串焼きと銃弾
「おい!エリック!なんだそいつは!?」
そんな声と共に街に入るための関所だと思われる大きな門から若い兵士が目を剥き、飛び出してきた。
「こんばんは!ゴーンさん!この人は森で森狼に襲われてたところを助けてくれて…。あっ、すみませんアトラスさん。ちょっと下ろしてください」
未だに担がれたままだったエリックは、この状況を見た兵士がアトラスのことを人攫いだと勘違いしてしまったのかと思い、アトラスに下ろしてくれるよう催促した。
アトラスは短く、あぁと返事をすると妙に軽いエリックの体を地面に立たせる。エリックはアトラスに礼を言おうと振り返るのだが、アトラスの姿を見たエリックの表情は、この世の終わりかのように凍り付いてしまった。
「ん?どうしたんだ?また担がれたいのか?」
そんなエリックの様子を見たアトラスは、エリックに的外れな言葉を投げかけた。よく見るとエリックだけではなく、駆けてきた兵士すらもこちらを見て固まっている。アトラスは何かおかしなことでも言ったのかと首を傾げた。
「あ、あのアトラスさんってすごく大きいんですね…」
そんなもん見たら分かるだろ、何を今更言っているんだとアトラスはエリックを睨みつける。
「エリック!違うだろ!違うわけじゃないけど、そうじゃないだろ!なんでそいつはそんなに血塗れなんだよ!何人殺したらこの量の返り血を浴びるんだ!おい!」
剣を抜いたゴーンがエリックの身を案じ、エリックを側に引き寄せながら、アトラスに問いかける。その返答次第では、アトラスという男を殺さなければいけないとゴーンは抜き身になった長剣の剣先をアトラスに向け、構えた。
「んあ?あぁ、そいつを助ける時によ、森狼?つーのに体当たりしたんだよ。そしたらこうなった」
ブンと音が聞こえてきそうな程の速度で、アトラスの両手が左右に開く。本人に悪気はなく、ほら見てくれとばかりに開いただけであっただが、その行為は逆効果でゴーンの心の恐怖を煽るだけであった。
「そんなわけあるか!お前は馬車か!?ふざけるのもいい加減にしろ!」
ゴーンのこめかみにある血管がピクピクと痙攣していることに、気付いたエリックは、このままでは本当にアトラスが殺人を犯してしまうと思いゴーンの言葉に横槍を入れた。
「本当なんです!ゴーンさん!彼の体を見てください!城壁ですら耐えられないかもしれない、そう思いませんか?」
その言葉を聞いたゴーンはアトラスの体をまじまじと見る。
その巨体についた頭は自分が見上げるほどの位置にあり、見たこともない作りをしている黒い服からは、モリモリと音が聞こえてきそうな程の筋肉が分厚く盛り上がっている。
あぁ、確かにこいつは城壁をも吹き飛ばしちまいそうだ、と無意識にゴーンは納得してしまった。
「フンッ」
観察されることに腹が立ったのかアトラスは、鼻を鳴らす。そこでゴーンの意識は現実に戻ってきた。
「あぁ、確かにそうだな…」とゴーンの口からは弱々しい呟きが漏れる。
その呟きを聞いたエリックがアトラスをフォローしようと口を開く。
「確かにアトラスさんは見た目は怖いですし、口も荒っぽいですけど、僕を助けてくれたんですから、あまり責めることはして欲しくないです」
どうか彼を許してください、とばかりにエリックの固まった表情がアトラスに向く。明かりに照らされた場所で初めて見るアトラスに、彼はどうやら慣れていないらしい。アトラスを見るエリックの表情は固まったというか、引きつっていた。
「分かってくれりゃいいんだよ、それよりも腹が減った。助けたお礼に飯でも食わせてくれや」
怖がる彼らを相手するより、空腹の方が問題だったらしい。普通、お礼というものは助けた相手から言い出すものであるが、今のアトラスにとってそんなことはどうでもよかったのだろう。
腹をポンポンと叩いたアトラスは、エリックを掴み上げ、城門を潜っていった。
「なんなんだ、あの化け物は…」
その場に残されたゴーンの短い呟きが呻き声のように漏れた。
★
城門を抜けたアトラス達は夜の大通りを歩いていた。エリックは肩に担がれていたので、実際に歩いていたのはアトラスだけであったが。
日本と一緒で人の集まる場所には建物がたくさんあるんだなと、エリックに買わせた、何かの串焼きを頬張りながらアトラスは周りを見渡す。不思議なもので人通りが多いにも関わらず、アトラスの進もうとする方向には、道ができる。
「ヒッ…」「なんだありゃ…」「道を開けろ!殺されるぞ!」
エリックはそんなアトラスの様子を見て諦めたように笑い、家のある方向にアトラスを導こうとしていた。
(なんでアトラスさんは、自分が怖がられていることに気付かないんだろ…)
「あっ、次の角を右です!」
エリックはアトラスに指示を出しながら、今日あったことを思い出す。森狼に殺されかけ、今日稼ぐはずだった収入を手放し、今はこうやってアトラスに担がれてはいるが、自分の家の帰路につくことができている。森狼に襲われたことは自業自得であったが、冴えない自分の冒険譚のようで、なぜかそれが少し誇らしく感じた。
「おい、家についたら飯食わせろよエリック」
「まだ食べるんですか!?アトラスさん!?その大きな串焼きを三本も買ったのに!?」
焦ったようにアトラスの肩で暴れるエリックだったが、アトラスが初めて自分を名前で呼んでくれたことに気付き、緩くなった涙腺から涙が溢れた。
「ん?なんだ?また泣いてんのか?けつの穴みたいな顔しやがって」
そんなことを言うアトラスの顔は曇り空が晴れたかのように輝いている。初めて自分の手で人型の生物を殺したことによる罪悪感はもう燻っていなかった。
次は日和らずに戦えるだろうと、アトラスは震えていない右の拳を強く握った。
書き慣れていないためか、視点がブレブレのような気が…。
どこまで描写していいのか分からないので、結構ばっさりカットしたりしています。そこらへんについてアドバイスがあれば教えてくさださい!




