少女の日常3
「ねえねえ、レギウスは結婚してるの?」
「してない」
「彼女はいるの?」
「………いない」
「何、その間?え、経験は?」
「け、経験?」
「そ、え、もしかして童て…」
「違う、そしてもう黙れ。処女が何聞いてやがる」
レギウスは私の唇を指で引っ張り、呆れた顔をしていたが、わざと頬を膨らませて彼を睨むと、ぶはっと吹き出した。
「何で処女だって決めつけるのよ、わからないでしょ、私イケメン100人切りしてるかもよ?」
「ふ、はは、ガイルって奴にファーストキス奪われて怒ってたのは誰だったか?」
「う」
私の顔をちらちら見ながらしつこく笑うレギウスに、ワインを空にしたグラスをテーブルに置いて開き直る。
「いいよ、わかった!この際あなたの疑問にお答えしましょう!」
「はあ?」
「さ、聞いて、何でも聞いて!」
「……酔っぱらい」
私の勢いに、彼が引きぎみなのはわかっていたが、ほろ酔いで良い気分なので今夜は語り明かしたい!
お昼寝してしまい、起きた時にはレギウスが夕食を作り始めていて、慌てて手伝いをしてわかったのだが、彼はそこそこ自炊ができるらしい。
傭兵をしているから、野外炊事も経験が豊富だと言っていた。まあ、野菜も肉も全てぶつ切りで、焼き加減も半生で豪快さが際立っていたけれど。(自分のだけは、焼き直した)
でも味付けは良かった。
食後に、ワイン片手に私お手製のクラッカーにチーズを乗っけたものをつまみ、レギウス相手にくっちゃべっている。
「美味いな、これ」
「もう、話を逸らさないでよ」
小さなテーブルに彼は椅子に座って、一人分の距離を空けた所に私も椅子に座っている。
「疑問か……ではあんたが俺に問うことを同じようにあんたも答えたらいいんじゃないか?それなら答えにくい質問を俺にしないだろ?」
「んん……いいけど……そういえばレギウスは傭兵の中でどのくらい強いの?ガイルと戦っているのを見たら、そこそこ強いのかな?」
「その質問、あんた俺の話聞いてたか?まったく、あーそうだ、俺はそこそこ強いと自負している。そこそこな。で、俺はあんたにそれを問うのか?」
「強いもん。怪我を治せるのってある意味最強でしょ?それに私は」
「何だ?」
「……ううん、何でもないよ」
沈んだ声で言ったら、レギウスは探るように私を見たが、すぐに視線を反らしてグラスを傾けた。
「その力はいつからあるんだ?生まれつきか?」
「違うよ、この世界に来てから……わ、私の話なんてつまらないよ。ね、質問の続きしよ」
「………………」
考え事をしているのか黙りこむ彼に、わざと遮るように明るい声を出す。
「じゃあさ、レギウスは好きな人いるの?」
「……………い……いない」
つまみを手に、窓に映る夕闇に目を向ける彼の横顔をじっと見る。
「本当に?」
「………俺の番だ。あんたはいるのか?」
「いないよ」
振り返って聞く彼の目を見て答えると、驚いたような変な表情をした。
「………いないのか?本当に?その、少しでも好きだと思う奴はいないのか?」
「うーん、12歳の時の初恋の舜君とアイドルのリンネ様とか?かっこいいんだよね」
「………………………」
怒ったような顔をして、レギウスはまた窓の方を向いて残ったつまみを全部平らげた。
私は、ピンときた。
「おやおやあ?レギウスさん拗ねてるの?自分が入ってなかったからかな?かわいいー」
「な、か、かわいいだ?!拗ねてなんか!」
思わずといった風に、私を振り向いた彼の顔は赤くなっていた。
「ぷぷ!ほら……握手」
「は、なっ?」
私は動揺している彼の手を強引に握り、ぶんぶんと振った。
「ここまで私を助けてくれたんだもん、レギウスも好きだよ。友人と思ってもいいかな?」
「………俺の質問の番だよな。あんたは俺を友人だと思えるのか?」
私の言葉に、また何かを考えるような表情をした彼は、私の手を握り返したと思ったら、そのままゆっくりと引っ張った。
「うん、勿論。私は男女の友情もありだと思ってるけど?」
「………俺は傭兵だ」
「うん」
もう片方の手が私の腕に触れ、彼の方に引き寄せられて椅子から身を乗り出すようになる。驚いて見上げたら、皮肉げな笑みを浮かべた彼と近い距離で目が合った。
「あんた、俺の仕事が分かっているのか?俺は……人殺しだ。何人殺したか分からない」
「知識として知ってる。でも、だからと言ってあなたは私を殺したりしないでしょ?何?私が怖がると思ったの?」
「い、いや……」
首を傾げる私に、気まずいような素振りをして、彼は私から手を離した。
「私達、同類だね」
返事を期待せずにポツリと言えば、レギウスは微かに痛そうに眉を潜めた。
私はそれを見て、彼がよく理解していることが分かってしまった。
でも、確かめない。彼も私も。
見つけたのが彼で良かった。人殺しでも、彼は私にとって優しい人間だ。
「………わかったよ。では友人ということで」
おずおずと私に手を差し出してきたが、あまり嬉しそうではないように見えた。
「よろしく。ありがとうレギウス」
彼の節くれだってごつごつした固い手を握り返す。
良かった、この世界で私にも友人ができた。
とても嬉しくてニコニコしていたら、レギウスは私の手を握ったまま、じっと見つめてくるので、ついでにお願いしてみることにした。
「あ、ねえ、友達ついでにお願いしたいんだけど」
「あ、ああ」
「あのね……髪触らせて?」
目を丸くした彼だったが、動かないのを良いことに、右手を銀髪に寄せる。
「綺麗な銀。一度触って見たかったの」
「え、う……」




