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第三章 蒼焔の復活


 それは冒険者リーベルが北の樹海の森へと入る一週間前の出来事。

 彼女は依頼でとある小さな村へと立ち寄った時のことだ。

 依頼を終えて村から出ようとした時一人の老婆が彼女に声をかけた。

 彼女は老婆を見ると格好からして占い師の類いだと思った。

 そして彼女の予想通りその老婆は自分占い師だと名乗った。

 占い師は彼女に言う。

 北の樹海の森に行きなさい、そこの迷宮の奥に貴方の人生を変えてくれる出会いがあると。

 占い師の言葉に彼女は呆れていた。

 それもその筈だった。

 確かに魔王が支配する北の大地には樹海の森がある。しかも森の近くには国が立てた砦と中に宿泊施設が有り、熟練の冒険者が経験値や素材稼ぎとして森へと入っている。

 しかし迷宮が発見したという情報は入っていない。

 もちろん発見した誰かが報告しなかったこともあるかもしれないが、あの森から財宝やマジックアイテムを持ち出した者はいない。

 砦には軍がおり彼らの許可がなければ森へ入ることは禁じられている。

 また森から出た後も砦を通らなければならず点検もされているがそのような情報はない。

 軍が隠している可能性もあるがそれなら樹海の森はそもそも入ることを禁止するはずだ。

 迷宮がある可能性はゼロではないが低いし、いくら北の大地の中でも魔王の影響が少ない樹海の森にそんな占い一つで入るのは馬鹿げている。

 リーベルは占い師に金を払い適当にあしらおうとしたが、彼女の目を見て固まる。

 その目には嘘を感じなかったからだ。

 占い師の老婆は小さく微笑み彼女の前から霧のように消えていき、最後に信じるか信じないかは貴方の自由だと言葉を残していった。

 目の前で消えていった占い師に驚く彼女だが、占い師が消えた場所に小さなものが光っているのに気づく。

 最初はコインかと思い拾ったがその正体を見て驚く。

 それは昔見た博物館に展示してあったこの世界が生まれ変わる前の、魔王が滅ぼした世界のお金だった。

 これが本物である証拠は何処にもないが、彼女の本能が言っている、これは本物だと。

 そんな歴史的に価値がある物に、先ほどの占い師の行動。

 試してみる価値はあるかもしれないとリーベルは思い行動に移る。



 ◇◆

 


 そして現在、占い師の言葉通り樹海には迷宮があった。

 リーベルは興奮してやまない心臓を押さえながら迷宮へと入っていく。

 迷宮に入るとそこには地下へと進む階段があった。

 入口から風が入り迷宮の中へ風の音が響いていく。

 それは彼女にとって聴き慣れている音で、この音のおかげでこの迷宮を見つけることができた。

 しかしなぜ今まで誰も見つけることができなかったのだろうか。

 この程度で見つけられるのであればとっくに情報が出回っていてもおかしくはない。

 彼女は不思議に思いながらも好奇心に勝てず階段を下りていく。


 (思ったよりも新しい迷宮のようですね。ですがこの階段の汚れからして長い間ここを訪れた者はいない様子。少なくとも100年ぐらいは人が入った痕跡はなさそうです)


 彼女は階段を降りるとそこには長い廊下があった。

 明かりは一切ないが彼女の目は夜目に効き問題はなかった。

 彼女は壁に手を当てて次に床に手を当てる。


(罠感知スキルに反応はなし。しかも魔物の気配もないようですからひとまず安全でしょうかね~)


 リーベルは安全を確認しながら廊下を渡る。

 途中小さな部屋をいくつか見つけるが宝はなく奥へと進んでいく。

 廊下を抜けると広間に出た。

 広間の中心にはまた下へ下りていく階段が見えリーベルは迷わず進む。

 下へ降りていくに連れ魔素が濃くなっていくのをリーベルは感じ、後ろ腰に差してあるナイフを取り出す。さらにマフラーの力も解放し気配を消していく。

 敵感知スキルには反能があった。

 

(…魔物気配が突然現れましたね。おそらくこの濃い魔素によって新たに生まれたところでしょうか)


 リーベルは慎重に降りていき広間に出る。

 するとそこには液体の体をした生物がいた。


(あ、あれはまさかゴ、ゴールドスライムですかー!?)


