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器、知る2

「器は、神の依り代。神そのものをその身に宿すのです。神力とは桁が違います。闇の神の力は、破壊と死をもたらすもの。そんな力をどうして人間ごときが制御できるでしょう」


「トウコは大丈夫なのか?つまり神に生身の身体を貸しているのだろう?」

「そうですね、前例がないので………ただ分かるのは器である限り彼女は死なないこと。そして力を発現させることが繰り返されれば、いずれ自我を失い、神に完全に乗っ取られるでしょう」


 乗っ取られる?


 俺は神を信仰してはいるが、現実世界にその存在が現れるなど想像もつかない。そんな大それたことの為に、トウコが利用されていることにムカッ腹が立つ。


「だから彼女が彼女である内に、エノン公国は器を保護したいのです。僕はアンムートが邪神の力を操れるとは思っていません。力が完全に放たれれば、アンムートもエノンも更には世界中に死と破壊がもたらされる……神力持ちとしての予感ですがね」


「………とんでもない話だな」

「怖じ気づきました……と言うわけではないようですね」


 深いため息をつき、しばし目を閉じる。


 人間である自分に、どれだけのことができるかわからない。だが、トウコがもう苦しまないよう守りたいとだけ強く思う。


「力の発現のきっかけは何だ?」

「身体的な苦痛。特に怪我を負うことです」

「は!どこまでトウコを……」


 死なないとしても、痛みはあるだろうに。どんなに怖くて辛い目に遭って来たのか。

 あの戦場でトウコと初めて会った時、彼女は二重の苦痛を味わっていたのだ。

 意図的に傷つけられた身体的な苦痛と、強制的に大量殺戮を強いられた精神的苦痛。


 夢でうなされるのは当然だ。


 傭兵として幾多の兵を斬り捨ててきた俺でさえ、どんなに慣れたように感じても、人を斬った直後は心が重く沈む。俺の神への信仰は、殺めた人々の供養と懺悔からきている。

 心のバランスを保つ為に必要だったと言えるだろう。


 トウコの言動や性格を見るに、きっと元いた世界は少なくとも彼女に人を殺めさす世界ではなかったはずだ。


 器となったばかりに、どれだけ苦しんでいるか。


「………力の発現時、あんた達はどうやって免れたんだ?」

「邪神が好むのは、死と破壊。反対に命あるものを嫌い、創造を厭います」

「ああ、そうか」


 俺がようやく理解して呟くと、ジルシチュールはイチジクタルトを三切れ食べ終えて答えるように頷いた。


「もう10年以上毎日食べていますが飽きませんね、このタルト。あ、神殿の収益となりますので一箱買います?」

「じゃなくて」


 いきなり真剣な話を挫かれて、神官長を睨む。

 ズズッとお茶を飲み、俺の冷たい視線を浴びてもジルシチュールはマイペースだ。


「死人は息をせず、瞳に何も映さず、何も耳にしない。そういうことだろ?」

「死んだフリは得意ですか」

「……状況による」


 俺は死ねない。

これ以上トウコの心に苦痛は与えられないから殺されるわけにはいかない。


「生きるために死んだフリをするとはな」


 俺の呟きに、口元を拭ったジルシチュールは考えるように遠くを見て、神官らしい言葉を溢した。


「生と死は常に隣り合わせ、ですからね」


















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