交渉
「エレナの弟。お前、俺と共に来る気はないか?」
「お前と?」
「ああ。そうだ。俺はラーストルの勇者だ。俺はお前を天使狩りに連れて行く。その引き換えに、この家が困らないように、仕送りをしてやろう」
「いくらだ?」
「月に黄金貨幣10枚でどうだ?」
「なっ!? 10枚だと? そんな金どこから!?」
「知らないのか? 俺が、ラーストルの女王と交際していることを」
「お前、まさか!? 魔王か……?」
「そうだ。魔王系勇者とは俺の事だよ」
「……」
エレナの弟は、少し考えてから口を開いた。
「乗った。だが、俺は見ての通り病弱なんだ。いつ、病気になってもおかしくない」
「それについては問題ない。 彼の者の病を治せ。レクサスケアル」
「っ!? なんだ、この光は!?」
弟君に一瞬光りが纏ってから、消えた。
多分、これで治ったろう。
「お前の病気の原因。それは、呪いだ」
「呪い?」
「お前を妬む誰かの仕業だろ」
「俺を……」
「それか……いや、何でもない」
何だ、そういう事か……
「何だよ、言えって」
「違う。何でもねぇ。じゃあ、お前の名前をきめるぞ」
「何だって良い。村人1でいいんじゃないか?」
「ダメだろ……」
そうだな……
こいつは青っぽい緑色の髪に、俺より少し高い身長。
うーん。
「そうだな……リオンはどうだ? リオン・シャーロットでいいだろ?」
「リオン……まぁ、いいっすよ。それで」
「了解。じゃあ、それで行こう」
そして俺は、帰ってきたエレナとノルアさんとエルさんにその話をし、ラーストルへと戻った。
宿に帰ってきて、受付の人に部屋を変えてもらうように言った。
1人増えたからな、5人部屋にしておいた。
新たなルームには、部屋は3個あった。
部屋に部屋って、言い回し的にはおかしいけれど、ホテルとかでは普通にあるよな。
その1つの部屋をリオンに譲渡し、もう1つの部屋をエレナとアリスに渡した。
具体的にはリビングと3つの部屋があり、2つの部屋はベットが2つある寝室。
もう1つは、ベットが1つある書斎だ。
俺は書斎を貰い、夜に魔法の勉強をしようと思う。
そして、エレナを書斎に呼び出した。
「マスター。 私に聞きたい事があるそうですが」
「ああ、エレナ。 お前に聞きたい事がある」
「分かりました。何でもおっしゃって下さい」
「簡潔に言う。リオンに呪いを掛けたのは、お前だな?」
「……やはり気づいていましたか」
「逆に俺が気づいていないと思っていたのか?」
「そんな気はしていました」
「そうか。呪いを掛けた理由は、リオンを奴隷として売られない為だろ?」
「凄いですね。マスターは何でもお見通しのようです」
「魔王だからな」
「たしかに、病の原因となる呪いを掛けたのは私です。病気がちで体が弱い奴隷など、誰も欲しないと考えたので呪いを掛けました」
「そこまでして、弟を奴隷に堕としたく無かったのか?」
「当たり前じゃないですか。弟に重労働なんてさせたくありませんよ」
「そうか…… まぁ良い。今日は休め」
「私を罰しようとはしないのですか?」
「お前を罰しても、なんの利益にもならないだろ」
「マスターの御心遣い、感謝します」
そしてエレナは、足早に部屋を立ち去って行った。
その数十秒後、弟のリオンが恐る恐る、部屋に入ってきた。
「リオンか…… どうせ今の話、盗み聞きしていたんだろ」
俺は苦笑混じりに問いかける。
「聞いてました……まさかねーちゃんが、俺に呪いを掛けていたとは……」
「お前はエレナを恨んでいるのか?」
「ちっとも恨んでいません。むしろ感謝したいくらいです。俺が奴隷に堕ちなかったから、雪哉様に出逢えたので」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。だが、俺の事を様付けで呼ぶな。マスターと呼べ」
