異世界召喚
俺は南條 雪哉。
18歳だ。
俺は、月夜の国 ドルミートの王。
この国は、宝石などの鉱物が盛んで、商業にも力を入れているのが特徴だ。
そして俺は、皆からこう、呼ばれている。
【魔王】と___。
これは俺が、魔王と呼ばれるまでの物語。
♦︎
「勇者様方、どうかこの世界をお救いください」
「……は?」
え、ちょっと待って! 理解が追いつかない。
俺、大学から帰って、ベットで寝てたよね?
なのに何で凄い絢爛豪華な部屋にいるんだよ!
周りには、俺と同じ様に異世界に召喚された人が10数名いて、みんな困惑している様だった。
部屋は縦100メートル位と、とてつもなく広い。
部屋は主に白い大理石で作られていて、真ん中だけ、赤のカーペットが敷いてあった。
そして、その一番奥の豪華な椅子の上に、女王様らしき人が足を組んで座っている。
壁側には家来と思われる人達がズラリと並んでいた。
「どういう事だよ!? 勇者? ふざけるなよ!」
「家に帰せ!」
「ここはどこなんだよ!」
「俺らを誘拐したのか……!」
「説明しろぉ!」
すると、男性陣が怒鳴り始めた。
今にも殴りかかりそうな風貌だ。
みんな顔から血管が浮かび上がっている。
ヤバイな……喧嘩にならないといいけど。
「ここは異世界です。勇者様」
「「は……?」」
「私たちの世界は今、危機に直面しているのです。そこで異世界から勇者様方を召還させていただきました」
ええ!?あの良くある設定の異世界召還!?
俺が勇者!?
てか、勇者を10人以上も召喚したのかよ!
この状況は、異世界から無理やり召喚させられた俺には到底受け入れられるはずもなかった。
すると、高校生くらいの女の子が手を挙げて、質問し始めた。
「私達は勇者として召喚されたのですよね?」
「はい、その通りです」
「元の世界へは帰れないのですか?」
「この世界をお救いしていただければ帰ることができるでしょう。もちろん、多額の支援もさせていただきます」
「……そうですか。分かりました。この世界を救います」
えーー! そんな自信満々に言います?
第一、何と戦うとも女王は説明していないのだ。
それなのに、20歳を超えていない位の女の子が、自信満々に世界を救うと断言した姿に、俺は心の中で賞賛した。
「勇者様方には、この世界を脅かしている天界からの使者……すなわち天使と戦って頂きます」
「「天使!?」」
え!? 天使って敵なの!?
俺の世界では大抵、天使は可愛らしく描かれている漫画やアニメが多い。
それに、天使は味方。
そう思っている人間が多々、いるのではなかろうか。
「天使達は二ヶ月後、奇襲を仕掛けてきます」
「という事は神は敵なのかよ!?」
「はい。敵です」
「嘘だろ!? 勝てんのかよ!?」
「無理だろ!?」
「やめた、やめた」
召喚された勇者は、口々にヤジを飛ばし絶望しきっている。
だけどこの状況は仕方ないよな。
神様が敵だというのに、勝つ事は難しい。
いや、勝算すらないだろう。
俺はそう思っていたが、あえて口には出さなかった。
「ですが、勇者様方は天使と戦う術を持っているのです」
「術?」
「ええ。天使の光魔法に対抗できる魔法を勇者様方は使えるのです」
「対抗できる魔法?」
とてつもなく長い、女王の話をまとめると、こうだ。
半年ほど前から天使は天界から地に降り立ち、人間に危害を加えている。
そしてその理由は分からない。
それに加えて平民など一般の人は大抵、魔法は使えない。
使えたとしても、天使を倒すほどの力はないのだとか。
国の騎士もあまり役に立たず、やむ終えずに勇者を異世界から呼び出した、と。
今までは魔物のように毎日天使が襲ってきたが、
勇者を呼び出せば、2ヶ月は天使が来ないらしい。
まぁ、2ヶ月後は毎日襲ってくるのか、それともまた2ヶ月ごとに来るのかは分からないらしい。
ついでにこの国はラーストルと言って、この世界にもたくさんの国があるらしい。
とりあえず今日は用意された部屋で休んで良いと言われたので、心を落ち着かせるために一先ず休む事にした。
「うわぁ〜」
俺は城の部屋が凄く気になったので、ダッシュで部屋に駆け込んだ。
部屋はすごい綺麗で、とても大きなベットが置いてある。
所々金の装飾があり、すごくゴージャスな作りになっている。
ベットに飛び込み、大の字になる。
そして天井を見上げ、女王の言葉を必死に思い出す。
『一人一人、右手を上げて振るだけでステータスを見ることができます』
ステータスか……やってみるかぁ……
右手を上げて少し振ると、目の前に画面が浮かび上がった。
「うぉっ……」
♢
名前:南條 雪哉
年齢:17
職種:勇者Lv.10
魔法適性:All Lv.1
性別:男
魔法適性オール?
