3話 崇められたいたいわけじゃないんだってばー!
「そ、その丸い耳……その鼻……その肌……なんということか……。私は幻を見ておるのか……。巻物に描かれていたとおりの容姿じゃ……」
独り言のように呟いて、輪の中心にいたエルフがメリリカのもとへ歩み寄ってくる。
その少女は、他のエルフたちとはちょっと見た目が異なった。
金髪の編み込みは、頭にぐるぐる巻きつけてあり、繊細な装飾品で飾られている。
貝殻細工のようで、光に当たるたび、白桃色に光った。
身にまとっている衣服も、祭具用のものだ。
(この人がババ様だな)
とはいえ「ババ様」と呼ばれていても、15歳のメリリカと見た目年齢はほとんど変わらない。
(本当に若いのか、若作りなのかわかんないな)
なにせ相手は500年以上生きるという長寿な種族エルフだ。
「ちょっと失礼するぞ」
「え? ……わわわ!? な、なに!?」
ババ様は両手を伸ばすと、メリリカの顔にぺたぺたと触れてきた。
「くふっ、あはは! ちょ、くすぐったいってばー!」
小さな手でむいむいとほっぺたを押され、メリリカは身をよじらせる。
「おおお……これは……」
「ひっ……ひゃひゃひゃひゃー! 耳はだめっ、ひゃひゃ耳はー!! あははははっ、いやーっ!」
その後しばらくの死闘のあと、メリリカはようやく解放された。
(いやー、過労死するときよりも死ぬかと思った)
「うむ、やはり作り物ではない。本物の肌の感触。ということは……そなたは『滅びの種族人間』……!!」
「ひえええええ!? ババ様、それは本当ですかっ!?」
「だって人間は滅びたはずですよねっ……!?」
ババ様の言葉にエルフたちが取り乱す。
エルフの少女にされたのと同じような反応だ。
(このエルフたちも人間は滅びたって信じてるんだな)
「そなたは人間であっておるか?」
ババ様がエルフたちを代表して尋ねてくる。
あ、ここ、決めシーンだな。
メリリカは再び、ふふんっとない胸を逸らせて名乗りを上げた。
「はい、そうです。私は人間の魔女、メリリカです」
「な、ななな、なんと!? 人間なうえに、あの伝説の秘儀、魔法を使えるのかっ!? ……はっ。もしや先ほどの摩訶不思議な力、あれが魔法なのかっっ!?」
興奮したババ様に両腕を掴まれ、ガクガクと揺すぶられる。
「人間じゃ!! 魔法なのじゃー!!」
「わわわわわー」
「ババ様がー! ババ様がご乱心だー!」
「こんなに昂ぶられているのは、いったいどれくらいぶりのことかしらっ!?」
「いつも威厳たっぷりのババ様が……!!」」
メリリカは振り子のように揺れながら、「そそそそうですよーままま魔法ですー」と返した。
「マーフィーよ、おまえがこのお方をここまで連れてきたのか!?」
「はーい、そうです!」
マーフィーと呼ばれたエルフの少女がぴょこんと手を挙げた。
「村の入り口でこの人間さんに会って! 私たちが困ってるとお話したら、駆けつけて下さったのです!」
「おおお!!」
「さすがは人間様……われらの窮地を見捨てない、素晴らしい種族……!」
「人間って伝承のとおり、慈悲深くて優しい生物だったのね……!」
エルフたちは大騒ぎで、手を叩きあって喜んでいる。
それを見て、メリリカはちょっぴり唇を尖らせた。
(なんで『人間すごい』しか言ってくれないかな!? そんなことのために、お手伝いしたんじゃないよ! 私が欲しい言葉は『あれ』なのに……)
まったくもうと思って、両手を腰に当てる。
エルフたちはなっていない。
仕方ないので、欲しい言葉を引き出す方向に、会話を誘導しようと決めた。
「ねえ、人間の魔法見てどうだった? 私、大岩壊しちゃったんだよ? 困ってたんだよね?」
「あんな神業をお目に掛かれるなんて……! そなたが来て下さらなければ、我らは永遠にノミを振るっていたことじゃろう!」
「うんうん、そうだよね! ということはー?」
(さあ、来い! あの言葉!)
期待に胸を高鳴らせて、ワクワクしていると……。
「皆のものー!! 人間様を崇め、奉る宴を開くのじゃ!!」
「ちがーうっ!! 崇められたいわけじゃないんだってばー!」
メリリカは両手を握りしめて、悲しみの叫び声をあげたのだった。
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