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海洋


 会場に大喝采と歓声が起こった。


 照明が俺たち二人に向けられる。


 なんだろう。


 俺たちは。


 俺たちは、どうしたんだ。


「ユザ!」


 キノコがトロフィーを渡してくる。


「ユザー!」

「お兄ちゃん!」


 レンとマリナが大きく手を振っている。


 俺はトロフィーを受け取った。


 そうか。


 分かった。


 これは夢だ。


 俺はトロフィーを持ったまま走り出した。ステージを降りて会場の出口へと駆ける。


 観客にどよめきが起こる。


「「ユザ?」」


「お、お兄ちゃん?」


 俺はトロフィーを誰にも渡したくない。その一心で走った。走って走って走り続けて建物の外に出る。潮の香りがした。海が近い。俺は海の方へと向かった。


 砂浜にたどり着く。俺はトロフィーを置いて、砂を両手で掘った。掘って掘って掘りまくる。誰にも目につかない場所にトロフィーを埋めるのである。


「「ユザー」」

「お兄ちゃん」


 俺の知っている友達や旧友、知り合いが追いかけてきた。俺はトロフィーを埋めた砂浜を背に、守りの手を構える。


「渡さないぞ」


 レンが半笑いをして首をかしげた。


「トロフィーは俺のものだ」


 キノコが心配そうな顔をして唇をすぼめた。


「かかってきてみろ」


 マリナががっくりと顔を落としてため息をつく。


「欲しくば」


 ヤマトが両手を組んで眉をひそめている。


「俺の屍を越えていけ」


 カグヤがあきらめを表情の浮かべて小さく頷いた。


「さあ、かかってこい」


 オトハまでいた。彼女はどうしてか俺を見て赤面している。


「さあ!」


 メイが枕を投げつけてくる。俺は蹴り飛ばした。


「あはは、その程度か」


「どうする?」とレン。

「どうしましょう」とキノコ。

「置いて帰りましょ」とマリナ。

「さすがは俺のライバル。トロフィーを独り占めとは、その心意気やよし」とヤマト。

「もうどうでもいいわ」とカグヤ。

「ユザちゃん」オトハの語尾にはハートマークがついていた。

「で、どうするんだ?」とメイ。


 海で大きな潮騒が鳴った。轟きを挙げて、ビックウェーブが迫ってくる。


「ちょ」

「やば」

「逃げて、濡れちゃう」


 皆が慌てて逃げていく。俺はにんまりとほくそ笑んだ。


 勝った。


 大波が足首を覆い、また引いていく。


 俺はトロフィーを掘り起こそうとした。このまま家に持って帰ろう。そうすれば俺は転校しないで済むんだ。


 トロフィーが無い!


 あたふたとして海の方を見る。ぷかぷかと海に浮かぶトロフィーがどんどん沖合へ行ってしまう。俺は崩れ落ちた。ダメだ。俺はカナヅチだった。


 おいおいと泣き出す。


 そんな馬鹿な。


 そんな阿呆な。


 これでは。


 まるで。


 まるで三流のコントじゃないか。


「うぇーん」


 俺は泣いた。


 泣きながら言った。


「海洋だけに、トロフィーは、もう戻ってこないかいよう」


 岩しぶきが上がった。


皆さん、読んでくださいましてありがとうございました。一巻はこれで終わりです。

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