「了解っす」
「そうだ、お前に1つ渡したいものがあるんだ」
そして、俺が先程ソフィアに貰った魔鉄で作った、斧を渡す。
「これは……斧?」
「ああ。刃が三日月状になっているから分からなかったかもな。軽量重視で作った」
「あらがとうございます」
「あと、お前の耳。エレナみたいに隠せないのか?」
「え、はい。隠せません」
「そうか。なら、この帽子をやるよ」
そして、黒い帽子をリオンに渡す。
するとリオンは、喜んで被った。
翌朝、ハサミでリオンの髪を少し短めに切った。
だが、男子だけど少し長めにしておいた。
リオンはイケメンだからな、どんな髪型でも似合うだろう。
そしてエレナとリオンは、リオンの防具を買いに行った。
じゃあ今、俺は何をしているのかと言うと……
「ハァァァァァ! 女王、覚悟!」
「アリスちゃん、まだまだねぇ!」
女王とアリスの試合を、観戦していた。
何でこうなったか……というと……
♦︎
「アリス。俺、ソフィアの所に行ってくるから」
「えー。また女王のところに行くの?」
「ああ。じゃあな」
「待ってよ! マスター!」
「ん? どうした?」
「私も連れてって! マスターと女王が如何わしい事してなければ、拒否する理由もないでしょ!」
「分かった。付いてきても良いぞ」
そして、2人で城へ向かったんだが……
「単刀直入に言います! マスターと別れて下さい!」
「は? アリス、何行って……」
「断るわ。私、雪哉との事……本気だから」
「え?」
「私、マスターの事好きなんです!」
「はぁ!?」
「私も雪哉が好きよ」
「ええ!?」
♦︎
まぁ、こういう流れになりまして。
たった今、女王とアリスが戦っております。
「雪哉君は、渡さないわよ」
「マスターは、渡さないよ」
このままだと、城が壊れる。
危機を察した俺は、2人の間に割って入った。
「喧嘩両成敗だ」
「マスター! なら、私と女王。どちらが好きなんですか?」
「俺は言うまでもなく、ソフィアだ。最初は演技だったが、今は凄く惹かれている」
「雪哉君……」
「そんな! もうマスターを洗脳済みなんて! 」
洗脳なんて……あるわけ無いだろ。
『モテる男は辛いな。雪哉よ』
『死んでくれよ。結構まじで』
語りかけてきたドラントを、一蹴する。
今の俺はモテる……けど、こんな修羅場的展開は望んでないから!
「分かりました……でも、マスターの事、洗脳仕返してみせます!」
「洗脳仕返すな! てか、洗脳されてない!」
「あら、アリスちゃん? 私の方が洗脳技術は上よ?」
「オイィィィィ!」
なんなんだ、こいつらは。
「まぁ、いいか。アリスは、宿に帰れ」
「はぁ〜い。 転移」
アリスが、宿に大人しく帰ってくれたので一安心。
アリスは暴走癖があるからな。
「アリスちゃんが大人しくなって良かったわ〜」
「確かにな。また暴れられたら、城崩壊だけじゃ済まないし」
「そうね。 あと、私さっき貴方の事を本気って言ったわよね」
「言ってたな。あれって演……」
「本心だから」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「驚き過ぎじゃない?」
「女性から告白されたの……初めてだ」
「さっき、アリスちゃんが告白してたじゃない」
「アリスは遊び半分だろうな。あと、元の世界では俺はブスだったし」
「へぇ〜 まぁ、前の貴方なんてどうでもいいけど。あーでもやっぱり、前の貴方の顔気になるわ」
「気になるのか、気にならないのかどっちだよ」
「気になるわ。貴方の記憶から、元の雪哉の顔見ていい?」
「別にいいが」
「ありがと〜」
そしてソフィアは、俺の頭に手を置いた。
『記憶観覧』
それから、10分後。
ソフィアはようやく顔を上げた。
「貴方の顔……」




