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出逢ったときよりも、少しだけ伸びた髪。色が脱け落ちて、悲しげな涼しさを纏った艶やかな肌。鏡のように澄み切った瞳は、仄かに淋しさを滲ませている。何かを隠そうとしているような表情をする彼女。勿論、それは愉快なものではない。失ってしまったものか、いや、いくら願っても手にすることができなかったもの、それを彼女は隠しているようだった。
目を覚ましたとき、僕は自分の部屋にいた。そして、隣には彼女がいた。殴られた直後であっても、僕は彼女との再会を祈り続けていた。それほどの情動に駆られていたような僕が、どういうわけか、今、彼女が隣にいるというのに、全く気持ちが晴れやかではない。体の至る所がじんわりと痛んでいる。舌先にはまだ血の味が残っている。ただ、こうしたことが理由で気持ちが晴れないのではない。
あの夜、ある一人の男の子が僕の前に現れた。一年ほど前、その子が亡くなった日から、僕はその子のことを何度も、何度も忘れようとした。ただ、そのためにいろいろな策を講じてみたものの、全て水泡に帰した。
忘れることなどできるわけもなく、僕の内から彼を放棄することを決めた。それは忘れることとは異なる、もっと優しくて、残酷なものであった。
その子は現れたのではなく、僕が生み出してしまったのだろう。おそらく、縋りつきたかったのだ。やはり君のいる世界は、想像を絶するほどに悲しい。それでも僕は君に縋らなければいけなかった、そんな夜だったのだ。
「少しだけ、話を聞いてほしいです……」
僕は彼女にそう云った。