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第四章 魔王の呪い

 

 少年が目が覚めるとそこは知らない場所だった。

 意識を封印され、久しぶりに眠っていたかのような感覚でまだ頭がぼやけていた。

 頭を押さえながら立ち上がるとそこには一人の少女と一匹の化物がいた。

 少年の見間違えでなければ少女の頭には獣のような耳があり尻尾がある。


(あれって良く小説や漫画に出てくる獣娘だったよな、コスプレか?)


 少年は疑問に思うがもう一匹の化物を見る。

 三つの頭を持つ黒い犬のような巨大な化け物。

 それはまるで神話に出てくるケルベロスのようだった。

 少年は突然の出来事に一瞬戸惑うが、ケルベロスから溢れ出る瘴気に見覚えを感じた。

 そう、少年の怨敵ともいうべき存在、魔王を。

 感じた瞬間少年は動く。

 青い炎を身に纏いケルベロスへと走り出す。

 自分の存在に気づいたケルベロスが炎を吐き出すが少年は気にしない。

 途中少女が何かを叫んでいるがそんな物も気にせず少年は炎中を突っ切っていく。

 全属性攻撃耐性スキルと肉体再生スキルで難なく炎の中を突破してケルベロスの頭まで一気に飛ぶ。

  ケルベロスに近づくにつれて少年は確信する。

 この化物から魔王の力を感じた。

 ケルベロスは殺意の目を少年に向けるが、


「…邪魔だ、そこをどけ魔王の犬」


 少年の拳によってケルベロスは吹き飛ばされる。

 こうして魔王によって封印された少年、東条綾人は復活を果たしたのだった。



 ◇◆



(……凄い、あの巨体を軽く吹き飛ばしてしまいました)


 あまりの衝撃の出来事にに言葉もなかったリーベルだが、吹き飛ばされたケルベロスが起き上がってくるのを見た。


「!?まだ倒せていないです!、ひゃあぁ~!!??」


 ケルベロスが怒りの咆哮を上げる。

 リーベルは獣人のため常人よりはるかに聴覚が優れるているため思わず耳を塞いでしまう。

 ケルベロスの近くにいた綾人は構わず突撃する。

 ケルベロスは先ほどの炎とは違い高密度の火炎玉をそれぞれ三つの口から吐き出す。

 三つの火炎玉は真っ直ぐ綾人に向かうが、


「邪魔だ!!」


 なんと綾人は両腕に青い炎を纏い全て殴り返してきた。

 ケルベロスは上へ飛び火炎玉を回避すると同時に綾人を踏みつけようとする。


「隙ありです!!」


 その瞬間リーベルの投げた十本のナイフがケルベロスへと向かう。

 ケルベロスの体毛は固く殆どのナイフは弾かれるが、残った二本のナイフがケルベロスの目に刺さる。

 たとえケルベロスの体毛が固くても眼球は柔らかい事をリーベルは知っていた。


(やっぱり冒険者たるもの、魔物の情報は知っとかないとですね~)


 ケルベロスは思わず前足でナイフが刺さった目を抑えてしまう。

 その隙を綾人は見逃さなかった。


「貫け!!」


 綾人は青い炎を槍へと変化させケルベロスの腹の下から飛ばす。

 炎の槍はケルベロスの腹の下から貫き中へと入る。

 そして、


「弾けろ!!」


 炎の槍を投げた手を握り綾人が叫ぶと、ケルベロスの中にある炎の槍は形を変えケルベロスの体内を焼き尽くす。

 火炎耐性を持つケルベロスだが、綾人の炎を体内から浴びせられては流石に堪えるのか苦しい呻き声を上げながら倒れる。


(ケルベロスは生命力が高いですからまだ生きていますよね~。今のうちに止めを刺さないと)


 リーベルは倒れたケルベロスに注意しながら近づいていく。

 しかし、


「……油断しないほうがいい、まだ奴の力が消えていない」

「え?」


 綾人の言葉にリーベルは立ち止まると()()は来た。


「あっははははははは!!!!なんだバレていたのか♪」


 ケルベロスの中から少女の声が聞こえる。

 その声にどこか狂気じみたものを感じたリーベルは思わず身震いをする。

 綾人はその声に憎しみが抑えられず拳を強く握り締める。

 そして倒れたケルベロスを睨みながら言う。


「とっとと出てきたらどうだ()()

「!?」


 綾人の言葉にリーベルは思わず耳を疑った。

 だが綾人の言葉に応えるかのように、ケルベロスの体内から突き破ってひとりの少女が血みどろになりながら出てくる。

 その姿は血みどろになりながらも隠しきれない黒い髪に紅い瞳をした美少女だった。

 リーベルはその少女の紅い瞳に恐怖した。

 彼女の本能があの少女が危険だということを感じたからだ。

 そしてその時彼女の頭に昔話に出てきた魔王を思い出した。


(まさか本当に魔王なの?)


