裏切り
そして、召喚されてから二週間が経ち、一般的に一人前の冒険者と言われるレベルまで成長した。
職種:勇者Lv.45 モデルLv.138
魔法適性:All Lv.30 闇属性魔法:89
何故か闇属性魔法のレベルの上がりが早く、内心驚いている。
普通、闇属性魔法のレベルは上がりづらく、Lv30 に行けば一人前の黒魔術師らしいけど……
まぁ、あの鎌のお陰かな。
闇魔法は、身体強化や俊敏強化など自分の身体に付与できる魔法も多い。
だから俺はすごくラッキーなのかもしれない。
今、俺達は何処にいるのかというと……
「グワァ!」
「「ギャーーー!」」
ダンジョンに来ている。
「後ろからゴリラみたいな魔物が追いかけて来るんだけど!?」
「茜ちゃん、逃げるよ!」
「お二人とも、口より足を動かして下さい!」
「グゥアァァア!」
「キャーーー!」
「俺が足止めするっ! 二人は魔法の援護を!」
「分かったわ!」
「了解しました!」
「命ずる! あの物の生命の根源を吸い取れ……」
「ブラックホール!」
「グゥアァァアアァァァ!!」
もう少し粘ると思っていたが、ゴリラはあっけなくブラックホールに吸い込まれていった。
危なかったわ……
「クロエ、俺達……出番なかったわね」
「仕方ありません。チート級の強さを持つ方が一人いらっしゃいますから……」
「何かごめんね……」
「とにかく戦利品を貰って今日は帰りましょうか」
「そうねっ、宝箱からポーションも手に入ったし」
「転移で帰ろうか。俺の近くに集まって〜」
「はーい」
「じゃあ行くよ〜 」
「転移」
こうして俺らはダンジョンから王都へと戻った。
俺達は変わらず、香月堂に泊まり続けている。
一つ変わった事があるとすれば、ついに一人で部屋に泊まる許可された事かね。
どれだけあの二人に部屋を分けてくれと懇願したものか。
なかなか許可してくれなくて大変だったわ……
「ハァ……」
ため息をつきながらベットにダイブする。
最近は本当に大変だった。
買い物に行くだけで目立ってしまう。
全てこの美少年すぎる顔のせいだっ!
そのせいで色んな女の人から声を掛けられ、一部の男性勇者から嫌われている。
街でタイマンを迫られた事だってある……
今はマントに認識阻害の付与をしているから大丈夫だけれど、フードを脱ぐと効果が無くなってしまうから厄介だ。
そういえばステータスを見ていたら、一番下にスペシャルスキルというのがあるのに気づいた。
スペシャルスキル:魔王の加護
スキルの意味は分からないけれど、魔王様の加護が付いている事がわかった。
誰にも言っていないけれど、この加護のお陰で闇の魔法の成長速度が早いんだな。
嬉しいけれど、結構厄介な加護だね。
明日は女王から召集がかかっているので、城へ再び行くことになった。
何か自分のレベルをみんなの前で発表するそう。
面倒くさい……
今日はもうやる事がないので、寝る事にした。
翌朝、朝一で城に向かった。
王都はまだ何処の店もオープン前で、いつもの活気がないのは、結構な違和感がある。
「王都に活気がないのは、何か珍しいわね」
「まだ早朝ですから」
「そういえば雪哉は三つ編みを作ったのね」
「うんっ。三つ編みってカッコいいじゃん!」
「可愛いの間違いでは……?」
「ねぇ、雪哉って女王の事好きなの?」
「ふぇっ!?」
「そうなんですか?」
「ちなみに何でそう思ったの? 茜ちゃん」
「だって前に女王と会った時も三つ編み、作ってきたじゃん!」
何か茜ちゃん、俺が女王を好きだと思っているみたい……
美人とは言え、流石に初対面の女性を好きにはなれないぞ……!
どうしよう……
ここは上手く濁しておく……?
女王に上手くとりいったら、玉の輿だしな!
「どうなんだろ、分からないなぁ」
「えっちょっ、ハッキリしなさいよ!」
「えー 分からない物はわからないもん!」
「では、雪哉は彼女が欲しいですか?」
「別にいらなーい」
「じゃあ女王の事はどう思ってるの?」
結局そこに逆戻りかーい!
でも、ここで女王なんてなんとも思ってないよなんて言えないわ!
女王に嫌われたら、一貫の終わりだし!