 その魔物の正体をみてリーベルは目を輝かせた。

 その正体はスライムだった。

 それもただのスライムではないゴールドスライムだ。

 スライムとは液体型の魔物でその体質上物理攻撃に強い。

 よってスライムと戦う時は魔法や、マジックアイテムで倒すのが定番だ。

 新人冒険者~中級冒険者には手こずってしまう相手だが、素材として手に入る液体はいろんなアイテムを作るのに利用されることから稼ぎとして人気の魔物だ。

 しかも彼女の目の前にいるのはゴールドスライム。

 その名のとおり金の液体でできた魔物であり倒せば純金の液体が手に入り、また出現する数が少ないことからレアな魔物である。

 

(い、いきなりこんな素晴らしい魔物に出会えるなんてラッキーです~)


 もはや興奮か抑えられないリーベルはまだ自分に気づいていないゴールドスライムの背後から奇襲する。

 リーベルが攻撃のモーションに入ったことでマフラーの効果が切れるが、既に彼女のナイフがゴールドスライムの後ろを刺しておりゴールドスライムはもがき苦しむかのように床にへばりつく。


「ふ~、上手くいきました♪」


 リーバルは笑顔でそう言いナイフをしまう。

 ゴールドスライムは通常のスライムより遥かに物理攻撃に強くまた魔法にも強いが弱点もある。

 その一つが彼女が発動した暗殺スキルだ。

 複数の条件をクリアすることによって発動できるこのスキルは即死耐性を持たない生物を一撃で仕留めることができる。

 ゴールドスライムだった液体が黒い粒子となって消えて行き、残ったのは黄金に輝く石と純金の液体だった。

 

「わあい♡まさか純金の石まで手に入るなんて幸先いいです~」


 リーベルは目を輝かせながら腰のポーチから容器を取り出し液体にあてる。

 すると容器は輝きだし液体を一滴残らず吸い取った。

 これもマジックアイテムの一つで容器の口に当てた液体を吸い込むことができるものだ。

 最初はこぼした液体を吸うための掃除用に作られたアイテムだったが、便利なため多くの者が愛用している。

 リーベルは容器のフタを占めて石と一緒にポーチの中へとしまうと広間から続く廊下に目を向ける。

 

 (感知しているだけでも5体の魔物がこちらに向かっていますね~。この足音からして四足歩行型でしょうか?)

  

 リーベルは腰に差してある先程とは違うナイフに手を当てる。

 するとナイフを当ててない方の手から同じナイフが出現した。

 出現したナイフを手に待ち構えるリーベル。

 すると廊下から四足歩行で走ってくる魔物が見えてきた。


(ワイルドウルフですか。中級の魔物の中でも上位ですがそこまで驚異ではありませんね)

 

 ワイルドウルフ。

 四足歩行型の魔物で外見は狼に酷似していることからウルフ系の魔物として扱われている。

 ワイルドウルフは特殊なスキルを持たないが中級の魔物の中でも身体能力が高く常に集団で行動しているため中級の魔物の中では上位に食い込む。

 しかし今のこの状況ではリーベルの言う通りそこまで驚異ではなかった。

 リーベルは魔物の姿を確認すると廊下から走ってくる魔物の眉間に向かってナイフを投げる。

 ナイフは見事に魔物の眉間に刺さり倒れる。


「そんな狭い廊下では上手く連携することも、回避することなんてできませんよね」


 リーベルは先ほど投げたナイフと同じ物を今度は四本投げる。

 先頭にいたワイルドウルフはなんとか上へ飛んで回避するが後ろに居たワイルドウルフ達が餌食となる。

 上へ飛んだワイルドウルフはそのままリーデルの方へ牙を向けるが、またもや先程と同じナイフを眉間に刺さり倒れ、最後に生き残ったワイルドウルフが逃げようとするがそれより先に彼女のナイフが後頭部に刺さり息絶える。

 ワイルドウルフを全員倒したリーベルは深呼吸しながら握っていたナイフを手放した。

 すると手放したナイフと先程までワイルドウルフに刺さっていたナイフすべてが黒い粒子となって消えていく。

 彼女が先ほど使ったナイフはマジックアイテムの一つだ。

 名を【ハンドレッドナイフ】と言い魔力を消費することで数を増やせるナイフだ。

 本体が無事なら魔力が続く限り最大100本までなら増えて、魔力を与えるのを止めると増やしたナイフすべてが消えていく。

 多少の魔力を消費するだけでナイフの残数を増やすことができるため、ナイフ投げの使い手でもある彼女にとってはまさに相性のいい武器だ。

 ワイルドウルフたちの素材を集めすべてをポーチの中に入れると彼女は先へと進む。

 途中複数の魔物たちに襲われるが難なく撃退し先へと進み続ける。

 そして彼女はたどり着いた。

 たどり着いた広間の奥にある重苦しい扉。

 間違いなく先程までとは違う空気だ。

 本来ならここで引き返し複数の冒険者を雇って再度攻略すべきなのだろうが彼女の頭に占い師の言葉を思い浮かぶ。

 彼女は好奇心に勝てず扉を開ける。

 

