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誇りと銃弾

エリックの家に着いたアトラスは、盛大に飲み食いをしていた。もちろんエリックの懐事情など知ったこっちゃない。高く積み上げられた皿の向こうでエリックの啜り泣く声が聞こえるが、多分気のせいだろうと判断しアトラスはその大きな拳程の骨つき肉にかぶりついていた。


机の上に並ぶ料理に手を付けないエリックを思ってか、アトラスは骨だけになったゴミをエリックに投げ付け、声をかけた。


「イテッ!なにするんですかアトラスさん!汚いじゃないですか!あぁ、もう…。髪に脂がこびりついてる…」


「んなこたどうでもいいんだよ、気にすんな。それよりなんで飯食わねぇんだ?鶏ガラみたいな体してんのに、食わねぇと餓死しちまうぞ」


「もうお腹いっぱいなんですってば!このやり取り何回目ですか!?」


「だってお前よ、そんなちっこいパンと肉ふた切れでお腹いっぱいって、どう考えたって冗談だろ」



元々、アトラスは大食いに分類される方の人間だったがために、エリックは自分に遠慮をして食べていないのだと思っていた。要するに価値観の違いである。



何度言っても分かってくれないアトラスを見てか、エリックは食べ物を拒もうとする胃袋を意思の力でねじ伏せ、肉を一切れ口に放り込む。口に広がる肉汁が暴力的なほどに、ボディーブローをかましてくる。エリックは普通に泣きそうだった。


「てかよ、普通の人間しかいないってマジかよ。せっかくの異世界なのに爆乳のエルフがいないとか、終わってんだろこの世界」


終わっているのは、彼の頭である。

そんなアトラスにエリックは、せり上がってきそうになる内容物を気力で押し留めながら諭す。


「アトラスさんの話を聞いてると争いの種にしかならさそうじゃないですか、そもそも人間だけでも争いが絶えないっていうのに、そんな人達がいたらもっと大変なことになりますよ」


エリックはアトラスの吐き出す言葉の半分も理解していなかったし、アトラスの違う世界から来た、という言葉も違う国の出身者なんだぐらいにしか考えていないかった。


けれども、エリックの言った言葉は的を得ており、アトラスはエリックの発言に驚いたのかポカンと口を開け、エリックを見つめている。


「そういう考え方もあんのか、お前すげぇな。俺なんて乳繰り合うことしか考えてなかったわ。お前さ、体は枝みたいに細いのに頭は良いんだな」


傲岸不遜を地でいく男であるアトラスの口から出てきた褒め言葉に、エリックは目を剥き、耳を疑った。


「アトラスさんお酒が飲みたいんですか?それとも、そこにある食べ物だけじゃ足りませんでした?」


「煙草は吸っても酒は飲まねぇって。別に食い物の催促をしてるわけじゃねぇよ。ただ、なんだその…。アレだ!アレ!お前ならもう少しマシな職に就けんだろって話だよ」


「僕は…。確かに体は細くて頼りないですけど、今の仕事は人のためになる仕事なんです。街が綺麗だったらみんなが笑顔になりますし、薬草だって身体の悪い人達のためになります。だから、誇りを持ってて…。その、上手く言葉をまとめることができないんですが、この仕事が好きなんです。アトラスさん」


エリックの話す言葉は、付き合いの短いアトラスでも嘘偽りがないのだと思える説得力があった。だからこそ、アトラスはそんなエリックに疑問を感じる。


他人に奉仕をすることでしか、誇りを見出せない歪んだ価値観に。


こんな大きな街の一軒家に住んでるにも関わらず、家族がいないことに。


動けなくなる程の怖い思いをしたのにも関わらず、まだそんなことを続けられることに。


そして、綺麗事を並べるエリックの表情に。



考え過ぎかもしれないが、それはアトラスの喉に引っかかっていた。



「あんまり気を張るなよ。職ってのは金を稼ぐ手段でしかねぇんだ。そんな顔してっと人生が楽しくなくなっちまう。つか、悪いけどもう寝るわ、二階のソファー借りるぞ」


んじゃ、おやすみとアトラスはランプを持ち、二階に上がっていく。そんなアトラスを見送るエリックの瞳は、闇を映したかのように暗く淀んでいた。


「何も知らないくせに」



エリックはそう呟くと、アトラスの散らかした食器を片付けるべく、台所に向かった。

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