プロローグ 天才魔女、転生する
白き魔ヶ羽の魔女、メリリカ・メルルク。
15歳の美少女。
でもメリリカの名誉のために言っておくと、彼女はかわいいだけの魔女ではない。
実はメリリカは、世界でただひとり、レベル99の最強魔女なのである。
あらゆる魔法に精通し、全ての称号を手に入れている。
みんながそんなメリリカを慕い、頼ってきた。
「魔女さま! どうか子供の病気を治してください!」
「村が日照り続きで、このままでは夏を乗り越えられません。どうかお力をお貸しください……!」
「おっけーおっけー。こう頼られちゃあしょうがない。任せといて!」
もちろんメリリカは喜んで、彼らの悩みをなんとかしてあげた。
彼女は人助けが好きなのだ。
ありていに言えば、人から感謝される瞬間が大好きなのだ。
だから、ありがとうの言葉が欲しいという下心のもと、どんな人の悩みも請け負って、寝る間も惜しんで働きまくった。
でも、残念ながらはメリリカは調子に乗りすぎてしまった。
ある日突然、過労で倒れて……。
◇◇◇
ハッと目覚めたら、どこまでも広がる花畑の真ん中に立っていた。
「あー綺麗だなあ。最近研究所に籠りっぱなしで、庭にすら出てなかったから、新鮮な空気が気持ちいい~!」
と伸びをしかけたところで、素に戻る。
「……って、待て待て。これ、おかしいよね?」
メリリカが倒れたのは魔法研究所の廊下だった。
こんなお花畑ではない。
なんか変だなと、直感が告げてくる。
「これは何か来るぞ……ってほらきたー」
突然、目の前がパーっと光って、神々しい後光を背負った女の人が現れた。
「メリリカ、残念なお知らせがあります。あなたは……」
「あ、はい。私死んだんですね」
「え!? あ、そ、そうですね」
かなしいかな、メリリカは死んでも天才であり、天才ゆえにものすごく理解が早かった。
「で、多分あなたは女神さま?」
「!? なぜそれを!?」
「だってここが死後の世界なら、あなたは何かしら天国の人ですよね。天使って子供かなーと思うので、大人のあなたは女神かなって」
「そ、そうですけど……!」
調子を狂わされた女神様は、気を取り直すように、こほんと咳払いをした。
「そうです。残念ながらあなたは過労死されました」
「そっかー、やっぱり過労死かあ」
さすがに依頼を請け負い過ぎたかもと肩を落とす。
でも後悔はしていない。
(だって褒められるの気持ち良かったしね~! ……うん、ほんとに)
『ありがとうございます!』
『あなたのおかげです! ご恩は一生忘れません!』
『あなた様は命の恩人です……!』
そう言われる瞬間に感じた充足感は、何ものにも変えがたかったから。
もう一度人生をやり直せるとしても、メリリカは同じ道を選ぶだろう。
「あれ。でも女神様が出てきたってことは、もしかして何か特典がつくんじゃないですか? 転生とか」
「ですから何故それを!? あなたもしや、すでに未来予知の能力を……」
「いえいえ、ちょっと考えればわかりますって」
女神様はメリリカを見つめて動揺しまくっている。
本気で未来予知の能力を疑われているみたいだ。
あんまり先回りして余計なことを言わない方がいいのかもしれない。
メリリカは口をキュッと結んで、大人しく振舞うことを決意した。
「……こほん。おっしゃる通り、記憶と能力を保持したまま転生できることになりました」
(おお! なんかラッキーだな。でもいいのかな?)
「あなたは今回の人生で数えられないくらい人助けを行い、徳を積まれましたので。特典をつけるに値すると神界で評価されたのです」
感謝されたいという下心があったことには気づいていないのだろう。でなければ太っ腹すぎる。
「下心がなかったら、特別な能力も授けられたんですよ」
「げっ。下心、バレてるんですか?」
「はい。初めて『白き魔ヶ羽の魔女』と呼ばれたとき、その名前が気に入りまくって、サインまで考えたこともわかっています」
「うわーーー! やめてーーやーーめーーーてーーー! 黒歴史だから!」
「自分が死んだと気づいた時より動揺してますね」
「当たり前です……! と、とにかく! そこにペナルティーがついたんですね。でも元の力を持って転生できるなら、それだけで充分です」
「そうですね。あなたは最強の魔女ですから。それでは転生の準備を始めます」