 「…ここは」


 扉の先にあったのはまるで玉座の間のようだった。

 先程までの迷宮とは違う作りをした部屋で中央の奥には王が座るような玉座があった。

 そしてその玉座には剣を貫かれた少年が座っている。


(死体?それにしては新しすぎる。いいえ、そもそもこの部屋自体が綺麗すぎる。)


 リーベルは周囲を警戒しながら玉座へと近づく。

 そして少年に近づくにつれ心臓が早くなるのを感じた。

 そして少年の姿をはっきり捉えると走り出した。

 

(嘘、そんなまさか!?)


 少年の前まで来たリーベルは少年の頚動脈に触れる。

 

(…暖かい、体温を感じる。それに脈もある、まるで本当に眠ているみたいです)


 リーベルは少年の体を貫いている剣を見た。

 

(微かですが魔力を感じます。睡眠というよりはまるで封印しているかのようですね~)


 リーベルはつい剣に触れる。

 すると剣は粉々に砕き粒子となって消えていく。


(あれ――!?もしかして私ヤってしまいましたか――ッ!!)


 慌ててその場から離れると同時にこの部屋全体が揺らいでいく。

 咄嗟にリーベルはこの部屋から出ようとしたが、玉座に座る少年を気にして立ち止まってしまう。

 そしてこの部屋全体から魔法陣が現れる。


(この部屋の罠が作動した!?ですが私の罠感知には何も―――)


 リーベルはあまりの揺らぎに立っていられず座り込む。

 そして魔法陣から黒い粒子が現れた大量に溢れる。

 

(あれは魔素!?しかも恐ろしい程に濃い!!)


 魔素と呼ばれる黒い粒子は魔法陣の中心に集まり形を変えていく。

 リーベルは何とか攻撃しようとするがあまりの揺れに立ち上がることができない。

 そして魔法陣の輝きが強くなると同時に集まった魔素から一匹の魔物が誕生した。

 三つの頭を持つ黒く巨大な獣、その姿にリーベルは心当たりがあった。


(あの姿はまさか、ケルベロス!?魔物の中でも最上級に位置する化物じゃないですか――ッ!?)


 冒険者の中でも腕は立つ方の彼女だが、それでもあの魔物にはソロでは立ち向かえない。


(どうにかして好きを見て彼を連れて逃げないと!)


 その時彼女の耳に後ろから誰かが立つ音が聞こえた。

 ケルベロスを前にしながら彼女は後ろの玉座へと振り向いてしまう。

 そこには先ほどの少年が立っていた。

 少年の目はまっすぐケルベロスの方を見ていた。

 そして少年は獣人である彼女の動体視力を持っても追いきれない程の速さで、ケルベロスへと向かっていく。


 (……青い炎?)


 彼女は見た、少年が青い炎を纏っているのを。

 ケルベロスは咆哮を上げながら、少年に向かって三つの頭から炎を吐く


「避けて!!」


 彼女は咄嗟にそう叫ぶが少年は気にもせず火炎の中に入っていく。

 そして驚くことに炎の中を突っ切ってケルベロスの頭のへと飛ぶ。


「…邪魔だ、そこをどけ魔王の犬」


 あれほどの炎を浴びてほとんど無傷な少年は、ケルベロスに向かってそう言うと青い炎を纏った拳で中央の頭を殴り飛ばす。

 ケルベロスは叫びながら巨体であるにも関わらず吹き飛んでいく。

 リーベルは今起きたことを信じられない顔つきで少年を見る。

 あのケルベロスを一撃で吹き飛ばす程の強さ。

 リーベルは圧倒的な強さを持ち魔物や魔族を倒す女神の使徒達を思い出した。

 

 彼女はまだ知らない。



 この少年が何者でそしてこの出会いを気にリーベルの人生が劇的に変わっていくのを。



 100年の時を超え蒼焔は復活した。





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