全部の魔法を使えるって事? 凄いじゃん!
あとは特に変わったステータスは無い。
歳は17……。
「って17!?」
俺、元の世界では22歳だったよね!?
大学生だし!
俺はベットから跳ね起き、部屋にあったドレッサーの鏡を覗き込む。
そこの鏡に映っていたのは……
「えぇぇぇぇぇ!」
可愛さ全開の美少年でした。
はっ? どういう事?
俺ってもっと顔、キモかったよね!?
異世界召喚でカッコ良くなるとかは、よくある設定だった。
しかし、前の俺とは、似ても似つかない顔になっている。
え、本当にどしよ。
髪は雪の様に真っ白で、目は赤色。
どう見ても日本人では無かった。
でも、すげぇ格好良い!
コンコン
「ふぁっ!」
テンパっている時に誰かが部屋に来て、間抜けな声を上げてしまった……
平静を装おう……
落ち着くんだ、俺!
ドアの前に立って深呼吸をする。
そして勢いよく、ドアを開けた。
「すみません、ドアを開けるの遅くなってしまい…」
「あ、どうも」
「あなたは……」
部屋に来たのは、女王に冷静に質問をしていた同い年位の女の子。
肩につくぐらいの長い茶髪、大きい澄んだ赤色の目、結構な美少女だ。
「えっと……どうかしましたか?」
「あ、いや、隣の部屋だから挨拶くらいしておこうかなぁと」
「なるほど。ぼ……俺は南條雪哉、17歳だよ。よろしくね!」
あ! やってしまった!
つい調子に乗って、可愛い系男子風に挨拶をしてしまった!
気持ち悪がられる……
俺は、調子に乗ってしまった自分に反省しつつ、恐る恐る顔を上げる。
「カ、カワイイ……」
「へっ?」
「い、いいえ、何でもないわ!」
だが、少女の反応は思っていたものと違っていた。
気持ち悪いと罵倒されるどころか、可愛いと勝算の言葉を送ったのである。
そうか! 顔が整っているからか!
とびきりの美少年だからか!
色々と考えあぐねた結果、この様な結論に至った。
「わ、俺は北村 茜よ。年は同じ。宜しくね」
「うん、よろしくね!」
「うっ……」
「大丈夫!?」
「ええ……。心臓がもたないから部屋に戻るわね。また明日……」
「う、うん? また明日」
茜さんはそのまま走って部屋に帰ってしまった。
何処か慌てた様子の茜さんに、俺は首を傾げながら再び部屋に踵を返した。
「はぁ……」
再びドレッサーの前に座り、ため息をつく。
美少年で性格がカワイイ男の子は、よく漫画とかではあるが、現実にはいない。
茜さんの反応を見るに、カワイイ系男子って女の子には効くと思う。
だからしばらくはこのキャラでいった方が良さそうだな。
確かこうやってあざとく演じている男子は、
『小悪魔系男子』って言うらしい。
俺は心身共に疲れ果ててしまったので、再びベットにダイブし、は ゆっくりと瞼を閉じた。
疲れているせいか、すぐに寝てしまった。
コンコン
「南條君、起きて」
「ん、ぅぅ」
誰かにドアをノックされたので渋々起きた。
まだ眠いぜ……
枕元の時計を見たら、あらびっくり。
まだ5時だった。
廊下に出て、誰が起こしにきやがったのか確認しよう。
そう思ってドアを開け、廊下にいる人物を確認する。
「えっと……だれですか?」
「私よ、北村」
「あっ、茜さん!?」
「女王にあなたを起こしにくるように頼まれたの。みんな起きて集まってるわ。貴方も早く来なさい」
「あっ、はい! 」
俺はドアを閉めて、急いで身支度を始めた。
部屋の洗面所で顔を洗って、寝癖がないかチェック。
そしてドレッサーの前に座り、耳の上あたりの髪を三つ編みにした。
うわー、顔が整っているからすごくカワイイ!
