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器、去る

 


 レギウスは青い瞳を揺らしながらも、懸命に私の目を反らすことなく見つめ続ける。


「わ、私、でも」

「あんたの中にあるアガネーは憎い。俺の仲間を大勢殺したのだから。それに、あんたを苦しめてるからな」


 ゆっくりと、私の頬に触れたレギウスの手はごつごつして固くて、暖かい。


「トウコ、こんな所にいてはダメだ。俺達とここを出るぞ」

「………レギウス」


 へにょりと唇を歪めて泣き顔の私に、少し迷った挙げ句、レギウスは私の額に唇を落とした。


「俺が守りたいんだ。トウコ、好きだ」


 その言葉に押されるように、彼に一歩歩み寄れば、待っていたかのように素早く腕に囲われる。ドキドキと速い鼓動に彼の緊張を感じ、それが私のせいだと思うとたまらなく嬉しさと安堵が込み上げた。


「ううう、怖かった。私怖かったの」

「大丈夫、トウコの嫌なことは、もうさせない」


 許されるのだろうか。私といたら、またこの人は危険な目に遭うんじゃないだろうか。


「レギ……あ」


 彼の胸に手をついて見上げれば、「よ、よし」と小さく気合いのような声を上げ、私に唇を寄せてきた。


 そろそろと緩慢で、逃げようとすればできる程なのは、私の反応を窺っているかららしい。

 その仕草の優しさが嬉しくて、私はぎこちなく目を閉じて待った。


「もういいかい?」

「っ、ぐっ」


 わざとなのかと思うほどの絶妙なタイミングで、ジルシチュールが声を出して、私もレギウスも、ビクッと動きを止めて目を開いた。


 ジルシチュールの方を見ると、にっこりと確信犯的な笑みを浮かべて、こちらを見ている。


「こ、この」

「さあ、早くここを出なければ。続きはまたの機会にしましょう」


 恥ずかしくて向こうを見ている私とは裏腹に、レギウスは彼を悔しそうに睨んでいるみたい。

 私の背中に回していた手が名残惜しそうに離れていくので、その前に彼の二の腕に額をこつんと付けて甘えておいた。


「ぐ、トウコ…」

「ではこれを着て下さいね」


 呻くレギウスを無視して、ジルシチュールが巫女服を渡してきた。


「わかった。でも3人で脱出できるの?」

「先にあなたとレギウスで脱出して下さい。その後に僕が一人で逃げますから」

「そんなこと…大丈夫なの?捕まったら」


 心配する私に、ジルシチュールは近付くと困ったように苦笑する。


「優しい人ですね、あなたは……さぞ苦しかったでしょうに」


 するっとレギウスの前に割り込んだと思ったら、今度は私の頬にジルシチュールが軽くキスをした。


「ふえ?」

「あ!ジル……てめえ!」


 レギウスに襟首を絞め上げられながらも、「可愛らしいお嬢さんですね」と、ジルシチュールは私に慈愛の目を向けている。


 家族的なキスだと受け止めた私は、恥ずかしいけれど、さほど気にはしなかったが、レギウスは違ったようだ。


「くそ、俺の邪魔しやがったくせに、何してやがる!」

「ほら、脱出しますよ!」


 促された私は、巫女服をドレスの上から被った。もぞもぞと手を動かして、服の下からドレスを抜き取る。

 パサリと足元に落ちたドレスを見て、不思議そうに私のすることを見ていた二人の内一人が鼻を押さえた。


「うく」

「どうしました、レギウス。想いが通じて調子こいて、際どい妄想を膨らませたりして」

「だ、黙れうるさい」


 いつの間に、こんなに良いコンビになったのだろう。巫女服を整えて羨ましそうに二人を見ていたら、ジルシチュールがフードを被せて髪を隠してくれた。


 再び神官に化けたレギウスが、まだ赤い顔のまま私の手を握った。扉に手をつき、私を真剣に見て言った。


「行くぞ……俺が絶対に守るから傍を離れるなよ」





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