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第一章 復讐の焔

 

 (ああなんて美しいのだろう)


 目の前の男が出す青い炎を魔王は見蕩れながら思った。

 あの炎の全てが彼の自分に対する感情だと思うと胸が熱くなるのを感じる。

 魔王は改めて彼の東条綾人のステータスを見る。

 そこには彼の新しく会得したスキルが確認できた。ユニークスキル復讐者(焔)と。


 ユニークスキル復讐者。

 復讐する相手に、またはそれ連なるもの全てに対して発動することができるスキル。

 復讐の思いが強ければ強くなるほど身体能力は向上し、また復讐の思いを具現化することができる。

 それは個人によって具現化する形は様々で、東条綾人の場合それが青い炎として現れた。

 今まで多くの者が自分を恨んではこのスキルを身につけて挑んできた。しかしその者達は誰一人例外なく魔王によって殺された。

 お前たちの復讐心はその程度かと魔王は心の底から呆れていた。

 だから実験してみた。彼を、東条綾人を鍛えると決めた時から。

 彼の妹の体を乗っ取り、大量殺人者に仕立て上げ、思いつく限りの痛みを、苦しみを与えた。

 そして最後に仕上げをした。彼に、東条綾人に気づかせたのだ。

 お前は誰のために魔王を殺すのか、お前は誰のために罰を受けたのか、そしてお前は誰のために復讐をするのかを。

 その結果、東条綾人は覚醒した。


 (見なよあの炎の美しさと熱量を。素晴らしい、想像以上だ)


 魔王は心から歓喜し彼の出方を待った。



 ◇◆



 (力があふれてくるのを感じる。おそらくこの青い炎と関係があるのだろう)


 綾人は自分の体から出てくる青い炎を見る。

 熱さは感じる、しかしこの炎が自分を傷つけることはないと綾人は確信していた。

 何故なら先ほどの炎は、綾人の体はもちろん服も燃えていないどころか、周りにも影響を与えていない。

 だったら何故彼を縛っていた拷問椅子は燃えたのか。

 おそらくそれはこの炎は綾人の意思で燃やすものを選択している。

 ならばこの炎は綾人の意思で自在に動かすことも可能だろうか?

 綾人は試しに溢れ出る炎を右手に集まるように意識すると、思った通り炎は綾人の右手に集まりだした。

 今度はそのまま炎の形を変えてみる。炎は右手の手のひらに集まり炎の玉になった。


 (これで確信した。思った通りこの炎を俺は自在に操れる。あとはこの炎と、奴に改造されたこの体がどれだけ魔王に通用するかだ。)


 綾人は集めた炎の玉を魔王に向けて飛ばす。

 可能な限り速く飛ぶように意識して飛ばした炎の玉は魔王に直撃する。

 魔王に直撃した炎の玉は、そのまま奴を吹き飛ばしながら元の形の戻った炎で包み込む。

 だが綾人の表情に喜びは感じない。


(この程度で魔王を倒せるわけがない、このまま畳み掛ける!!)


 綾人は今までの恨みをぶつけるかのように、体から流れ出る炎の全てを魔王にぶつける。

 彼が全力で飛ばした炎が魔王を飲み込んでいく。だがそれと同時にその炎を突き抜けて来た何かが、ものすごい速さでこちらへ飛んできた。


(あれは氷柱か!?)


 綾人は顔面に向かってくるそれをなんとか回避する。しかし、


「くそッ!!」

(なんとか避けることはできたが、一瞬炎を弱めてしまった!まずい!奴ならこの隙に脱出してしまう!)

「ご明察♪」

「なッ!?」

(しまった!?一瞬で懐に潜り込まれた!!)

「ぐあッ!!?」 


 次の瞬間綾人の腹部に激しい痛みと衝撃が走った。

 魔王はその細腕からは想像できない力で綾人の腹を殴ってきたからだ。

 あまりの痛みに綾人は思わず膝をついてしまう。


(くそッ、全属性攻撃耐性と痛覚耐性のスキルを持っていてこの痛みかよ。この二つのスキルと気絶無効スキルがなければ今ので終わっていた)