あ、普通に美人だねって言っておけばいいか!
「美人な方だなって感じ?」
「なっ! 本当にそう思ってるの!?」
「うん……」
「あっそ! 私、先に城に行ってるから」
「えっ……」
何か修羅場ってる!
何かいけない事、言っちゃった!?
「クロエちゃん、何で茜ちゃん怒ってるの?」
「俺も分かりません」
「……仕方ないから、二人で城まで行こうか」
「そうですね」
城に着くまで、自分の発言に失礼な部分があったか考えてみたが、全く心当たりがなく、結局分からずじまいになった。
城には既にたくさんの人が集まっていて、端っこに茜ちゃんもいたけど、怒っている様だったので話しかけないでおいた。
以前、俺にタイマンを迫ってきた勇者もいるな。
目立つ行動は自重した方がいいだろう。
てか、何故か周囲の視線が冷たいんだけど……!
ちらっと奥を見ると、女王は相変わらず豪華な椅子に座っているのが見えた。
暇だし、話しかけてみよう!
仲良くなっておきたいしね!
「こんにちは、女王様っ★」
「え、ええ」
必殺! 顔の角度30度、下から目線!
俺がいつも漫画で女の子や男の娘を描く時は、この角度で描くことが多い。
その角度が1番、読者への受けがいいのだ。
一番その人の可愛さが引き立つ角度だから。
「女王サマって、おいくつなんですか?」
「え、えっと21歳よ」
「年、近いですねっ! 良ければ、またお話しとかしていただけませんか?」
「良いですよ。い、いつでも城に来て下さいね」
「ありがとうございます! あと、相談なんですけど……」
女王に少し気になることがあったので相談をする。
女王は優しい方のようで、俺の話を親身に聞いてくださった。
「宜しくお願いしますねっ! ではまた〜」
「分かりました」
女王に取り入る事が出来たし、目的達成!
すると、クロエちゃんが慌てた様子で俺に話しかけてきた。
「あ、いた! 雪哉さん、何処へ行っていたのですか?」
「んー、その辺うろついてたよ」
「そうですか。そういえば茜が貴方の事を睨んでいましたよ」
「オレ、何かしちゃったのかなぁ?」
「分かりかねます 」
するとその時女王が手を叩いて、みんなを自分に注目させた。
そしてゆっくりと話し始める。
やっぱり女王サマには威厳があるね〜!
「ではこれより、レベルの発表をはじめましょう。勇者様は前に出てきてください。」
とりあえずオロオロしながら、前に出る。
うわっ、すごく目立つな。
「では、右の方からお願います」
女王が指名した人は、例のタイマン野郎だ。
意外とイケメンだし、ムカつく!
黒髪・黒目のスポーツ系男子で、ロングソードを腰に装備している。
「俺は樹上 雄大! 勇者のLvが25。魔法のレベルが水魔法、19。土魔法が28だ」
「レベル28だってよ! すげーなアイツ!」
「天才かよ!」
え? 28ってすごい方なの?
普通じゃない?
俺の方がレベル上だよ。
「おい、そこの女をたぶらかしてるクソ野郎!」
タイマン野郎が俺を指差して近づいてくるんですけど!
めんどくさい事になりそうだな……
俺って巻き込まれ体質だよね。
「えと、俺のことですか?」
「そうだ! お前、自分のレベル言ってみろよ!」
「へっ!?」
「俺よりレベルが低い事なんて分かってんだよ!」
何こいつ!
凄くムカつくんですけど……!!
あんたの方がレベル低いでしょ!
マジでさぁ、粋がるなっての!
「俺の勇者のレベルが45。魔法適性はAll で全てLv.30だよ。俺は君よりもレベルが高い」
「なっ! 嘘ついてんじゃねぇ!」
「嘘なんかついていないですよ!」
その時クロエさんが前に出て、俺をかばってくれた。
「て、てめぇは……」
「南條様とパーティを組んでいるクロエと申します。俺は雪哉と一緒に戦ってきましたが、規格外の強さでした。そのくらいのレベルがあっても、不思議ではありませんよ」
「なら、お前のレベルはいくつだよ!?」
「職種は騎士で、レベルは65ですが」
「Lv.65!?」
「あと、さっき雪哉が女をたぶらかしているクソ野郎だという発言が聞こえてきたのですが……
聞き捨てなりませんね」
「だってそうじゃねぇか! 北村っていう勇者に聞いたぜ!」
「北村って……茜の事ですか……!?」
「それはいつ聞いたんだい? 大輔さん」
「勇者召喚の3日後くらいだな。みんな知ってるぜ、お前が女をたぶらかしてるクズってな」
茜ちゃんは何の為に俺が不利になるような事を言っているんだろう?
