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少女、ではない3

「どうしたの?」

「しっ」


 馬を止めたのは、検問所から数百メートル手前の森の中だった。辺りはとても静かだった。ピチュピチュと鳥の鳴き声が聴こえる。


「…………国境だというのに、人が少なすぎる」


 レギウスは遠くに見える検問所に目を向け、耳を澄ませていたが、すぐに一人馬を下りると柄に手を掛けた。

 検問所には、誰も見えない。いつもなら列をなしているのだろうか。


「何者だ、出てこい。いるのは分かっている」


 そう彼が言えば、前方の左右の茂みから音も無く現れたのは6人の男女だった。その内の5人は剣を携え、残りの1人は代わりに長い杖のような物を片手に持っていた。


「危害を加えるつもりはありません。あなたが、アンムートから来た黒髪の娘ですね?」


 杖を持った青年は、まだ二十代半ばだろうか。長い金髪を肩まで垂らし、馬上の私を見上げる顔は人懐っこい笑みを湛えている。

 警戒心で私が返答に窮していると、レギウスが口を挟んだ。


「殺気は無いようだが何者だ?まずそちらから名乗れ」

「ああ、ごめんなさい」


 今気が付いたように、青年は礼儀正しく頭を僅かに下げた。


「僕はエノン公国の神官ジルシチュール。大公様の名の下、君を保護する為に参りました。あ、後ろの人達は僕や君の護衛だよ」

「何その名前、美味しそう」


 私が色々と驚いていると、レギウスはまだ警戒を解かずにジルシチュールを睨むようにしている。


「ジルシチュールとやら、一応聞くが護衛の後ろにいる奴等は、護衛じゃないよな?」

「え?」


 ジルシチュール達が振り向くのと、レギウスが剣を抜くのと、森の更に奥から黒い装束の者達が踊り出るのは、ほぼ同時だった。


「レギウス!」

「そこを動くな!」


 私に言い置いて黒装束の者達の前へと走り出す彼に、胸がギュッと締め付けられる。


「誰です?」


 ジルシチュールが場違いなほどに、ほんわかした声で問うが、私は知っている。こんな場面では、怪しい奴ほど名乗らないことを。


 ジルシチュールの護衛は、彼と私を守るように周りを囲って防御に回る。

 いやいや、レギウス1人で戦ってるし!


「ちょっと!あの人を助けてよ!」

「ジルシチュール様、彼女とお逃げ下さい!」


 私の言うことを無視して、護衛が彼に促すが、ジルシチュールは首を振った。


「いえいえ、僕も戦いますよ」


 杖を構えて彼らに並ぶジ……もうジルでいい!


「ちっ!そっちに行ったぞ!」


 1人と斬り結びながら、レギウスが脇を抜ける黒装束の男を横目にして叫んだ。

 ジルがブツブツと何か呟いていると思ったら、持っていた杖の先端が白く光り出した。


「光よ、行く手を遮る者達を捕縛せよ!」


 厨2病を発したのか?ジルが言った瞬間、杖の光が突如杖から離れて三つに分かれて敵の足に巻き付いた。


「な、なに?」


 呆気に取られる私と違い、レギウスも残りの敵も僅かに目を見張っていたが、また直ぐに戦い始めた。


「お嬢さん!」

「は、はい?」


 ジルが杖を操りながら、私を振り向いた。


「ここは危険です。馬を操り元来た道を走りなさい」

「え」

「あなたを他国には出せません。エノンに留まる為に、引き返して欲しいのです。さあ、早く」

「………馬操れないんです」


 私の言葉に、ジルが「へ?」と間抜けな顔をした時だった。

 馬の尻に黒装束の1人が放った暗器が刺さり、痛みに驚いた馬がいきなり走り出した。

 ちゃんと元来た道を。


「きゃあああ」

「トウコ!彼女を1人にするな!」


 レギウスがジル達に怒鳴るが、馬は止まらない。

 瞬く間に彼らの姿が見えなくなり不安になった。


「止まって!」


 低く屈み、馬の首にしがみついていたら、横手の木の上からタイミングを見計らったのか男が私の後ろに着地して驚いた。


「え、きゃ!あ、あなた」


 以前見たことがある。

 彼は私をじろりと見ると、手綱を引いた。そのまま二股の道まで来ると、知らない方の道へ進もうとするので焦る。


 くすんだ銀の髪の男は、以前ガイルに連れ去られる直前に彼と対峙していた上司らしき人だ。


「アンムートに私を連れ戻す気?!」

「………………………!」


 問うても無言で馬を早足で進めていた男は、急に私の腹に手を回して馬から転げるようにして降りた。


「きゃあ!」


 這いつくばった草むらから顔を上げたら、私の前に小太刀を構えた先程の男とガイルがいた。


「ガイル、あくまで邪魔立てするか」

「その女を渡せ」


 ようやく口を開いた男は冷静な表情だったが、ガイルは苛立ちも露にして同じように小太刀を構えた。


「この娘は、アンムートの所有物。ガイル、お前の自由にできる女ではない」

「………渡せ」


 ガイルは男を見ているのではなく、私を見ていた。

 起き上がって座り込む私は、彼らを見ていることしかできない。逃げようとするのを、どちらも許さないだろう。


 怖い。ガイルの視線は私を切り裂くように鋭くて、それなのに熱を感じた。

 分からない。私が彼に何をしたというのか。


「トウコ!」


 馬の嘶きと共に、名を呼んだレギウスが彼らの間に割り込んで剣を翳すのを見て、たちまち泣きそうになる。必死に追いかけて来てくれたのだろう、息を切らしている。


「れ、レギウスっ」


 私をちらっと見た彼は、ホッとしたように僅かに笑った。それを見て、私も少しだけ落ち着く。


「しかし、これはどういうことだ」


 レギウスが戸惑うのも無理はない。

 ジルシチュール達のエノン公国、アンムート皇国の者達、そしてガイル。

 皆が、私を奪い合うという異様な構図が繰り広げられていた。











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