 リーベルは恐怖のあまり動けずにいた。

 魔王は綾人に笑みを浮かべながら自分の指を鳴らすと、体中についた血は消え失せ魔力で作った黒いドレスを身に纏う。


「久方ぶりの眠りはどうだったかな?気に入ってくれたら嬉しいな」

「だまれ」


 綾人は魔王の顔に拳を入れようとするが、魔王の体は黒い粒子となって綾人の攻撃をすり抜ける。


「ダメダメ、この体はあくまでも仮の姿であって本体は僕の居城にあるから倒したところで殺せはしないよ♪」

「……」


 綾人は身に纏っていた炎を消した。

 その瞬間疲れが押し寄せてくるが、前回のように倒れるほどではない。


(疲れはあるがまだ十分に戦えるな。問題は目の前にいる魔王をどうやって倒すかだが)


 たとえ仮の姿であっても倒さなければ何をしてくるかわからない。

 今は体力を温存するため炎を消している綾人だが、魔王の動き次第ですぐに戦闘態勢に入れるように心構えをする。

 魔王は今度はリーベルの方へと向く。


「ひっ!?」


 急にこちらへ振り向いた魔王に怯えるリーベル。

 魔王はそんなリーベルにお構いなしに話しかける。


「やあ狐のお嬢さん♪無事に彼の封印を解いてくれたんだね、感謝するよ。そしてさようなら♪」

「っ!?」


 笑顔のままリーベルに向けて人差し指を向けて何かを放とうとするが、その前に青い炎を纏った綾人が割り込んで魔王を殴り飛ばす。

 綾人は殴り飛ばされた魔王と殴った感触が残っている右手を見る。


「どうやら攻撃する瞬間は殴れそうだな」

「た、助かりました~」


 へなへなと崩れ落ちるリーベルに綾人は聞く。


「君は魔王の命令で封印を解いたのか?」

「ち、違いますよ!ここに来たのは占い師のお婆さんのせいですし、あなたの封印を解いたのも偶然です!」


 綾人の質問にリーベルは慌てて答える。


「あいたたた、も~君は本当にせっかちなんだから。心配しなくても君の相手は今度してあげるからさ~」


 吹き飛ばされた魔王は殴られた頬を抑えながら立ち上がる。

 しかし殴られた頬が粒子となって崩れ消えていくのを見て魔王は落ち込んだ。


「あ――ッ!?やっぱり崩れてるじゃないか!もう仮の姿とは言え女の子の顔を殴るなんて最低なんだぞ」


 魔王の頬の崩れはゆっくりと広がり魔王の体に亀裂が走る。


「あーあ、大した量の魔力を送り込んでいないから今の攻撃で全身が崩れちゃったじゃないか」


 一瞬自身の体が崩れていくのに落ち込む魔王だがその顔は狂気の笑みに変わる。


「でもま、いいか。最初から戦うつもりはなかったし。ただ君に告白しなければならないことがあってね」

「告白だと?」

「ねえ、君は()()()()()()()()()()()()()()?」 


 綾人は一瞬、魔王の言っていることを理解できなかった。

 何を馬鹿な事を言っているのかと思う綾人だが次の瞬間その表情は凍りつく。


「言えないよね~覚えてないよね~。なにせ君の記憶は100年前に封印するとき僕が細工したんだから♪」

「……俺の記憶に何をした魔王―――ッ!!!!」 


 綾人は怒りながら魔王に向かって全力の炎をぶつける。

 魔王は炎を避けながら笑い答える。


「君の記憶を奪って呪いをかけただけさ♪()()()()()()()()()

「!?」


 その瞬間綾人の、いやヴェンデッタと名前を替えられた少年の体が固まった。


(なんだ?魔王が()()()()()言うと胸の奥が疼く。・・・まて、()()()()だと?どういうことだ?なぜ俺は()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

「あっははははははははは!!!君の記憶から名前を消した時に呪いも付けたんだよ!!君は今後一生その名を、憎い敵で復讐の相手のこの魔王さまが名付けた名を、自分の名前として名乗らなければならない!!ねえねえどんな気持ちだい?悔しいかい?憎いかい?ああ君の感想を聞きたいけどそろそろ退場するよ。じゃあね~また会おうねヴェンデッタ♪」


 混乱するヴェンデッタに魔王は笑いながら消えていく。


「待て!!」


 ヴェンデッタは魔王のもとへと飛ぶがそれよりも早く魔王は完全に消えていった。

 それと同時にケルベロスにも変化が起きた。

 体全体を炎で纏い立ち上がったのだ。

 

「詳しい事はわかりませんが今はあれを倒したほうがいいのでは?」


 事の成り行きを見ていたリーベルはヴェンデッタにそう言うとナイフを手にする。


「……そうだな、君の言うとおりだ」

 

 リーベルの言葉にヴェンデッタは頷き戦闘態勢に入る。

 その心が憎しみに満ちていくのを感じながらヴェンデッタはリーベルと共にケルベロスへと立ち向かうのであった。



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