サマ?」
ドン!
「ひっ!」
何故か壁ドンをされました。
普通、壁ドンって男子がやるものだろ!
「その下らない演技……やめてくれない?」
「え? 演技?」
「可愛い子ぶっちゃって……気付いてないとでも思ったわけ?」
「……バレてたのかよ」
すると、女王は後ろで三つ編みで結んだ髪を掻き下ろし、羽織っていた豪華なマントを脱いだ。
「なっ!!」
女王様は、国の王とは思えない、短いスカートをはいていた。
「お前、本当に王女かよ……」
「まぁ、表にこの格好で出ないしね」
「てか、何で俺の演技に気付いたんだ?」
「まぁだてに王女やってたわけじゃないのよ」
「あっそう」
「雪哉クンは、この先も一人でやってくつもりなのかしら?」
「ああ」
「じゃあ多額の資金援助してあげるから、」
「お前が裏じゃ、めっちゃ遊んでるってこと黙っとけと?」
「そういうこと。貴方が約束を破らなければ、貴方の演技の事を黙っといてあげるわ」
「そりゃどーも。じゃあ俺は行く。あ〜あ、今頃王都は、俺の悪い噂で持ちきりだろうな」
「でしょうね。なら私のお気に入りって事にする? そうすれば平民は近づいてこないわよ?」
「俺がお前に気に入られてるように見せるって事か…… まぁそうすれば喧嘩を迫ってくるような馬鹿も簡単には近づいてこねぇしな。のった」
「交渉成立ね。どうぞ、黄金貨10枚よ」
女王は白い袋を渡してきた。
黄金貨10枚……100万か……
「また近いうちに来る」
「暇だし、いつでも待ってるわ」
そして城を後にした。
王都を散策してるんだが、ぶっちゃけ何をすれば良いか分からない。
香月堂じゃない他の宿屋でも探すか……
そう思っていたところに、
「奴隷はぁ、奴隷はいかがですか!」
と、スーツの女に声をかけられた。
「今なら、獣人族が黄金貨2枚、エルフが黄金貨3枚で買えます!」
ああ、アニメや漫画で良くある奴隷か……
興味はあるけどな、弱い奴はいらないんだよ。
それに愛玩目的だけしか使えない奴なら、マジでいらん。
「お姉さん、奴隷って戦えるの?」
「戦闘用から愛玩用までどれでもあります!」
「うーん……じゃあ見てみようかな」
「そうと決まれば、店に来て下さい! こちらです!」
案内されたのは、ホテルの様にシャンデリアがある建物。
全然汚くない、むしろ綺麗だった。
イメージと違うね。
ロビーにゴージャスなソファーまである。
奴隷ってマイナーなイメージがあるけど、この世界は違うのかもしれない。
奴隷店には色んな奴隷の種類がある様で、買い手の嗜好によって、買う奴隷は違うらしい。
そして俺は一番奥の部屋に案内された。
「なっ……」
そこは牢屋の様になっていて、様々な奴隷が檻に
閉じ込められていた。
囚人が入る牢屋みたいだな。
先程までの華やかさは何処に行ったのやら。
「おじさん、ここにいる奴隷はいくつでま買っていいの?」
「どうぞどうぞ。ここの奴隷は基本黄金貨2枚です」
20万円くらいか……ならとりあえず1人買っておこうか。
城にスパイを付けておきたいしな。
「じゃあこの牢屋に入っている奴隷を買うよ」
「承知しました」
俺は適当に、近くの檻を指差して言った。
すると、何処からか大柄な男性達が出てきて、奴隷達を牢屋から引っ張り出して行く。
「いてーよ!」
どうやら性別は男男で、10代の様だ。
泣き喚いていてうるさい。
「この牢屋に入っているのは、人族の14歳、男子で ございます。そして執事として王族に仕えていた経験があります」
「買います。黄金貨2枚ですよね」
「そうですよ。勇者様は奴隷を何の為に使うのですか?」
「オレの事を勇者と知っているってことは、女王様から何か仕込まれていたんですね」
「おっと、失言でした」
やっぱりな、俺に奴隷を買わせるよう、女王が仕向けたのか……
でも、まぁいい。
これで堂々とスパイを送り込める。
「奴隷の男子1人で黄金貨2枚です」
「どうぞ」
俺は懐の袋から黄金貨2枚を取り出し、渡す。
「6枚、ぴったりいただきました」
「ありがとう、また来るね★」
「ぜひ、また来て下さい」
それから奴隷契約を結び、俺に奴隷ができた。
うわっ、20万円も出費してしまった……
まぁ後で女王に金を貰いに行こう。
今はとりあえず、宿屋を探さないとな。
クロエ……あのクズ野郎に紹介された宿屋なんて泊まりたくないし。
「あの……」
「何かな?」
宿屋を探しながら歩いていると、先程買った奴隷に声を掛けられた。
よく見ると、整った顔立ちだなぁ。
この世界って美人率、本当に高いと思う……
「ご主人様は、何の為に私達を買われたのですか? それに、隷属の証である首輪を付けさせないなんて……」
「え、だって隷属の首輪ってただの証であるだけであって、君達を制御する為に必要なのは奴隷紋でしょ? 無駄な出費はしたくないからね」
「せ、世間体とかは気にしないのですか? 奴隷の多さは富の多さって言いますし…… 首輪が無いと誰が奴隷なのか分からないので、自分を良く見せられませんよ」
あれ。この子、自分が愛玩目的で買われたと勘違いしてない?