「いや~ごめんね♪結構本気で殴ってしまったよ。でも仕方ないよね、中途半端な攻撃なんて君にはほとんど通用しないんだから♪」

「そうかよッ!!」

「あ、足掴まれたって熱ーーーッ!!!」


 綾人は油断している魔王の足首を掴みながらそのまま炎を流し込む。


「流石に逃げるかな!」


 しかし魔王は何もない右手から氷の剣を取り出し、自分の足を掴んでいる彼の右手を切り飛ばしそのまま距離を取る。だが、


「逃がすか!!」


 綾人は自分の右手が斬り飛ばされたことを気にもせず、炎の形を槍に変えて魔王に向けて撃つ。


「よっと、甘い甘い。この程度じゃあ僕は簡単に避け、ってええええッ!!??」


 炎の槍を魔王は難なく交わすが、次々と綾人の周りから放たれる炎の槍を見て驚愕する。

 さらに追撃として綾人は再生した右手から炎で作った剣を握り締め立ち上がり、自分でも驚くような速さで魔王に突撃する。


「アッハハハハハ!イイネ!最っ高だよ綾人くんッ!!」


 魔王は自分に迫り来る綾人に笑いながら大量の氷の槍を自分の周りに出現させ、炎の槍を迎撃しながら待ち構える。そして瞬時に自分の前まで来た彼が右手に持つ炎の剣を、先程作った氷の剣で受け止めるがその瞬間、炎の剣は氷の剣を受け止めている部分より上の形を炎の矢に変えて魔王の眉間を貫こうとしてきた。

 魔王はそれを嬉しそうに避けると同時に綾人を蹴り飛ばす。綾人は吹き飛ばされながら炎を魔王に放つが、彼女の前に突如現れた氷の壁が炎を防ぐ。綾人は態勢を整えつつ出している炎を収束し氷の壁に穴を開ける。

 しかしそこに彼女の姿はない。


「後ろだよ綾人くん♪」

「ッ⁉︎」


 綾人の背中に衝撃が走る。

 いつの間に背後にいたのか、魔王は綾人の背中に氷の塊を撃ち放ち綾人を吹き飛ばす。


(いつの間に背後に!?いやそれよりマズイ!)


 綾人は自分の体が冷たくなっていくのを感じた。

 おそらく魔王の氷を受けた事が原因だろう。今はまだ体を動かせれるが、このまま魔王の氷の攻撃を受け続ければいずれ身動きが取れなくなる。

 魔王はさらに追撃として複数の氷の槍が綾人に襲いかかる。綾人は自身の体に炎を纏わせ、自ら炎の玉となり迫り来る氷の槍全てを自身に届く前に溶かし尽くす。さらに炎の対象に自分を入れる事で燃やされながらも冷たくなっていく体を元に戻していく。


(氷の刻印が消えたか。しかし無茶するなぁ。いくら肉体再生や耐性スキルがあるとはいえ、君のその炎は甘くはないというのに)



 綾人は炎の玉になったまま雄叫びを上げ、魔王に突撃する。

 魔王はあらゆる氷魔法を綾人にぶつけるが全て彼の前で溶けて消えていく。


(攻防ともに高いねあの戦法。全ての炎を自身に纏わせることで僕の氷魔法を防ぐし、このまま近づかれるとあの炎で焼かれる。……けどねそもそも僕の攻撃は氷だけじゃないよ!)


 魔王は氷魔法だけでなく、炎魔法、風魔法、岩魔法、雷魔法など様々な属性魔法を休まず放ってくる。

 流石に全てを防ぐ事が出来ない綾人は、耐性スキルでダメージを抑えるが、突撃の勢いは完全に殺されその場で足を止めてしまう。


「その戦法は面白いけど、君はまだその炎以外の遠距離攻撃を持っていないから接近戦でしか戦えない。それに常に全力で炎を出し纏い続けるその状態、いったいいつまで持つのかな?」


 魔王の猛攻はさらに激しくなり綾人はその場に留まるどころか、徐々に後ろへと押されていく。

 綾人は魔王の攻撃に耐えながらも、彼女に近づけないこの状況に焦りが出始めていた。

 そしてついに後ろの壁に背中がつく程のところまで後退させられた。


(……後ろのからの攻撃を警戒していたが仕方がない。俺が出せる全ての炎を奴にぶつける!!)


 綾人は全身を纏っていたすべての炎を魔王に向けて撃ち放つ。炎の勢いで後ろへと吹き飛ばされそうになるが背中を壁に引っ付けることでそれを阻止する。

 綾人が出した炎は唸りを上げ魔王の攻撃を飲み込みながら彼女へと走る。

 だが、


「残念、時間切れだ♪」

「!?」


 魔王の言葉と同時に綾人は自分の体の力が急に抜けていくのを感じた。

 そして彼が放っていた炎も力が弱まり消えていく。

 やがて綾人は立つことができなくなり倒れてしまう。

 ここでようやく綾人は気づいた。

 全身が汗で濡れており、呼吸もままならないほどに体力が消耗しているのを。


(くそッ!なんでこうなるまで気付かなかった!)


