後日談
「へぇ〜、貴方の方はスムーズに進んだのね」
「お前も天使を全滅させただろ」
「まぁね」
「それから天使は、襲ってきてないのか?」
「ええ。もしかしたら、2ヶ月ごとに天使が襲ってくるのかもね」
「なるほど」
天使狩りの次の日、俺は王女の部屋でソフィアと雑談していた。
聞くところによると、ソフィアもスムーズに事が進んだらしい。
犠牲者は残念ながら、少し出てしまったそうだが……
あと、勇者を召喚すると一時的に天使が襲ってこないという事だったが……それは、多分永遠に続くのだろう。
つまり、これからも2ヶ月に一回、天使が襲ってくるという事だ。
「私の所は5名程、亡くなってしまった人がいるわ。それに比べて貴方は犠牲者ゼロでしょ? どんな裏技使ったのよ?」
「結界魔法を使ったんだ。それに天使はすごく弱かったしな」
「貴方の能力って、本当にチートよね」
「そんな事ないぞ?」
「……あ、そういえば!」
「何だよ、ソフィア? 急に大声出して」
「キルムヘルブから、正式に同盟を組みたいと申し出があったわ」
「おお! 早速か 」
「と言うことは、今回の天使狩りは成功ね!」
「俺のおかげだな」
「そうね。後でご褒美をあげようかしら」
「その言い方は、気にくわないな。まぁ、褒美は金してくれ」
「了解よ。……あ! もうこんな時間ね。王の間に行きましょ。他のブロックのリーダー達が待ってるわ」
「ん? 王の間で、各ブロックの功績を発表すんの?」
「そうよ。ほら行くわよ」
「って痛い! 引っ張らないで!」
そして、ソフィアに手を掴まれて半強制的に連行されたのであった。
ソフィアと別れて、一人で王の間に入る。
ソフィアとの関係を疑われないようにするため、今日俺とソフィアが会っていた事を知っている者には、箝口令を強要したらしい。
強引なヤツめ……
「あっ! マスター!」
「おお、アリス。お前も来ていたのか!」
「……ねぇマスター、ここって大勢の前だよね?」
「まぁ、周囲にたくさん人がいるな。それがどうした?」
「いや、マスターってさ。いつも可愛い子ぶってるじゃん。なのに、今日は人前なのに可愛い声を作ってないんだね……」
「あ!! 人前だって事忘れてた!」
「ふふっ」
「ど、どうしたんだアリス?」
すると突然、アリスが気味の悪い笑い声を上げてきた。
すげー怖いんだけど。
「そんな事もあろうかと! ここら辺に、私達の存在が分からなくなる、認識阻害の結界を作っておきました!」
「お、おう。ありがとな……」
何か……ありがたいけど……怖い。
「静粛に!」
不意にソフィアが大声をあげ、みんなを黙らせた。
「今回の天使狩りでの功績を発表します」
ゴクリ。
勇者達の息を飲む音が響いた。
みんな緊張しているのか?
「では、一番功績の良かった方から…… 」
一番功績の良かったやつ?
そんなの樹上大輔だろう。
なにせ、さっきからずっと自分の武勇伝を語っているからな。
「一番は……」
「南條 雪哉様です」
「は!?」
え!? 俺!?
