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少女、ではない2

 それからは、ずっと気まずい状態が続いた。

 必要なことは話すが、それ以上は踏み込まない。沈黙が増えた。


「何であんなこと」


 キスしたいと欲張るから。最後まで平気な顔して彼女を送ろうと思っていたのに。


「いや、あれはトウコが悪い。馴れ馴れしく触ってくるか、ら」

「お待たせ、行こっか」


 家を後にして、トウコが騎乗する俺に近付いてきた。手を差し出すと強張った表情をして、恐る恐るといった風に手を伸ばす。引っ張って馬上に上げると、こっそりと溜め息をついた。


 こんなことなら言うんじゃなかった。

 情けない、自制もできないとは。


 今だって、すぐ前に座る彼女の色っぽいうなじから目が離せない。

 あのまま生家でトウコと過ごせたら、と頭をよぎった自分が恥ずかしい。

 友人だと、そう彼女から距離を取られたのに、どこかで期待していたのだ。


「…………国境を超えると言っていたけど、検問は簡単に通れるの?」

「身分証を作ったと言っただろ。それを見せれば、よほど挙動不審な態度をとらない限り簡単に通れるはずだ」


 国境を超えた所の国……エノン公国に接するルッテ国は、アンムートやエノンに中立な立場を取っている。

 どちらの影響も受けてはいるが、食料資源の豊富なルッテは、両国の食卓を制しているのだから立場は悪くない。


「レギウス、あの」


 俯いたまま、振り返ることなく彼女は話している。


「あのね、もし私が誰かに捕まったり、あなたに命の危険が迫るような事態になったら、迷わず私を見捨てて欲しいの」

「…………………」

「もし何か手違いがあって国境を超えられなかったら……もう面倒みなくてもいいよ、もう十分してもらったし」

「……………アンムートに帰る気か」


 我ながら冷たい声を出したと思った。


「…………」

「俺に助けて欲しいんじゃなかったのか?急に弱気になったのか?」


 察しがついた。おそらくトウコは、俺を拒もうとしている。

 苛立ちは、怒りに変わってきていた。


「ごめんなさい」


 か細い声で、それだけ言うと彼女は黙ってしまった。


 何も話す気になれず、手綱を強く握り締めて村を抜け、町を通り、森を過ぎる。途中寄った飲食店で昼飯を食べるが、味なんてちっとも感じない。


 生家で共に作って食べた食事の方がよっぽど旨かった。

 それは、彼女と心が通っていると勘違いして満たされた気持ちでいたからだとわかっていた。


「………さっきの私の話、わかってくれた?」

「ああ」


 いつまでも空にならない皿を見つめて約束する。


「友人の言葉だからな、俺は危なくなったらあんたを置いて逃げることにする」

「うん、友人だもんね」

「………トウコ」


 消え入りそうな声音に彼女を見れば、唇を震わせて今にも泣きそうにしている。


 どうして涙を見せるのか。

 その意味が……もうわからない。


 ふい、と俺の視線を避けるように横を向いた途端、ポタリとトウコの目から雫が落ちた。


 友人?

 そんな役を押し付けて、彼女は何もわかっていない。

 友人は友人を見捨てるものなのか?


「…………泣くな」

「泣いてないよ。あ、この魚のムニエル美味しい」


 手をつけていない食事を、急に思い出したように口に運び、彼女は明るい声を出した。


 痛々しい。


 彼女が言った「同類」という意味。

 別室にいても聞こえた毎夜うなされる彼女。


 拒むのは、俺だからか?


 バカだ、あんたは。





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