一人で自画自賛し、ダッシュで王様の部屋に向かった。
「お、遅くなってすみません……」
「「な!!」」
「へ?」
部屋に入るや否や、みんな俺の方を凝視している。
女王ですら驚愕の顔をしているのを見ると、雪哉はよほど整った顔立ちなのだと伺える。
そういえば女王の顔って結構整っていて、美人さんだな。
「俺の顔に何かついていますか?」
漫画でお決まりの角度35度で上目遣い。
そしてセーターの萌え袖をし、可愛さアピールをする俺。
決まったぁぁぁ!
こういう所を見ると、俺の性格のねじ曲がりさが分かるよな。
「え、あ、何でもないですわよ。今日は三つ編みにしたんですのね?」
「は、はい」
女王、語尾がおかしくなってない!?
そんなに動揺することってある!?
「そ、それで皆さんを集めた訳は、この城から旅立ってLv上げをして欲しいのです」
「Lv上げか?」
「はい。パーティメンバーを組んで下さい。そしてこの支度金を渡します」
メンバーか……
勇者同士でも組んでいいのかな?
そもそもパーティメンバーって最大何人まで組めるんだろう?
勇者以外の冒険者とも組まなければいけないのか?
聞きたい事が沢山あったので、珍しく挙手して発言することにした。
「あの……」
「はい、ええと?」
「南條雪哉です!」
「はい、南條様。何でしょうか?」
「パーティって勇者同士だけで組むのですか?」
「いえ、勇者同士で組んでもいいのですが、たくさんのパーティを作りたいので志願した冒険者の方とも組んで下さい。 どうぞ、お入り下さい」
すると、廊下からたくさんの冒険者が部屋に入ってきた。
何故か壁側に立っている家来達が拍手をしている。
拍手で迎えろって事かな?
「ここに冒険者方が40名ほどいます。勇者様方は勇者同士で組まれても良いですが、必ず1人はパーティに冒険者を入れてください。パーティメンバーの上限は
10人です。ここからは自由行動です。二ヶ月後に、また城へ戻ってきて下さい」
すると俺の周りに、20名ほど集まってきた。
今の南條 雪哉はモテる。
本人でさえ、そう確信してしまった。
「勇者様ァ、俺とパーティを組みませんかぁ?」
「いや、俺と」
「俺と組もうぜ、同じ勇者同士でさぁ!」
「俺はしがない冒険者ですが、組んで下さいませんか?」
「ごめんね! 組みたい人がいるから……」
そう言って人ごみを抜けてから、俺は茜さんを探した。
「あ、いた! 茜さん!」
「わっ! 南條君!? 」
「俺とパーティを組んでくれませんか? 俺、知り合いとかいないから……不安で……」
「い、いいわよ! 組みましょ!」
茜さんは俺の肩を掴んで、何回か頷く。
茜さんの頰が、僅かに紅潮している事について、俺は指摘しなかった。
「ありがとう! 茜さん!」
「か、カワイイなぁ」
「ん?」
「何でもないわ、気にしないで」
「え、はい」
「でもパーティに一人は冒険者を入れないといけないのよね?」