5話 伝承として残されそうです
「そうじゃ! 貴方様の今回の活躍、これも村の巻物に加えよう! 新たな舞を作らせてくだされ!」
「ええ? 私を? いやいやいいよー、そういうのは」
「人間様の舞がもし出来たら、私がその役をやりたいなあ!」
慌てて両手を振ったメリリカの隣で、マーフィーがうっとりと言う。
「巨大な岩が消し飛ぶ魔法をどう表現するか……。村を挙げて議論せねば!」
「そ、そういえば、ああいう落石って時々あるの?」
無理矢理に話題を変えると、ババ様とマーフィーは神妙な面持ちで頷いた。
「落石の頻度は年に1度ぐらいなのじゃ。ただ、ひとたび落石が起こると、それを撤去するのに数ヶ月かかるからのう」
「ははは、まあそうだよね」
ノミでトントンカンカン岩を砕こうとしていたエルフたち。
その姿を思い出し、苦笑いを返す。
年に1回でも、解決するまで数ヶ月かかるのだ。
結構大変な事態と言える。
「てかそれだと、1年の3分の1ぐらい、ノミをふるってたってことじゃない?」
「そうなのじゃ。お陰で農作にも支障が出てしまう……次の落石は来年じゃろうか」
「ああー。大変だねえ」
「しかし、もう大丈夫! この村に人間様が留まってくだされば、まるっと解決じゃ!」
ババ様が期待に満ちた目で、メリリカを見つめてくる。
本気で留まって欲しいと思っていることが、その眼差しから伝わってきた。
「いやあ、それは無理だなあ」
「なんと!?」
ババ様は衝撃を受けた顔をした。
マーフィーも驚いて、泣きそうな顔をする。
「えええ。人間様、いなくなっちゃうんですか……!? もっとたくさんお話したいのに!」
「ごめんねー。でも私、人間のことをいろいろ調べたいし。ここに留まるつもりはないんだ」
「人間様が留まってくだされば、この村も安泰になると思ったのじゃが……」
ババ様が残念そうに肩を落とす。
それを見ていたメリリカの中に、また例のむずむずとした気持ちが沸いてきた。
エルフたちは次回の落石の際、またあのノミで戦うのだ。
さすがに同情する。
「……うーん。だからって、魔法を教えることもできないしなあ」
メリリカは口元に手を当てて、ぶつぶつ呟く。
魔法を伝授するには、何年もかかるし、もともとの適正次第では何年かけても覚えられないこともある。
「魔法に近い能力を授ける的なことってできないかなー。あ、そうだ」
もしかして名案を閃いてしまったかもしれない。
さっき山で見た黄色い岩のことを思い出す。
あれは『燃える石』と呼ばれる鉱石だった。
「山にある黄色い岩わかる?」
「む? ああ。山には無数に転がっておるからの」
「あの使い方って、ふたりとももう知ってる?」
「使い方じゃと……?」
「岩って何か、使い道とかあるんですか?」
やっぱり、思った通りだ。
あんなふうにゴロゴロ放っておかれてるってことは、少なくともこの村では、使い方が知られていないのだ。
魔法の研究の一環で、メリリカは錬金術も学んでいた。
その知識を応用すれば……。
「ねえ、マーフィー。お願いがあるんだ」
「え? 私に!? なんですかっ、人間様!」
「あのね。いまから言うものを取ってきてほしいの」
マーフィーは私が伝えたものをふんふんと覚えると、忘れないよう何度も口にしながら駆けだしていった。
メリリカは手を振って、マーフィーの背中を見送った。
(この方法なら、今度こそ絶対感謝されるはず! そしたら私の望みも叶うよね!)
「人間様……?」
エルフの皆は、何が何だかわからない様子だ。
「まあまあ、安心して。その年に一度の落石、困らないようにしてあげましょう!」
「え!? な、どういうことじゃ!?」
慌てるババ様に向かって、ニッと笑いかける。
「まあ、この私に任せといて!」