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少女出会う2

 

 俺は、エノン公国という小国で傭兵をしている。今年で7年目になるか。


 小さい頃、故郷であるこの国で大公の結婚式があった。両親に手を引かれ道端で騎士団の行進を見送って、そのカッコ良さに憧れて、将来は自分も騎士になると夢を持っていた。


 だが、騎士になれるのは貴族の子息と決まっている訳で、平民の貧しい生まれの俺には夢に過ぎなかった。母は、俺が8歳の時に病気で死に、父と二人で暮らしていた。彼は、寡黙だが優しい人だった記憶がある。

 俺を養う為に、父は頻繁に出稼ぎに出ていた。使い古した鎧と剣を背負って出掛ける父の後ろ姿を、俺は何度も見送った。


 どこへそんな物を持って行くのか、何をしているのか聞いたことはない。近所の家に預けられ父の帰りを待つ間、今度こそ聞こうと思うのに、実際帰って来た父の疲れた顔を見ると何となく聞けないのだった。多分、幼いながらも大っぴらに言える仕事ではないと感じていたのかもしれない。


 14の歳、父が帰って来なかった。代わりに父の仲間だという人物から、父が傭兵だったことを聞かされた。

 どこかの戦場で、人知れず死に朽ち果て、遺体すら戻って来なかった。


 俺は父の死に悔しさと悲しさを感じたが、目標も見つけた。騎士になれないなら、父のように傭兵になればいい。腕を磨き、いつか騎士に並ぶ名声を立ててやる。

 騎士への憧れは、実は戦いへの憧れだったと、その時には気付いていた。


 父の死を告げに来た彼の傭兵仲間に、半ば無理やり頼み込んで付いて行き、剣の腕は実戦で磨いた。幸いにも俺は、父と遊びで剣を交わしていたし、素質もあったらしい。直ぐに自立していっぱしの傭兵として生計を立てるようになった。


 故郷であるエノン公国は、隣国のアンムート大皇国から何度も侵略の危機にあっていた。俺達は、それを何度も阻んだ。

 国境でアンムートの兵を蹴散らすのは、俺達傭兵の仕事。騎士団は、盾となる俺達の後ろで大公を守るのだ。


 小競り合いが長年続き、俺達はそれで稼いでいた。エノン公国は、小国ながら金の産出国として潤っていて、アンムートがそれを狙っている反面、傭兵には給金の良い依頼主だった。


 傭兵は、金銭主義とか命で稼ぐ卑しい奴らと言われて侮蔑されることが多いが、大義名分なんて面倒なことがないから負け戦と判断したら、手を引く気軽さもある。


 だから今回の戦いも負けそうなら、仲間と戦場を去れば良いと軽く考えていた。

 だが、これまでのどの戦いよりもアンムートを追い詰め、このまま攻めいってしまえるのではないかと言うぐらいの勝ちを目前にし、俺はかつてないほどに高揚し、勝利の喜びに胸踊らせていた。

 旨すぎる展開に、奇妙だと早く気付くべきだった。


 撤退するアンムート兵を薙ぎ払い、本陣にまであと少しだという時だった。


 突如として、闇が視界を覆った。


 目を開いているはずなのに何も見えなくなり、咄嗟に危機を感じ地に身を伏せる。


 なぜか肌が粟立ち、訳のわからない恐怖が押し寄せる。


「なに、が」


 いきなり気味の悪い空気を切り裂くような高い音が、耳をつんざく。獣の唸りのような、または女の絶叫のような音に驚く時間はなかった。意識が途切れて、どうしてこうなったのかわからない。


 再び目を開けた時には闇は消えていたが、自分は既に屍に埋もれていた。

 そして、死に行く者であった。


 ****************


 …………まだ夢を見ているのか?


 座っていた状態から、いつの間にか横たわっている。

 天井には、木の枝に支えられるようにして天幕らしき大きな布が張ってあった。雨が降っているらしく雫がそれに当たる度にポツポツと小さな音色を奏でる。


 寒くはない。背中には同じように水を通さない天幕を敷いているのか、野外のはずだが地面の固さはあまり感じない。

 寧ろ暖かい。特に腹辺りが。


「ん、う?」


 体は動かないと思ったが、少し重さを感じただけで浮かすことができた。

 傷の具合を見ようと視線を巡らせて、固まった。


「………そうか、天国に行けたのか」


 俺は裸だった。そして俺の腹の上に女が顔を引っ付けて眠っていた。ついでに言うなら、彼女も僅かな布を下に引っかけただけで裸だった。


「…………………悪くはない」


 うつ伏せなので見えないが、腹に柔らかさを感じて呟く。


「ん……」


 聞こえたのか、もぞもぞと彼女が動いて起きる兆しを見せた。


「…………………………………」


 俺は彼女の瞳の黒さを垣間見て、逆に瞼を閉じてみた。

 寝たふりだ。


 女が体を起こし、俺の顔に視線を向けているのを感じる。

 そっと額に手が触れて、僅かに身動ぎしてしまう。

 どうやら熱を測っているらしく、暖かくて気持ちが良い。


「………大丈夫かな」


 心配そうな声に聞き覚えがあった。

 トウコと言ったか。


 やがて俺の腹に顔を再びくっ付けたトウコは、その手を俺の胸から首に掛けて抱くように置いた。

 どうやら体温で暖めてくれているらしい。


 天国、天国だ!


 ふいに涙が込み上げる。神は俺を見捨ててはいないらしい。卑しい傭兵にも、一時の夢を見せるとは。

 つい声に出してしまった。


「神よ、感謝します」

「え?」



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