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森と銃弾

お互い明け透けな性格なのか、エリサとアトラスは一緒に育った幼馴染のように気が合った。最初は、アトラスの巨体に怯えている節がエリサにはあったが、彼と話している内にそんな小さなことは気にもならなくなっていた。それ以上に彼が魅力的だったからである。



当初は彼の大きな体と粗暴な言葉遣いに気をやっていたが、椅子に座り向かい合って話をしてみると、アトラスは意外に話せる相手だった。


そして、彼の容姿も悪くない。凶暴そうな顔つきではあるが、整っている。後ろに流された銀髪は、高級そうな絹糸を彷彿とさせるし、金色に輝く瞳は気高さを感じさせている。身なりを整えさえすれば、どこかの貴族だと言っても通じるであろう気品があった。ただ、口を開けば全てが台無しではあるが。


「そういえば、あんたは武器をどうしてんだい?その腰にぶら下がってるオモチャで戦うのかい?」


先程はお互いの名前を交換した二人であったが、小っ恥ずかしいのか、未だに名前で呼び合うまでには至っていない。


エリサはアトラスの腰に下げてあるナイフを一瞥し、顎でしゃくる。


その反応を見て馬鹿にされていると気付いたアトラスは、ナイフをホルダーから外すと、二人が挟む机の上にポンと置く。あまりにも気軽に置かれたそのナイフの重みに木製の机が少し軋んだ。


その光景にエリサは目を剥いた。そして何かの間違いだろうと机を支える四本の足を軽く爪先で小突く。特に机が傷んでいる気配はなかった。


そして、彼の体格の割に小さく見える、自分がオモチャだと断じたナイフに目をやる。


黒いギザギザとした刃が30センチ程であろうか、見慣れない柄から生えているのが分かる。滑り止めだと思われる柄に巻かれている素材に見覚えがないが、そのナイフは机を軋ませるほどに重いとは思えない。自分が持つナイフより少しばかり刃渡りが長いが、ただ変わっている点といえば、ただそれだけだ。



そんなエリサの慌てる様子を見たアトラスは、語尾を強めにエリサをからかう。


「ちっとばかし重いから、お前には扱えないよなぁ。そら、オモチャに見えちまうのはしょうがねぇ」


少し前は気高いと思っていた瞳が、今はエリサを腹立たせていた。



「こんな馬鹿げた物は見たことないよ!なんなんだい!これは!」


エリサは抱いた疑問を、八つ当たりのようにアトラスに問いかける。


「ヴォルダン社製複合金硬化ナイフ、それがそいつの名前だ。ちっとばかし素材が変わっちゃいるが、これはすげえ代物でよ。刃は欠けねぇし、金属の分厚い板も容易く喰い千切る」


「まぁ、俺みたいにナノマシンで強化された体にしか扱えねぇが、そいつで殺った人間は三桁に昇る。今では、心強い相棒だ」


エリサには話の半分も理解することはできないだろうと、アトラスはナノマシンのことも話してしまった。だが、これから長く時間を共にすれば、自分を取り囲む奇異な状況のこともいつか話すことになるだろうと思い直す。


理解が追い付かないのか首を傾げるエリサを傍目に、アトラスは机の上にあるナイフを腰のホルダーに収める。


ナイフを片付けたアトラスは、未だ自分の発言を必死に理解しようとしている彼女が少し不憫に思ったのか、一言付け加えた。



「まぁ、要するに俺にしか扱えねぇ、すげえオモチャだってことだ」



「それなら分かる!」


やっと理解が追いついたのか、エリサの顔に笑みが浮かぶ。どうやら、アトラスに馬鹿にされたことも忘れてしまっているみたいだった。





あれから二人は城塞都市を後にし、バーグの森に足を運んでいた。

人の手入れがあまり行き届いていないのか、深く潜れば潜るほど周囲の雑草はその背を高くしている。一向に出会わない魔獣にアトラスは疑問を抱いたのか、スキャナーを発動した。


一日ぶりに使ったスキャナーであったが問題なく機能している。その証拠にアトラスの視界には取得したばかりのマップが表示されていた。


「なんだこりゃ…。生体反応が一切見当たらねぇ」


森に入って暫くは、エリサの斥候技術により、無駄な敵との遭遇を避けられているのだとアトラスは思っていた。だが、この反応を見ると少し、いやかなり状況がおかしいのだと無知なアトラスにでも分かる。


森にいるのは魔獣だけではない。普通の獣や小動物も存在している。それが、スキャナーで取り込んだ周囲2km圏内のマップに生体反応が一つも表示されていないのだ。エリサの生体反応はあるが、今はそれを無視していいだろう。


アトラスの様子に違和感を覚えたのか、又は森の様子に違和感を覚えたのか、エリサはアトラスの焦る表情を見て声を掛ける。無駄な音を立てることを嫌うエリサにとって、それは珍しいことだった。


「どうしたんだい?そんな顔してさ。まるでお化けを見た子供のようじゃないか」


口から出た言葉は軽かったが、エリサの表情は硬い。


「んや、なんでもねぇ。ただよ、こんなとこまで来たのに鳥一匹にも出会わねぇって、なんかおかしくねぇか?」


スキャナーの存在を明らかにする訳にはいかないアトラスは言葉を少し濁した。


「あたしもこんなことは初めてだよ。本当にお化けにでも出会っちまいそうな雰囲気だね」


アトラスの言葉を聞き、エリサの感じる違和感も大きくなる。何か大事なことを忘れているようで、それのせいで取り返しのつかないことが起きてしまうのじゃないかという不安がエリサの心を揺らした。


別に無理をして進む必要はないのだから、と結論を出したエリサは、アトラスに決断を委ねた。


「あんたがよければ、今日は街に帰らないかい?狩りなんて明日でもできるだろ?なんか胸がざわつくんだよ、普段はこんなことないのに…」


エリサの弱々しさを言葉尻に感じたアトラスは、彼女の勘を信じることにした。



「あぁ、そうだな。こんな日は帰って飯でも食って寝るのが一番だ。そもそも、獲物なんていやしねぇ。仕事になんねぇよ」


エリックにこれ以上負担を掛けたくないアトラスからすれば、このまま魔獣が見つかるまで探していたい気持ちではある。だが、時間と共に弱々しくなっていくエリサを無理矢理連れまわすのは酷だとアトラスは思った。


顔色が優れないエリサを慰めるようにアトラスは肩を叩く。そして、彼は何気なく空を見上げた。


アトラス達が森に入る前までは晴れていた空だったが、今は黒い雲に覆われ始めている。


「天気も優れねぇみたいだし、お前の言う通り街に帰ろうぜ」


「そうだね。街に帰ったらあんたに飯でも奢るよ。すごく美味い飯屋を知ってんだ」


そんなことを言うエリサの顔も空と同様に曇っている。そうと決まればグズグズしている暇はないと、二人は駆け足気味で来た道を引き返そうとした、その時だった。


『グルゥゥゥアアアアアアア』



腹の底から体を冷たくするような、雷鳴のように轟く何かの唸り声が聞こえた。


アトラスは反射的に腰のナイフを左手に掴み、エリサの目を気にせず、インベントリから出したクロスボウを右手で構える。エリサは何かを思い出したのか魂の抜けた顔で呟いた。



「転換種だ…」


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