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帰路を辿っているあいだ、涙が止まらなかった。それは彼女に再会できなかったからではない。僕自身のあまりの無力さに悲しくなったからである。昔、自分の泣いている姿を鏡で見たことがあったが、頗る醜かった。おそらく今も、そんな感じなんだろう。――
家に着いた。電気を点けようとした腕は崩れ、玄関にそのまま座り込んでしまった。カーテンを開けっぱなしにしている、真っ暗な八畳の部屋に、月明かりが差し込んでいる。
これまでの僕には自ら命を絶つ勇気などなかったが、今の僕には、理性だとか、良心だとか、常識だとか、そういった類いのものをすべて蹂躙してしまうぐらいの狂気が、たしかに存在していた。おもしろいぐらいに、おかしくなっていた。着信音が鳴っているのに気付いて、僕はやっと平静を取り戻した。液晶画面に、母親の名前が映っており、目元の涙を拭って、通話ボタンを押した。電話の内容は、別段大したものではなくて、今月も二十万を振り込んだという報告だった。
僕は両親に嘘をついている。資格取得の予備校に通うために、その分の費用も仕送りと併せて振り込んでほしいと頼んでいる。無論、僕はそんな予備校になぞ行っていない。両親には申し訳なく思っているのだが、毎晩呑み歩いて、睡眠薬を常に補充しておかないと、おかしくなってしまうような体になってしまった今、金はどうしても必要だった。勿論、おかしくなって死んでしまえばいい、僕みたいな人間がいつまでも生にしがみついている道理なんてどこにもない。そんなことは、重々承知してはいる。だが、
「母さん、本当に出来損ないの息子でごめん……」
そう云って電話を切った。今の僕には、こうすることしかできないのだ。