少女、ではない
「髪……明日でも切ろうか?」
前髪が目に掛かって鬱陶しそうで、それを掬って上に上げると彼の青い瞳がよく見えた。
椅子から立ち上がり、座ったままの彼の傍で屈んで観察している。
「いやあ、綺麗な色。グレイじゃなくて本当に銀なんだ」
「珍しくもなんともない」
「ううん、私には珍しいよ」
頭を撫でるようにして髪がランプの光を拾って輝く様を眺める。
固まっているレギウスは、目を伏せ気味にして私の視線をかわしていた。
「私のいた世界では、金髪碧眼より珍しいよ。瞳も………深い海の色で、凄く綺麗」
「もういいだろ」
「あ、もうちょい観察」
「…………あんたの髪の方が珍しいがな」
ふと気が付くと、同じように私の髪を見ていたらしい彼と目が合った。
「そ、んなこと……黒髪なんて別に珍しくもないし地味だし」
「そうか?」
私を見上げる海の色の瞳は、深く吸い込まれるようだった。
「あんたの目、よく見ると濃い茶だな」
するり、と彼の手が私の髪に触れて、指先に絡めるようにしてゆっくりと漉き下ろした。
その指の感触にドキリとしていたら、頬に手のひらを宛がわれて見つめられる。
海の色が熱っぽいのは、きっとワインのせいだろう。なんだかつられてぼうっとしていたら、レギウスが遠慮がちに小声で言った。
「…………あんたに、キスしたい」
「…………………」
唇を指で触れて、黙ったままの私に顔を近付ける彼に流されそうになって、途中で慌てて後ろへ下がって距離を取った。
こんな変な雰囲気、早く打ち消したい。
「………トウコ」
「れ、レギウス、酔ってるんだね」
苦い笑みを作ったら、彼は私を捕まえようと伸ばした手を下ろした。
「……………ああ、酔ってるかもな」
彼は額に手を当てて、また窓の暗闇に顔を向けた。
「私達は友人だからね、酔いに任せてキスなんかできないよ」
「………すまない」
気まずい空気が漂い、私はいたたまれずに、空になった食器を片付けに取りかかった。
キスしたいだなんて、そんなの受け入れるわけにはいかない。レギウスなんかよりも、ずっとずっと私の方が酷い人間なんだから。
緩慢な動きで、私に続いて食器を片付け出した彼は無表情だった。
「………いい、洗っとくから風呂でも行って来いよ。疲れてるんだろ」
「う、うん。わかった、ありがとう」
つい、ほっとした顔をしてしまい、逃げるように部屋を出た。
宛がわれた部屋においた荷物から寝衣を持って脱衣場の戸を締めた。
風呂場から湯気が漂っている。
眠っている間に、レギウスが焚いてくれたのだろう。
ズルズルと壁に凭れて体育座りをして顔を突っ伏した。
「恨んでくれてもいいのに………バカだよ」
あなたも、私も。




