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器、従う2

 

 光の神も闇の神も女神だという。


 闇の神アガネーは、光の神アストリアの対照に位置していて、善であり全ての良きものの象徴が光の神なら、悪であり全ての忌まれるものの象徴が闇の神だそうだ。

 だから、邪神と言われる。

 大半の人間は、光の神がいいに決まってるから信仰されるのはそっちだ。


「だからって、なんでこんなドレス私が着ないといけないの」


 また大きく胸が開いたドレスを着せられた。今度はダークレッド一色でスリットがざっくりと入って太腿まで見せている。

 色っぽいドレスだが、私に合っているのかはわからない。


 鏡で見て、胸を隠したくて生地を引っ張ってみる。固い生地は固定されているように胸を遠慮がちにしか隠してくれない。


 これがアガネーのイメージなのだろう。淫らで退廃的な格好。

 これを私の元の世界で着たなら、下品と言われるに違いない。

 いや、まず着ない。恥ずかしすぎて死ぬ。


「うう、もうやだ」


 アンムートの神殿。最初に幽閉されていた部屋の大きなベッドにダイブする。

 嫌でも他に服が無いから着ないと仕方ないのだ。


 神様用なのか、広く豪華な部屋に食事は豪勢で贅沢すぎるぐらいだ。


「器様、お時間でございます」


 神殿の巫女である側仕えの女性に言われて、顔を上げる。

 黙ったまま立ち上がると、手を引かれて部屋を出る。

 ここに戻ってきてから毎日のようにある実験の時間だ。


 神殿の地下へと連れて行かれながら周りを見ると、少し離れた所にランドがいて、こちらを監視しているのに気づく。

 そういえば、私に怒っていたセリを見ない。あんなことがあったから、私と関わらない仕事をさせられているのだろう。


 薄暗い神殿の地下には、神官長と神官と巫女が数人待っていた。壁も床も天然の石の切りっぱなしで、もしかしたら元々鍾乳洞だったものを削ったのかもしれない。

 広い円形状の空間には中央に寝台があり、その周りにはいわゆる魔方陣が赤い絵の具のようなもので描かれている。血のようで気味が悪い(本当に血だったら嫌だな)


 上の階より冷え冷えした空気が漂うそこで、いつものように固い寝台に寝かされる。


 痛いことはしないので、私は大人しく目を閉じた。


 神官長が、私の額に手を翳す。詠唱というのか、朗々と歌うように呪文のようなものが全員の口から流れてきて、私はそれを聴いていると次第に眠くなる。


 でも、私は眠りながらも知っている。その後に、勝手に体が動いて操り人形のようになるのだ。

 回数を重ねるごとに、体が勝手に動き出す時間は長くなってきて、遂に言葉を発するようになったのは今日が初めてだった。


 自分の声だとは思えないほど、凍えるように冷たくて艶のある声だった。


『闇の愛し子よ、妾を欲するは何故か』


 ゆらりと上半身が起き上がり、両手を寝台について、クスクスと笑う。誘うように身をくねらせ舌で唇を舐めると、見ていた神官達がごくりと喉を鳴らした。


 遠くから見ている感覚で、私はゾッとした。私の体を私ではない意思のある存在が、自由にしている。


「闇を司りし美しき女神アガネー、我がアンムート皇国の邪魔になる全てのものの排除を請い奉らん」


 神官長達全員が、恭しく膝をついて頭を垂れた。


「代償は、その娘の体にてこの世の受肉とされませ」

『………心得た』


 そう述べると、神官長が感極まったように喜色の表情を浮かべた。


「おお、アガネー様」


 うっそりと微笑んでみせるアガネーの隠された意思を、私だけが感じ取った。


(愚かなる者。妾が人の子ごときに従うことなど有り得ぬ。一国の繁栄に力を貸すなどつまらぬことよ。受肉の身なれば、本質のままに……)


 やはり人が神の力なんて欲してはダメだ。これから起こることを予感した私は、戦慄に身を竦ませるしかなかった。






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