 綾人の疑問を彼の足元まで近づいてきた魔王が答える。


「復讐者のスキルは強力だけど欠点もある。その一つは発動している間徐々に体力がなくなっていくことだ。しかも体力が完全になくなるまでは体に影響がなく本人は気づくことができない。さらに君はこの戦闘で肉体再生スキルを連発している。このスキルも強力だが再生する度に体力がなくなる。つまりこの結果は当然ということさ♪」


 綾人は己の不甲斐なさに怒りが止まらなかった。

 たとえ憎い相手だろうと精神回復のスキルのおかげで冷静に戦えていたはずだった。

 だが結果はどうだ?

 まだ完全に理解できていないスキルに頼って目の前の敵を殺すことだけを考えていた。

 

「さてそろそろ終わらせるかな?」


 魔王はそう言いながら剣を取り出し綾人に突き立てようとする。

 綾人は必死に逃れようとするが体は動かない。


(どうした動け、動けよ俺の体!!ふざけるな、ふざけるなよ東条綾人!!こんなものだったのか俺の憎しみは、怒りは!殺すんだ、絶対に、魔王を、この手で!!)

「おやすみ、綾人くん♪」

(魔王を殺すまで、復讐を果たすまで俺は止まるわけにはいかないんだーッ!!!!)


 綾人の心の叫びを打ち消すように魔王は剣を突き立てた。



◇◆



 それから15分後……


「お呼びでしょうか魔王様」


 魔王によって呼び出された一体の人の形をした何者かが魔王の前に現れ膝をついた。

 その男は身長三mを超える大男で、体は人間に近いがその顔は牛に似ていた。

 彼は魔族の一つミノタウロスと呼ばれる種族のもので名をランボルという。

 魔王の側近の一人で長年魔王と共に戦い、数多の死線をくぐり抜けてきた強者だ。

 

「……やあ、ランボルくん♪悪いんだけど彼を運ぶのを手伝ってくれないかな?」

「彼?」


 魔王は見た目は平然としているようだがその声には疲れが見えている様子だ。 

 ランボルは彼女の目線の先を追うとそこには壁に剣で刺されている人間がいた。

 見た目からしてまだ少年と呼ばれるぐらいの男が、剣に貫かれてしかし安らかな表情で眠っている。

 ランボルは少年を見た後この空間全体を見渡した。

 床壁天井が穴だらけになっており亀裂が走ってボロボロだ。


 (この空間は魔王様が作り出した物だな。かなり強固に作られていたようだがほぼ壊されかけているではないか)


 ランボルは信じられない目で魔王を見た。

 魔王は肩をすくめながらランボルの疑問に答える。


「いや~疲れたよ本当に。まさかあそこからさらに強くなって反撃してくるとは思わなかった。完全に体力はなくなって大人しく封印させれると思っていたのにさ。あれはなんだろうね?意識もなく暴走していたようだけど。あの姿は人間じゃなく僕たち魔族のようだったよ」


 やれやれと魔王は壁にもたれながら座り込むがその表情は晴れやかだった。


「……完全ではないとはいえ貴方をそこまで追い詰めるとは、一度戦ってみたいものですな」

「ふふん♪僕が愛情を込めて育てたからね、強くて当然さ。あ、でも今はまだダメだよ。ようやく封印できたんだから、また今度にしなよ。それよりも()()()()はどうだい?」

「魔王様のご命令通り魔物達を世界各地へと散らばせた結果、人間共は混乱しております」

「女神の使徒達は?」

「【黄金の守り手】は変わらず女神の傍に、他の使徒達は人間共を守るため各地を回ってる様子です」

「ちえ~やっぱり本命ががら空きになることはないか」


 魔王は唇を尖らせながら立ち上がり封印され眠っている綾人の方へと近づいていく。


「でもま、いいか♪今なら女神と使徒のの目を盗んで彼を外へ連れ出せる」

「何処へですか?」

「北の樹海にある地下ダンジョンの奥まで連れて行く。そこで世界が落ち着くまで眠ってもらうつもりさ」


 魔王は綾人の頬を愛おしそうに撫でる。


「君はもっと強くなれる、そのためにも……」


 次に魔王は狂気の笑みを浮かべて綾人の頭を掴んだ。


「さらに僕を憎んでもらえるように君に呪いと、君の記憶を少々いじらせてもらうよ♪」


 魔王はそう言いながら綾人の頭を掴んで自分の力を流し込むと満足そうに床に座り込む。


「あー疲れた!もう一歩も歩きたくないからランボルは僕を背負いながら彼を運んでね」

「ふむ了解しました。ところで今更ながら彼の名はなんと?」


 ランボルは片手で魔王を背負いもう片方の手で少年を運びながら言う。

 魔王はランボルの問いに得意げな表情で答える。


「彼の名はね――――」



 この時魔王によってさらなる絶望に落とされたのを東条綾人はまだ知らない。



 そして封印されてから100年の時が流れていった……





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