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器、去る3

 

 男が暗器を放ったのを、レギウスは身を捩って避けた。だが、ランドの追撃にバランスを崩し片膝を付いてしまう。


「………あんた達は、邪神を利用して上手くいくと本当に思ってるのか?!」


 ランドの短剣を受け止めながら、レギウスは言った。ピクリと、ランドは眉を上げたが無言だ。


「人間が神の力を利用するなんてできると思うか?一歩間違えれば、アンムートは自滅するぞ」

「…………………」


 返事をしないランドに、眉をしかめて攻撃を押し返す。


「アンムートの犬め!」


 私は、それを横目にセリの手から逃げていた。


「待ちなさいよ!」


 傷を付けたら力が発動するので、素手で捕まえようとする彼女と追いかけごっこみたいになっている。

 伸ばしてきた手を、スパァンと払ったら、セリは怒りの形相を濃くした。


「この女!」

「な、何よ、怪我させたらアンムート滅ぼすから!」


 後退しようとしたら、巫女服の長い裾を踏んづけて転んでしまった。


「きゃ」

「ふん、良い気味」


 鼻で嗤ったセリが歩み寄る。


「光よ照らせ!」


 真っ昼間に太陽を直接見たような眩しさを突如感じて、驚いて目を瞑った。


「さ、もたもたしてられません」


 ジルシチュールの声が聞こえて、私は腕を引っ張られた。

 導かれるままに走り、細く目を開けたら、騎乗したレギウスが私に手を伸ばしているところだった。


「よっ、と」

「ひゃん?!」


 私のお尻をぐいっと押し上げて、馬に乗せるのを助けたジルシチュールは「わざとじゃありません、急いでますので」と弁解した。

 レギウスが見逃さずに低い声を出した。


「おい、どこを触った?!」

「うーん、柔らかい……じゃない、さ、早く!」


 ランド達の足を神力の光で巻いて足止めをして、ジルシチュールももう一頭の馬に乗る。


 駆け出す馬に、慌ててレギウスの腰にしがみついた。

 全力疾走で馬を走らせ、途中エノンの人間と合流し国境を目指す。私は彼らに誘導されるまま、レギウスにしがみついているしかなかった。


 追手はなかった。あったとしても、かなり急いで馬を進めたので追い付いてきていないだけかもしれない。


「皆さん、ありがとうございます」


 今度はエノンで利用されるかもしれない。だが、アンムートよりはマシかと思う。

 私は少なくともジルシチュールを信じられそうだったので、彼らに素直に御礼を言ってみた。


「礼なんて」

 

 総勢10人の皆は照れた様子。事情を知っているらしく同情を滲ませながら、私にも好意的に接してくれた。


 森の奥で薪を焚いて数時間仮眠を取った後、再び移動を始めることになった。早くアンムートを越えたいのは皆同じだ。


「トウコは馬に馴れてないから疲れただろ。休めよ」

「うん」


 野外で眠るなんて初めてだ。

 草地とはいえ固い地面に、ごそごそと忙しなく寝返りを打っていたら、様子を見ていたレギウスが、寝袋ごと私を引き寄せて後ろから抱くようにして木に凭れてくれた。


「あ、ありがと」


 世話を焼かれっぱなしで、恥ずかしい。

 大人しく身を預けて目を瞑るが、これはこれでドキドキして寝づらい。彼の逞しい腕に囲われているのに、意識して落ち着かない。


 でも、もうすぐしたら私はそんなことも思わなくなるかもしれない。それが寂しかった。


「レギウス、後で話したいことがあるんだ」

「…………俺も聞きたいことがある。トウコが起きたら話してもらうからな」


 な、なんだろう。頭の上から降ってきた声は、どこか冷え冷えとしていた気がする。






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