6話 エルフたちに力を授ける
やがて、宴もたけなわになったちょうどいいタイミングで、マーフィーが戻ってきた。
メリリカはみんなを連れて、山の入り口に移動した。
諸事情で火は使いたくないので、魔法で辺りを照らし出す。
「マーフィーはこのまま助手をしてね」
「はーい、お任せください!」
マーフィーに頼んで集めてもらったのは、ハチミツ、炭、そして『燃える石』の欠片。
ひとつだけ、手に入れるのが難しい素材は、魔法で錬成するつもりでいる。
でもそれは後回し。
メリリカの周りには、エルフたちが集まっている。
みんな何が始まるのかワクワクしている様子だ。
材料を確認し終えたメリリカは、ぱんぱんと手を払って、エルフたちに向き直った。
「えーとですね、これから皆さんに、大岩を破壊するアイテムを与えようと思います」
「ええっ!?」
エルフたちがざわめきだした。
「そんな夢のような道具があるの……!?」
「でも、人間様の仰ることだもの!」
「そうよ! 人間様は偉大なんだから! 奇跡を私たちに授けてくださるつもりなのよ!」
まだまだメリリカの欲しい言葉は出てこない。
ちょっぴりがっかりしながらも、気を取り直して、説明を続ける。
「いや、実はそんなすごいもんじゃないんだよ」
さて、どういうふうに話そうか。
理屈を理解してもらいたいので、まずはメリリカが魔法を使って岩を破壊した時のことを説明する。
「私が岩を爆発させたのって、火魔法を応用させた術式なんだ。威力は極小なんだけどね」
「極小!? あんなおっきな岩を、一瞬で砕け飛ばしちゃったのにですかっ!?」
助手役のマーフィーが驚きの声を上げた。
ババ様や残りのエルフたちも、うんうんと勢いよく首を縦に振っている。
「私が手出ししたのはほんのちょっとだけ。軽い爆発だけで、あの大岩を砕いたんだよ」
「す、すごすぎますうーっ! さすが人間さまですー!」
「でもね。そんなことができたのは、あなたたちが下準備をしておいてくれたおかげなんだよ」
マーフィーをはじめ、エルフたちは不思議そうに顔を見合わせた。
「私たちがしてたことって……」
「ノミで岩を削ってただけですよ……?」
「そう、それ!」
メリリカはびしっとマーフィーを指さした。
「あのね。爆発って簡単に言うと、ものすごい熱で空気を膨張させて、その圧力で対象を吹っ飛ばすことなんだ」
「ば、爆発? 膨張?」
「岩を吹っ飛ばすなら、本来は、外から内側に影響を及ぼすほどの強いエネルギーが必要なのね」
「えねるぎー……」
「だけど、今回はそうじゃなかった! なんでだと思う?」
調子の出てきたメリリカは、前世のような調子で熱弁を振るった。
喋っているとどんどん気分がよくなり、ますます舌も回る。
人差し指を立てて、得意げに目をつぶったメリリカは、エルフたちがまったく話についてこれていないと気づいていない。
「それはね、岩に亀裂が入っていたから! その亀裂にエネルギーを押し込んで、熱膨張を起こして爆発させたの!」
「亀裂っていうと……」
「そう。私が少しの力で岩を爆破できたのは、みんながその前にノミを振るって、岩にちょっとしたヒビを入れておいてくれたから! 私はノミで入れられた亀裂を利用して、爆発させたの。だから少しの魔力でも大爆発させられたんだ」
これで少しは伝わるだろうか?
メリリカなりに噛み砕いてみたものの……。
「ねつぼうちょう……? はひー……人間様、難しすぎですー……」
気づけば、マーフィーが両手を広げて、よろめいている。
目の中を覗けば、ぐるぐる回る渦巻きが見えてきそうだ。