器、模索する3
私は、もういいと思っていた。
邪神にこの体を乗っ取られても、仕方ないと。私は精神的に疲弊していた。
これ以上の苦しみたくなかった。
だけど……
「俺を放すな」
レギウスの焦燥に満ちた言葉を聞いた時、はっとした。
私はよくても、彼は?
ここまで身を呈して私を守ろうとしてくれた彼の気持ちを裏切るというの?
それはできない。
私が消えれば、彼が苦しむ。
押さえ付けられた意識下で、懸命に抗うことにした。
カエシテ、カエシテ、ワタシノカラダヲ!
ジルシチュールの神力が、私の意識を引き戻そうと精神に入り込む。
「ほら、お嬢さん……トウコ、僕達が導くから出ておいで」
淡い光が道しるべのように、意識の底にうずくまる私を照らす。
「トウコ、俺達はまだ何も始まっていない。それなのにいなくならないでくれ」
背中から強く抱き締めて、レギウスは私に語り掛け続ける。
その一つ一つの言葉が、嬉しくて私の目を醒ますようだった。
必死で光を辿る。
オネガイ、アガネー、ワタシヲ、ウバワナイデ
「あ、あきらめないん……だから」
言葉が声になって出た。
「トウコ!」
レギウスの声に耳を澄ますと、すうっと意識が浮上する感覚があった。
「……レギウス」
呼ぶと、力が湧いてきた。
目を瞬かせた先で、ジルシチュールが緊張を解いてこちらを見ていた。
私が頭を巡らせると、すぐ後ろには茫然としているレギウスが突っ立っていた。
ふらふらと手を伸ばす私に、彼は気が付いたように、くしゃりと顔を歪ませた。
「もう泣くなよ」
今度は私を正面から柔らかく抱き締めて、レギウスは少し辛そうに言った。
「うん……泣かない」
彼のこんな不安な表情を初めて見た。
最初に抗った私は、どこに行っていたのだろう。
ぎゅっと、今度は私が慰めるように彼を抱き締めてみた。
私は彼に何も返していない。
これほどに心を注いでくれるこの人に、私ができることはやっぱり抗うこと。
「ありがとう、レギウス」
自分のことばかり考えて、私は彼に不安や心配ばかりさせていた。
初めて邪神から体を取り返した。
それは私の大きな前進だった。
「私、諦めないから」
決意を込めて頷く私に、レギウスはようやく表情を緩めて、急にそわそわしだした。
「そうか………取り敢えず服を直せ。俺はいいが、他の奴が見てる」
「え?」
隠すように私を腕に閉じ込めてるのは、本当に私のはだけた体を隠していたわけで……
「………美しいですね」
顎に手を当てたジルシチュールが、慈愛の笑みを偽って私を観賞している。
「え、きゃああ!」
「見んな!」
手で前面を隠して、わたわたして部屋に走り去る私の背後で、レギウスがジルシチュールの顔面に手のひらを押し当てて妨害している。
さっきまでのことが嘘のようだ。
決心がついたら、勇気が沸いてきた。
部屋に戻り、扉に凭れて深く息をついた。
大丈夫、きっとうまくいく。私は一人じゃないのだから。
「そういえば、キスしてない」
ふふっ、と笑いが漏れた。
翌日、大公の騎士団に連行されるなんて考えもしなかった。




