意識
「ここは……」
目を開けると、見慣れない空間が広がっていた。
見上げると空があり、不気味な程輝いている。
地面はガラスのようで、下にも空が広がっていた。
「来たな」
「っ!? ど、ドラント?」
「ああ。我が伝説の魔王……ドラント・ティカハートである」
俺の前には、20代前半くらいの若い男が立っていた。
童顔で、中々のイケメンだ。
だが普通の人とは違う金色の目を見て、こいつがゼン達が言っていたドラントなのだろうと分かった。
「そうか……お前がドラントなんだな」
「そうだと言っているであろう」
「そ、そうだな」
「では早速、意識交代をしよう。お前の体は任せろ」
彼はそう言うと、この空間から姿を消した。
♦︎
「雪哉クン、大丈夫?」
「……お前は余程雪哉の事を心配しているのだな。ハハッ、面白い。実に愉快である」
「貴方がドラントね」
「そうだ。久しいな、ステファニー・ソフィア・ラーストル……いや、ファル」
「悪いんだけど、その名前で呼ばないでくれない?」
「すまないなァ、ハハ」
「全く反省してないわね」
黒髪に金の瞳を持った彼は、面白そうにしている。
とても不愉快だわ。
「それでドラント。貴方どういうつもりかしら?雪哉君の体を乗っ取ったりするなんて」
「俺は雪哉の中でしか生きられないんだ、仕方ないだろう。それに【雪哉は既に死んでいる】という事実を雪哉に伝えていないお陰で、今雪哉は生きているのだ」
「確かにそうだけれどね」
「そういえば、ミシェルは元気か?」
「ミシェル? ああ、貴方の妻のことね。フフ、私が【殺したわ】」
「なに?」
「私がラーストルの頂点に立つ為には、邪魔だったのよ」
「……ふざけるなよ。いくらお前が魔族の頂点だとしても、俺には勝てない。まぁ、雪哉がお前に惚れてる以上、俺もお前に手出しはできないんだがな。つまり、俺に殺されたくなければ、雪哉に媚を売っておくんだな」
「私達の事情に、雪哉を巻き込まないでくれない?」
「お前こそな。雪哉を利用するなら許さないぞ」
「貴方に雪哉は渡さないわ」
「お前は相当、雪哉に惚れ込んでいるからな」
「言う事は以上かしら? そうなら、雪哉と人格交代してくれる?」
「ああ。そうさせてもらおう」
そして伝説の魔王は、意識を手放したのだった。
♦︎
「ッ……」
ドラントとソフィアの会話を聞いて、俺は絶句した。
どうやらこの空間から、ドラントが操っている俺をモニター越しに見れる様で、会話の一部始終を見る事ができた。
「雪哉。戻ったぞ」
「ドラント……」
いつの間にか、ドラントはそこに立っていた。
「……今の会話を見せたのは、お前の故意だろ?」
「そうだ」
「ふざけるな。こんな茶番……!」
「フン、俺に不満があるのなら、その手で俺を殺せば良いだろう。だが、お前にそれ程の力はない」
「うるさいよ……」
俺は氷鳥の剣を抜き、ドラントに斬りかかる。
「ハァァ!」
「まだまだ力が弱いな」
「ノワッ!」
だが俺より背が高く、体格が良いドラントには当然力負けをしてしまう。
「クソ!」
「言っただろ? 俺には勝てない、と」
「死ねよ、じじい」
「何とでも言え。まだ話したい事があるが、そろそろ時間だ。お前を現実へと戻す」
「グハッ」
それから、俺は再び意識を手放したのだった。
♦︎
「ウッ……」
「大丈夫!? 雪哉クン」
「あ、ああ……」
俺は意識を取り戻したが、ソフィアにどのような態度を取るか悩んでいた。
「ハァ……お前がそんなに性格が悪いとはな。失望したよ。俺は見る目がなかったようだ」
「ッ! ごめんなさい……」
「オレはもう帰ります。これからは他人として生活しましょう。殺人鬼とはお付き合いをしたくないので。お金の支給は結構です」
「……」
「では」
そして転移で宿に帰った。
「ただいま」
「マスター、今日はすみませんでした」
「ごめんなさい」
「本当にすんません」
「別に……」
そして自室へ向かった。
「はぁ……」
大きいため息を吐いてから、書斎の椅子に座る。
ソフィアがあんな奴だったなんて、正直ショックだ。
もう一生関わりたくないな、殺人鬼とは。
オレは魔道書を開いてから、オレはある物の制作に取り掛かった。
翌朝。
「少し出掛けてくるから」
「あっ、はい。雪哉さん、お気をつけて」
「……」
アリス達が妙に大人しかったが……
まぁ特に気にする事はないだろう。
とりあえず、転移でおっちゃんの武器屋に向かった。
♦︎
「いらっしゃい……って久しぶりだな、兄ちゃん」
「ああ。今日はある物を売りに来た」
そう言って昨日徹夜で作った、剣やら防具やらをおっちゃんに渡す。
「これ、一晩で作ったのか!?」
「そうだ。剣が55個、軽鎧が30個、コテが21個だ」
「お、おう」
「全て魔鉄で作ってる。それぞれ一つづつ、魔法の付与がしてある。これでまとまった金は貰えるだろ?」
「あ、ああ。鑑定する。少し待ってくれ」
そう言うと、おっちゃんは全てを鑑定していった。
10分程して、おっちゃんは顔を上げる。
「これ全部レア級じゃねぇか!」
「そんな事はどうでもいい。いくらで売れる?」
「そうだな……剣は一つ黄金貨4枚……いや、黄金貨5枚にするぜ。盾は一つ黄金貨8枚。コテは一つ黄金貨3枚でどうだ?」
「もっと値を上げろ。そんな低い金で売るくらいなら、別の場所で売る」
「そ、そりゃないぜ〜。なら1つ黄金貨1枚プラスだ」
「ダメだ。1つ5枚プラスだ」
「ぐッ……まぁそれでいいぜ。ほら、黄金貨963枚だ」
そして黄金貨約1000枚を受け取る。
結構な重さだ。
日本円で約1億……悪くない。
「じゃあな」
そして店を後にした。
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