器、知る
「どこから話しましょうか?」
神殿奥の小部屋に通され、俺はジルシチュールと向かい合う形でテーブルを挟んで座っている。
「俺のことを知っているのは、クイントが話でもしたのか?」
「ええ、そうです。彼女の同行者ということで、あなたの身辺調査をさせていただきました。けれど彼女のことはピースラの戦場の出来事より更に前から把握していました。アンムートが異世界から娘を召喚したことは、直後から密かに潜り込ませた者の報告で知っていましたが……よもや兵器として利用するとは思いもよりませんでした」
そう言って、ジルシチュールは俺が特に反応しないことに首を傾げた。
「おや、驚かないんですね。彼女から聞いていたんですか?」
「………いいから話せ」
「兵器」だということは、トウコの言動や戦場の状況から何となく分かっていた。俺は、苦しむ彼女の為に知らないふりをしていただけだ。
「僕が彼女の力の正体に気付いたのは、戦場の惨状もそうですが、その力の発現の気配。僕も似た力を持っていますから」
ジルシチュールが手のひらを上にすると、光が丸くふわふわとそこに浮かび上がった。
トウコの力を見た後だからか、驚きも段々と小さくなっているようだ。
光は白くなったり黄色や金色に変わったりして、どうやら彼の意思で自由に操れるらしい。
「その力は一体何なんだ?まさかと思うが…」
「うーん、まあ魔法……というより神力と呼んでいます。僕は生まれつき神力を持って生まれた為に、神官になることが定められていたんですよ」
「神力?……つまり神の力を使えるというのか?」
「神の力なんて、僕は光の女神アストレアの加護を僅かに頂いているに過ぎません」
はにかむジルシチュールに愕然とする。
「神力など初めて聞いたし、今まで見たこともなかった」
「そうでしょうね。神力持ちは滅多にいませんから国の秘密になっているのです。エノンでは僕しか使えませんし、アンムートでも神官長だけでしょう。世界中探しても数人いるかどうか……とは言ってもアンムートの神官長の神は違いますが……どうぞ、シュデ神殿名物イチジクタルトです」
茶菓子を目の前に出されても、食べる気になると思っているのだろうか。
「神が違う、と言ったのか?」
「ああ、アンムートですか、違いますよ。表向きアストレアを信仰していますが、闇の神アガネーの神力持ちの神官長がいるのです」
ジルシチュールは、クスッと笑った。
「野心家のアンムート皇国ですからねえ、武力として考えるなんてナンセンスですよね。神力は人々を導く為に」
「トウコは、神官長の神力で召喚されたと言うのか。彼女は普通の娘だったと言っていた。なぜわざわざ呼んだ?」
頭の奥で、これは自分には到底及びもつかない途方もない領域だと、自らの本能に近い部分が警告している。
「アンムートの神官長は人であるにも関わらず、たかが他国を征服するという目的の為に、神の領域を侵しました。彼は異世界の若い女性なら誰でも良かったはず。異世界の者だけが神に気に入られた適合者として、器と成りうると知っていたのです」
湯呑みを手にしたままのジルシチュールは、テーブルに置いた手をぐっと拳にする俺を見て、ほんの少し悲しげな顔をする。
「つまりトウコは闇の神の器となる為に、その為だけにこの世界にやって来たと言うのか」
ジルシチュールは、否定しなかった。
「ピースラの戦場で兵を全滅させたのは彼女の器としての力のせいです。国境では僕は確かにその力を目の当たりにしました。間違いはないでしょう。彼女は…」
言い澱むのは、忌まわしさのせいか。
「闇の神アガネ―の………破壊と死をもたらす、邪神の器なのです」




