第六章 ドレイク・レオンハルト
世界樹ユグドラシル。
言い伝えでは魔王によって滅んだ世界を救うため、女神ユグドラシルが大樹へと姿を変えてこの世界に根を下ろし世界を転生させたと言われている。
そしてこの大樹を守るため女神ユグドラシルを主とした国、神聖国家ラタトスク。
現在その城の会議室に二人の人間がいた。
一人はマリア・シルフィーデ。
黄金の髪に青い瞳をした若い女性で、その容姿は老若男女問わず目奪われるほどの美貌の持ち主。
神聖国家ラタトスクの最大戦力であり魔王と敵対する人類にとって希望の象徴であるユグドラシルの守り手。
敵味方問わず彼女のことを【黄金の守り手】と呼んでいる。
もう一人はロバート・ウォルフ。
見た目は身長180センチに、白髪のオールバックに白い髭を生やした老人執事だがその服の下には鍛え抜かれた肉体を持つ人物だ。
その戦闘力は【黄金の守り手】に次ぐ強さを持っていると噂され現在西の共和国を拠点として活動している。
そんな彼が中央の国、神聖国家ラタトスクにいるのは二十分前に彼女の呼び出しを受けたからだ。
「信じられません、まさか我々以外にも生き残りがいたとは」
ロバートは溜息を吐きながら俯く。
マリアの呼び出しを受け遠く離れた国から一瞬でゲートを通ってこの国に来たロバートは、彼女の話は聞いて落ち込んでいた。
まさか自分たち以外にも旧世界の生き残りがいたとは知らず、もしそれが本当ならなぜ自分は見つけてあげることができなかったのかと。
ロバートの思いに察したマリアは彼を慰める。
「女神ユグドラシル様でさえ把握できなかったの事です。おそらく魔王が意図的に隠していたということでしょう。我々が見つけることは不可能だったはずです」
「……しかしならば何故帝国の者が我々より先に見つけることができたのでしょうか?」
ロバートの目線には机の上にある水晶玉が帝国の者達が森へ入っていくところを映していた。
「帝国が自力で見つけたという可能性もありますが、おそらく魔王の仕業でしょう。帝国の、それもかなりの権力を持った人物に情報を流したと考えられます」
「あのドレイク・レオンハルト中将を動かすほどですからね。しかしかなり危険なのでは?」
「西の帝国もある程度のリスクは覚悟の上でしょう。我々旧世界の人間を手に入れるために」
「……マリア様、ご命令とあればすぐにでも帝国へ行きますが?」
ロバートの目が鋭く光る。
ロバートは自分たちと同じ生き残りが国の道具として扱われる事をよしとしない。
だがそんなロバートにマリアは首を横に振る。
「それが帝国のゲートは現在向こう側から閉じられているのですぐに帝国へ向かうのは無理です。そして今から急いで森に行こうとしても私達より先に帝国が接触するはずです」
「…ぬぅ」
「安心してくださいロバートさん。実はですねドレイク・レオンハルト中将から伝言があります」
「伝言ですか?」
「はい」
◇◆
ケルベロスとの戦いを終えて少し休憩を取ることにしたヴェンデッタとリーベルはお互いの情報を交換し合っていた。
「えぇぇぇええ!!??ヴェンさんて旧世界の方なんですか―――!?」
「君の言うとおりこの世界が俺の世界の生まれ変わりなのが本当ならそうなるな」
リーベルが用意してくれた携帯食を食べながらヴェンデッタは頷いた。
「まあ、確かにヴェンさんのあの戦闘力を見れば納得ですけど」
「どういうことだ?」
なぜ戦闘力が高いと旧世界の者だと納得できるのかわからないヴェンデッタに彼女は答える。
「ええとですね、実はヴェンさんの他にも旧世界の生き残りの方々がいるんですよ。先程説明したヴェンさんの世界を転生させた女神様が保護された人達で、皆から女神の使徒と呼ばれています。女神の使徒様達は例外なく圧倒的な戦闘力を持っているんですよ~」
リーベルの説明にヴェンデッタは考え込む。
(……俺以外にも生き残りがいた?確かに魔王は人類を全滅したとは言っていなかったが。一度女神とその人達に会って話がしてみたい。だが長年魔王と共にいた俺を向こうがどう思うか)
果たして女神たちは自分という存在を受け入れてくれるのか不安になるヴェンデッタだが、今は他に当てがない状況では選択がなかった。
「リーベル一つ頼みがあるんだけど」
「女神様に会いたいのであればここから南にあるこの大陸の中央、神聖国家ラタトスクに行くのがいいですよ~。良ければそこまで案内しましょうか?」
「…話が早いな、でもタダじゃないんだろう」
「いえいえタダで結構です。強いて言うならばそこまでの間私を護衛してくれると助かります」
(だって旧世界の生き残りである貴方を女神様達の元へお連れすれば、一体どれだけの報酬がもらえると思っているのですか――!ぐふふふヨダレが止まりません、絶対に逃がしませんよ~)
(……なんだろう、凄い悪寒を感じるんだが)
目を光らせヨダレを垂らし尻尾を左右に振り回すリーベルに危うさを感じるヴェンデッタだが、他に頼れる者はいないという事で我慢をする。
そして休憩を終えて二人は迷宮を脱出する。
途中魔物が襲って来るが難なく突破した二人はついに迷宮の外へと出ることが出来た。
「これが外の世界」
「はい、そうです」
迷宮を出て初めて新世界の外を見たヴェンデッタにリーベルは頷く。
まさか森の中だとは知らなかったヴェンデッタだが、久しぶりの外の空気を味わい喜ぶ。
「空気が美味いな」
「もっと南に行けばより美味い空気が吸えますよ~。ここはまだ中央寄りの場所とは言え魔王が支配する北の大地の森なのですから」
「……つまり北に行けば行く程魔王に近づけるということか?」
「…まさか今から北に進もうとか思っていませんか~?」
リーベルの疑問にヴェンデッタは否定する。
「いや、今戦ったところで俺に勝ち目はない。魔王は殺す為にも今は力をつける時だ」
「ほ、それは良かったです。ところでヴェンさん私の聞き間違いだと思うのですが~」
「どうした?」
「いえなぜか森の中から馬の足音がしかもこの足音からして人が乗っているような感じなのですけど」
「……この樹海の中をか?」
ヴェンデッタとリーベルは信じられない顔で互を見合う。
そして確かに馬の走る音がヴェンデッタにも聞こえてきた。
ヴェンデッタとリーベルは互いに頷き合いいつでも戦闘ができる状態に入る。
そしてそれは来た。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
何故か雄叫びを上げながら黒の馬に乗って走ってやって来る大男が。
大男はヴェンデッタ達の前に止まり馬から降りる。
「突然の無礼を許して貰おう!!俺の名はドレイク・レオンハルト!!西の帝国ガーベラ帝国の第二騎士団の指揮官をしている者だ!!」
突然の大男の登場に唖然とするヴェンデッタとリーベル。
そんな二人をお構いなしにドレイクはさらに言葉を続ける。
「俺の目的はただ一つ貴殿を我ら帝国に迎え入れることだ!!」