聞き間違えじゃ……なさそうだが。
「やっぱりな!」
「俺んとこの雪哉様は、やはり最強だ!」
「イイなぁ、お前のブロック。俺のとこなんて樹上とかいう、悪目立ちしかしてないやつだぜ」
「それにあいつのせいで、みんな死んだ!」
「そうだ! 茜とか言う奴も、他の勇者よりも偉いって面しやがってぇ!」
うわっ……
大輔や茜を、非難する声が次々とあがる。
その辺でやめてやれよ。
「お前ら黙れぇぇ! 俺は悪くない! 悪いのは使えなかった勇者と騎士……そして冒険者達だ! 俺は完璧にやった! なにもかも! 悪いのは死んだ奴らだ! ここにいる奴だって、俺より弱いくせに!」
「樹上様、発言を控えてください」
「黙れ、女王! このクソ女が! 南條を贔屓しやがって!」
ソフィアが注意するが、樹上は全く聞きいれない。
「樹上様、公衆の面前ですよ」
「うるせぇ! 天使狩りでもそうだ。みんな俺の言う事を聞かない……だから、俺が殺してやったんだ! あいつらは、俺と茜の盾になってもらった! 魔法壁で天使ごと、俺の仲間を閉じ込めてやったんだ!」
「今の言葉、本当かよ!?」
「お前、何したか分かってんのか!」
「だから無駄に死者がおお……」
「うるさい! 」
樹上と同じブロックの奴らが抗議したが、樹上に遮られてしまった。
というか、本当にブチ切れそうだ。
フツフツと怒りがこみ上げてくる……
樹上 大輔……
「そのおかげで、俺のブロックの少しは助かったんだ。感謝しろよ!」
殺す。
「全員役立たず! 生きてる価値がねぇんだよ」
殺す。殺してやる。
どこまでも身勝手。
そんな奴は、要らない。この世界に必要、ない。
ただのゴミ。
だから……
「だから、俺がこの神の手で殺してやったんだ! 何の文句があるってんだ! 俺に逆らう奴は全員殺してやる!」
『この俺が直々に殺してやろう』
俺が俺じゃなくなる感じがして、目の前が真っ暗になった。
【魔王 覚醒】
「おい……」
「っ!?」
自分が想像するよりも、低い声が出て驚いた。
だが俺でも、今の樹上の言葉は許せなかった。
そして静まり返った部屋の中を歩き、樹上の前まで行く。
「樹上 大輔」
「な、なんだよ?」
「今の言葉、訂正しろ」
「あ? 訂正するわけねぇだろ? あいつらのせいで、俺の功績は悪くなった。あんな奴ら、死んだ当然……むぐ!」
俺は樹上の首を掴み、持ち上げる。
「離せ! 苦し……」
「俺はお前を殺すことにした」
「は、はぁ!? 本気か! 」
首を絞める力を強くする。
「死ねぇ! 樹上!」
「やめ! ぐ……ぅ……ぁぁ……ガァァァア!!」
すると、樹上 大輔は泡を吹いて倒れた。
「だいすけぇぇぇぇぇ! 雪哉、貴方自分のした事分かってるの!?」
「ああ。世界が少し綺麗になったな」
「そんな……だいすけ」
倒れている大輔に、北村 茜が近寄って必死に心臓マッサージをしている。
本当に笑えるな。
ヒールを使えよ。
「安心しろ、北村 茜。大輔を殺しはしない」
「何言ってるのよ」
「このドラント・ティカハート様が、此奴に永遠の地獄というものを見せてやろう」
エレナside
「ドラント・ティカハート!?」
「あの伝説の魔王か!?」
「というか、雪哉様。大丈夫か!?」
「髪の毛が黒くなってる!?」
「別人みたいだ……眼も鮮やかな紅色じゃなくて気味が悪いくらいに光ってる、金色だ」
みんな、マスターの事を怖がっている。
だが、無理もない。
今のマスターは、マスターではないというのは、私でも分かった。
それに、ドラント・ティカハート?
マスターは、そう名乗った。
だけど、ドラント・ティカハートという魔王は既に死んでいるはず……
「……お父さん?」
「アリス? どうかしましたか?」
「ま、マスターが、お父さんに、似てる」
「ど、どういうことですか?」
「……まさか!」
すると、隣でマスターの事を見つめていたゼンが声をあげた。
ゼンside
「ゼン。どうかしましたか?」
「多分、分かったんです! マスターのことを」
「それってどういう……」
「マスターは、前に……」
『ゼン、この事はエレナとアリスに言わないで欲しいんだ』
『よく聞いてくれ。俺の強さの秘密は、スキルにあるんだ。名前は、魔王の加護。このおかげで、闇魔法を操れる』
「そう、言っていたのです」
「まさか!」
ここまで言うと、エレナさんは気が付いたようだ。
「そんな! じゃあ魔王の加護は……伝説の魔王ドラン・ティカハートのものなのですか!?」
「おそらく。だからあれはマスターではなく、ドラント・ティカハートだと思います」
「マスターの魂に、ドラントが入り込んでいるのですね」
「ええ。そう考えれば辻褄が合います」
「ゼン、エレナ! マスターが、お父さんに似てるの!」
「アリス……アリスのお父さんって……」
「そう……ドラント・ティカハートって呼ばれてたよ。でも、お父さんが伝説の魔王だなんて!」
「アリスさん、落ち着いて。ドラントは魔王ですが、悪と決まった訳ではありません。今は、マスターの心配をしましょう」
「そうだね、ゼン」
そして、再びマスターを見つめた。