まぁ予想はつくけど!
マジでムカつく野郎だ……
茜は、気色悪い笑みでこちらを見ていた。
やっべ、今目が合った!
「あと、闇属性魔法を好んで使う悪魔みたいなやつだってな!」
「なっ!」
「……悪魔ねぇ……」
「将来、悪魔にでもなるつもりかよ! 鎌まで使って」
鎌は通常時キーホルダーみたいにコンパクトになるので、ポケットに入れてある。
だからこいつが鎌の存在を知っている訳が無い。
つまり、本当に茜は俺の悪い噂を広めている訳だな。
ふざけるなよ、あの野郎!
「茜ちゃん……」
「あんたにレベル45もあるわけないでしょう?バカじゃないの! 雄大くんに劣っているからって、そんな嘘言っても虚しいだけでしょ?」
うわ、北村茜はクズでした。
ここまでクズとは思わなかったわ。
ハァ…… 顔が少し良いからってちやほやされて生きてきた様な奴だもんな。
「それに私とパーティを組んでいない事も気づいていなかったの? 笑えるわ」
何と北村 茜は、俺とパーティを組んでいたふりをしていた様です!
まぁ、その事は……
「気づいていたよ」
「えっ!?」
「茜ちゃんが僕達とパーティ組んでない事くらいは気づくに決まってるでしょ」
「雪哉……茜がこういう人だって、気づいていたのですか?」
「ウン、クロエさんと茜ちゃんのこと、完全に信用してなかったしね♡」
「え……気づいてて一緒にいたわけ?」
「まぁね」
人間の世界は、闇がとてつもなく深い。
俺は、顔がそんなに良くないから、よく虐められるのだ。
だから、初対面の人を信用してはいけないって、嫌でも覚える。
だから、あいつらを疑ってたんだよ。
茜ちゃんが本当は俺とパーティを組んでないっていうのもすぐに分かった。
「俺はもともと、一人で旅をするつもりだったんだ。だけど女王が、パーティを組まなきゃいけないって言ったからね〜 」
「てめっ……」
「それに今日、茜が不機嫌になったのって……
今日俺を陥れる材料が揃ったからぁ、俺と一緒にいる意味がなくなったからだよね? それに茜ちゃんと樹上 雄大くんは、元の世界でも面識があったでしょ?」
「っ!」
「あと、女王にはさっきこの事を報告しておいたんだ! ね、女王サマ?」
「ええ、先程南條さんから報告を受けました。あと、ステータスも見せて貰ったので、南條さんが嘘偽りない発言をしていた事も分かっています」
「そういうことだから」
「くっ……」
「召喚された時に、俺の方が顔がよくてちやほらされてたからって、妬んで茜ちゃんを使ってこんな事しないでよ〜 もー」
あのクソ野郎達の事は、好き勝手言えたし、次はクロエちゃんの事を言っておこう。
注意、クロエもクズです。
「あぁ、後クロエちゃん」
「はい?」
「先程庇ってくれたのはありがたいんだけど、お父さんが男尊女卑をしているなんて言ってはいけないよ」
「へっ?」
「クロエさんのお父さん、ジグバールさんにお会いしました。あと貴方、お兄さんがいないんだね」
「何でそんなこと……」
「弟さんしかいないじゃない。その弟さんは凄く優秀なんだってね〜 クロエちゃんと違ってLv.65もあるし」
「何でその事を……」
クロエさんがLv65もない事は、初見で気づいてた。
「優秀なお父さんと弟さんの事を悪く言って、自分の事をよく見せようといつも色んな人に噂を言いふらしてたみたいだねぇ。クロエちゃん、本当はレベル30もないでしょ?」
「……貴方に何が分かるのですか!?」
「何にも分からないし、興味もない。あと、パーティ解消しておくね。女王様、今日はもう帰っていいよね?」
「……今日はお開きにします。皆様、もう帰っていいですよ。南條さんは話があります。付いてきてください」
「はぁ〜い。 あと、樹上さんだっけ? 」
「何だよ?」
「俺は悪魔じゃなくて……」
『魔王目指すんで』