俺は城へのスパイと自身の護衛の為に買ったんだが……
てか、愛玩目的なら男子は買わないだろ!
「何か勘違いしてるんじゃない? オレは自分を良く見せたいが為に君を買った訳じゃないよ。また、愛玩目的でもないんだ」
「え? では何の為に……?」
「単刀直入に言うね。君達にはルーラウス城で働いてもらう」
「ええ!? 城で?」
「そうだよ。君に女王の執事をさせる事にしたんだ。まぁ、主要目的は女王の監視だね」
「本当ですか!?」
「うん……何か嫌だったかな?」
すると彼が膝をついて忠誠のポーズし始めた。
えっ待って!? ここ道路!
「ご主人様の命を全うします。このご恩は一生忘れません!」
こういう時って俺……何て言えばいいの?
ここは可愛い系男子っぽい発言をして、乗りきろう!
「オレに忠誠を誓ってね♡」
「はいっ!!」
お主、良いのか? それで。
俺なんかに永遠に忠誠を誓うと約束してしまっているけど!
「じゃあ今日は宿屋に泊まろうか」
「え? 」
「宿屋ですか?」
「俺は、地面で寝れますよ!」
「え、ダメだって! とりあえず宿屋に行くよ!」
なんとか奴隷を説得し、宿屋を見つけるまでに約一時間かかってしまった。
泊まる宿屋は河川宿屋といい、香月堂よりも豪華な場所だ。
どうやって見つけたかというと……
街にいた奥様方にかわい子ぶって接近し、この宿屋の存在を聞き出したのだ。
一泊2日で銀貨5枚…… 安いな。
世界共通のルールで、奴隷の分のお金は払わなくてもいいらしい。
その代わり、奴隷へのサービスもないのだとか。
随分なルールだな。
でもそのおかげで安く済んだ。ラッキー!
とりあえず、2つベットがある部屋を選択する。
まぁ、明日は奴隷の服を買って、女王に話を付けに行こう。
「あ、君、シャワーを浴びてきなよ。それから今後の話をするよ」
「え、シャワー?」
「いちいち驚かなくていいから。浴びてきな」
「は、はい」
とりあえず、シャワーを浴びるまで、黒魔術の本でも読んで待っていよう。
はぁ……ぶりっ子しなくてもいいのは気が楽でいいな。
俺の奴隷なんだから、気を使わなくても良いし。
15分後、シャワーを浴び終わった様で、俺の前に正座してきた。
「じゃあ今後の話をする。いいな?」
「は、はい」
「何かご主人様、外での雰囲気と違う……」
「あー、外では適当にぶりっ子ってるだけだから。気にすんな」
「あっ、はい」
「俺は南條 雪哉。性が南條で、雪哉が名前な。さっきも言った通り、男子三人には城で働いてもらうから。言っておくが、お前らが働いた分の給料目当てじゃない。城のスパイをしてもらう為だ」
「スパイ?」
「ああ。この国は腐ってるし、女王もビッチな奴だから信用できない。一週間は俺がお前らのレベル上げの面倒をみてやる。だが、俺も天使狩りに備えたいから、結構ハードなレベル上げになるぞ」
「と言うことはまさか……!」
「俺は勇者だ。しかも最近噂になっている悪魔の勇者」
「随分、噂と違う方ですね」
「まぁ、北村っていうクソ勇者に広められた、嘘の噂もあるからな。俺は女なんてたぶらかしてないし、興味もない」
「そうなんですね」
「だけど俺は、本気で魔王を目指してる。最強の魔王になりたいんだ」
すると、奴隷がいきなり立ち上がって、俺の手を取った。
ん?どうしたんだ?
「私はご主人様に永遠について行くと決めました。なので、私はご主人のご意志を一番に尊重したい。だから執事として、女王のスパイになります」
「あ、ああ。分かった。俺はお前らに手をあげるつもりも無いし、働けば報酬もくれてやる。俺の為に働け」
「はい!!!」
「じゃあ今日は、ベットで寝ろ。俺は適当にソファーで寝る」
「え、でも……」
「いいから寝ろ。あ、そういえばお前らの名前を聞いていなかったな、教えろ」
「え…… 名前など、ありませんよ」
「え? まじで?」
「はい。大抵、奴隷に名前などありませんよ」
「そうなのか…… でも名前が無いと不便だよな。はぁ…… 俺が明日までに考えておくから、今日は寝ろ」
「私に名前がつくのか……」
「俺の事はマスターでいい。じゃあ寝ろ」
「はい」
こうして、奴隷達は大人しく寝た。
あー、名前どうしよう……
異世界の名前なんて分からん!
でも、欧米っぽい姓と名前をつければいいか!
こうして、奴隷達の名前が決まった。
ステータス 奴隷
○ 名前:ゼン・ルイス
種族:人族
年齢:14歳
性別:男
職種:隷属(南條 雪哉)執事Lv.26
魔法適性: 闇属性Lv.35
スペシャルスキル:魔王の加護