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器、守る3

 

 自分でも違和感はある。躊躇無く危害を加えようとした男を介抱するなんておかしい。

 彼の理不尽さには、不愉快だし腹立たしい。でも反面、哀れみと同情を感じた。放っておけなかった。

 私は自分がどれだけ愚かか知らなかったから。


「トウコ」


 眠っていたら、すぐ上から声がして驚いて目を開けたら、いつの間にかガイルが覆い被さるようにしていた。


「あ!」

「悪夢を視るのか」


 またうなされていたらしい。目から涙が流れていて拭こうとしたら、ふいにガイルの舌がそれを舐めた。


「きゃ、なに」


 台所の隅の床に毛布で丸まって眠っていた私は、彼が弱っていると油断したのを後悔した。目覚めても、ガイルは私を下にしてどこうとしなかった。


 頬を舐めていた舌が首を辿り、ビクリと体を揺らした。ふっ、と息を吐き出して彼が囁く。


「……柔らかい」

「やめ、て」


 首筋を軽く吸われて、腕を突っぱねて彼の肩を押すが、びくともしない。

 するすると手が体の線をなぞり、服を緩めようとする。


 決して性急ではないが、淀みのない強引さに絶望を感じた。隙を与えた自分の愚かさが恨めしい。ガイルが考えるようにしていたから、安易に変わると信じてしまった。彼は元から、こういう男だったというのに。


「い、嫌なことはしないでと、言ったのに!」


 私の肩の辺りに顔を寄せたガイルの表情は、わからない。泣き声のまま叫んだら、意外にも彼は苦しそうに呻いた。


「お前に何を言われようが、俺はお前が欲しい。それが俺の『好き』だ」


 驚く私を顔を上げたガイルが見つめる。ランプの灯り一つの薄暗い中で、熱を帯びた瞳を怖いと思った。


「や、ん、んんんっ!」


 顎を掴まれた時には唇を奪われていて、私の中で唐突に確信が沸き上がった。だから、唇が離れた途端に私は息を吸い込んだ。


「レギウス!レギウス!!」


 這いずる手が止まったが、顔を覆った私は気にする余裕なく名を呼び続けた。


「レギウス!レギ……」


 嫌だ嫌だ!触れられるならレギウスじゃなければ嫌だ!求められた時に応えていれば良かった!


「うう、レギウス、レギウスっ」


 こんなにも彼だけが愛しい。会いたい。

 恐ろしいことをしでかした私だけど、それでも抱きしめてもらえたら……


「………そんなにも」


 泣いている私の首にガイルの指が絡む。


「そんなにもあいつが!」


 首を絞めようとするガイルは、悲しそうだった。けれど、この気持ちに嘘はつけない。


「レギウスが、好き」


 心の機微に疎い彼に、言い慣れない言葉を敢えて選んで、教えるように重ねる。


「彼を、愛してるの」


 私に触れる彼の手に瞬間力が入る。息苦しいけど、死ぬことも叶わない私は彼を真っ直ぐに見つめ続けた。


「愛?なんだそれは……」


 顔を歪めたガイルは、自らのこめかみの辺りに片手を押し当て、体を起こすと私の傍に座り込んだ。

 混乱しているのか、動かなくなった彼を見て立ち上がる。


 もうこれ以上、彼といることはできない。


 部屋の戸を勢いよく開けて外へと飛び出した。


 私、一体何をしていたんだろう!


 後ろも振り返らずに暗い森を走った。小さな枝が私の頬を掠め、血が垂れた。それに気付いて走るのを止めて、手の甲で血を拭う。

 この程度の痛みでは、神は現れない。


 湿ったまぶたも拭っていると、後ろから羽交い締めにされてしまった。


「うう」

「やはり器です」


 私を羽交い締めにしているのは女だった。彼女の声を合図に周りから二人の男が現れた。


「生きていたの」


 くすんだ銀髪も見慣れた。アンムートの手の者だと、すぐに分かったが私は抵抗もする気になれなかった。


「器は連れて行く。無駄に刃向かうな、ガイル」


 男が、私の背後に声を掛けるのにギクリとして女共々振り返る。

 小太刀を片手にガイルは男を睨んでいた。


 また争いを繰り返すのか。いい加減、誰かが傷付くことにうんざりした私は目を閉じた。


「もうやめて。これ以上戦うなら、舌を噛み切るわ」


 私の力を知っているからか、羽交い締めにした女が動揺したらしく身動ぎした。


「トウ」

「聞かないから」


 ガイルの言葉を遮り、私は男に言った。


「抵抗しないから、ガイルは放っといてあげて」


 訝しむように私を見た男だったが、すぐに部下に頷いた。


「器を守れ」


 私の腕を掴み、男が走り出した。


「待て!」


 追いかけようとする彼の前に部下達が立ち塞がっている。だが、直ぐにガイルの姿は見えなくなった。


 途中で馬に乗せられても、私は抵抗しなかった。

 何が最良の選択か、上手く判断できない。


「器よ、お前がもう逃亡しないと誓うなら1つ教えてやろう」


 馬を操りながら、男は私に初めて声を掛けた。


「目的を果たした暁には、神官長様に元の世界に帰してもらうがいい」




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