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大砲と銃弾

クロスボウを武器専用のインベントリにぶち込み、足に込められるだけの力を込め、弓のように限界にまで引き絞られた足の筋肉を開放する。


「あ、やっべぇ、これ止まれねぇ」


ナノマシンが極限にまで活性化したせいか、その体はまるで銃弾のように吹き飛んだ。それは、タチの悪いジョークのようだった。


「このままじゃまずいわ、着地で死ぬかもしんねぇ」


流線形を描きながら浮上した視界の前方に、狼のような獣に囲まれる青年が映る。このままの勢いで着地をすれば、その獣の群れに飛び込んでしまうことは明白だった。



もう、なるようになれとアトラスは頭を守るように頭を抱え体を丸め込む。


月の明かりに照らされ、黒く鈍い光りを放つその弾丸は、まるで海賊映画に出てくるような大砲の玉のように風切り音を伴って森に着弾した。


あれ?思ったより痛くねぇ、と言おうとしたアトラスだったが、不意に漂ってきた濃厚な血の香りに思わず口を閉ざす。


アトラスはそのまま周囲を確認するために体を起こした。この着地の衝撃で、助けようとしていた人物が死んでいては洒落にならないと、彼は内心焦っていた。


アトラスは周りを見渡した。暗がりでよく分からないが警戒するようにして目を光らせる獣達が森に引いていくサマが見える。衝撃にビビったのだろうと、アトラスは結論付けた。


戦闘になるかもしれないと、腰に下げたナイフに手を掛けていたが、それは杞憂だったとアトラスは左手を自由にした。


そして、近くに生えていた木を見る。そこには、茶髪を短く刈りそろえた白い肌をした青年が身を投げだすようにして木に体を預けていた。どうやら間に合ったみたいだ、と安心しアトラスは胸を撫で下ろす。


「間に合って良かったな、兄ちゃん」


気付けばそんな言葉が口から出ていた。必死に森を駆けていたのか青年の体には細かい切り傷が目立つ。力が入らないのか四肢をだらりと下げた青年は言葉にならない何かを言おうとしているのか、音の出ない口をパクパクと動かしている。


「ん?もしかして、言葉が通じてねぇのか?」


よくよく考えてみれば、自分の発する日本語がこの世界で通じるはずもない。異世界には異世界の言語体系があるはずだ。アトラスは、困ったように苦笑を浮かべ頭を掻いた。


「そ、その助けて下さってありがとうございました。もうダメかと思って、死ぬかと思って、怖くて…。けどどうにもならなくて…。必死で!必死で逃げていて!自分が欲張ったせいでこうなっちゃって…」


「ありがとうございました…。本当にありがとうございます」



どうやら言葉が通じていない訳ではなかったらしい。アトラスは助けた青年に近寄り、屈むように顔をぐっと近づける。感情が溢れているのか、泣きながら笑っている青年の悲痛な表情が見えた。


「礼なんていいから!泣くか笑うかどっちかにしろよ、不細工な顔が見てらんねぇことになってんぞ!まるでケツの穴みてぇだ!」



だから、アトラスは笑顔を見せて冗談を飛ばした、青年の気持ちが少しでも楽になるように、と。








その後、動けないという青年を肩に乗せたアトラスは、暗くなった森を抜け街の方向に向かっていた。


スキャナーを飛ばし、マップを確認しながら足を進めていたが、この能力を大っぴらにすることを嫌ったアトラスは、スキャナーとは別に、街への道中を青年に案内させていた。


「ほーん、お前エリックって名前があったんだな、米俵かと思ってたわ」


「え?米俵ってなんですか?」


肩に担がれたエリックは不思議そうな表情を浮かべ、聞き覚えのない言葉に首を傾げる。


「ん?あぁ、気にすんな。俺の地元でカッコよくて強い人間を指す言葉だ」


適当な言葉を吐きつつ、エリックの反応を見たアトラスは眉間に皺を寄せる。


(日本語が通じるのに、米という存在がない?この世界に転送された時に翻訳機能でもぶち込まれたのか?)



「アトラスさん!アトラスさん!街が見えてきましたよ!」



そんなエリックの言葉にアトラスの意識は引き戻される。どうやら目的地に着いたらしい。明かりに照らされ存在感を増す、立派な城壁が遠くの方に見えていた。


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