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僕らはほとんど言葉を交わすことはなかった。程なくして、女は通りかかったタクシーを拾ってどこかへと消えてしまった。
相変わらず意識は朦朧としていて、瞳に映るものがちかちかとしていて厭わしかったが、それでも何とか腕や脚に力を入れて自転車に跨り、帰路を進んだ。その途中は、介抱してくれた女のことばかりを考えていた。
――随分と髪が短かった。あたりに街灯がなかったせいで、顔貌を覗くことはできなかったが、顎や首のまわりの筋はしっかりとしていて、美しかった。痩せていたような気がしないでもない。煙草は、黄色い箱にポップなインディアンとイーグルが印刷されていたから、アメリカンスピリットのライトか。過去に一度だけ買って吸ったことがあったが、僕は二十歳になる前からセブンスターを吸っているからか、あまり風味を感じることができず、常喫の煙草にしようとは少しも思わなかった。
大通りの信号で止まった。ここは信号の待ち時間が長いから、ポケットからスマホを取り出して、一つ、気になっていたことを調べた。彼女が僕にしたあの行為についてだ。ウェブブラウザの検索欄に、彼女の行為に関する細かな描写を打ち込んだ。そして、並べられた検索結果を見ると、どうやら彼女のしたあの行為は、シガレット・キスと云うものらしかった。
「シガレット・キス、か」
僕がそう呟いた途端に、信号が青に変わった。僕はスマホをポケットにしまい、横断歩道を渡った。