少女出会う
今回は前作よりはシリアスで進みます。
夢を見ているのかと思った。
血と泥にまみれた気持ち悪い感触の中、折り重なる仲間の屍に背を凭せた俺は、ぼんやりと思った。
「ぅ、ぅ」
喉からは肺に残された僅かな呼気が小刻みに出るだけ。自分がどんな姿になっているかは、眼球を動かすこともできないのでわからない。
わかるのは、致命傷の傷を負った為に、自らの心臓があと少しすれば停止するということだけ。
いや、それさえも俺の勘違いで、もう既に死んでいるのかもしれない。
なぜって目の前に、少女がいるからだ。
俺を雇っているエノン公国にも、最近女性兵士は増えているから戦場に女性がいるのは珍しいことじゃない。
だが少女が兵士ではないことは衣装を見れば明らかだった。
彼女は、漆黒のドレスを身に纏っていた。肩は剥き出しで、胸元は柔らかそうな膨らみが20パーセントは確認できる大胆な開け具合。質の良いシルクの黒は、ストンと地面まで届いて流れているようだ。
しかも、左右横からざっくり衣装が開いていて、白い太腿から足首までがちらちら見えている。
「………助けて」
艶かしい装いとは裏腹に、少女は涙を溢して、小雨の降りしきるのに体を震わせていた。
肩を過ぎたぐらいの長さの黒髪を乱し、同じく大きな黒い瞳は透明な滴を幾つも生んで青ざめた頬を濡らしている。
衣装の艶やかさとは違い、彼女は妖艶と言うよりは可愛いらしい清楚な顔立ちをしている。
そのアンバランスさの魅力に、しばし目を奪われる。
その仄かに桜色の唇が再び開いた。
「助けて、欲しいの」
いや、助けてもらいたいのは俺の方だ。死にそうなんだから。
そうツッコミたかったが、もう言葉は出ないし苦笑いも不可能。
少女を目を細めて見ることしかできない。
そうしていると、恐る恐るといった感じで、少女は俺に更に近付き、濡れた地面に膝を付いた。
折角のドレスが汚れるだろうに、彼女は俺に身を寄せて手を伸ばし触れようとする。
「お願いします、私を助けて。代わりに………助けるから」
そう彼女が言った途端、体がじんわりと暖かくなった。痛みは消えて体が軽くなる。
ああ、これが死ぬ瞬間なのだな……と思って目を瞑った。
そうか、やはり少女は死神だったか。俺を苦しみから救うのか?
「私の名前は、トウコ。どうか私を助けて………勝手で、ごめんなさい」
少女の鈴のような声には、悲しみと怯えのような震えが混ざっていた。
それが俺と透子の出会いだった。
今思えば、最悪の出会いだった。