ラストパフォーマンス
今日で一巻をでかそうとしましたが、時間的に無理なようです。また明日です。zzz
キノコのパフォーマンスが始まる。ピンマイクが入っていた。
「森山キノコのキノコント」
彼女が右手を突き上げる。
……。
静寂があった。
俺は眉をひそめる。
キノコが口をぽかーんと開けていた。
あの馬鹿。
セリフ飛んでやがる。
「キノコー!」
俺は叫んだ。
「キノコー!」
「頑張れー!」
つられてレンとマリナも声を上げた。
キノコの顔に血の気が戻る。
「あ、ごめんなさい。皆さんびっくりしましたか? 突然ですが、私、今、頭の中真っ白です。でも、大丈夫。なぜなら、好きな人のことならいくらでもしゃべれるから。さあ、やり直しますよ」
彼女が右手を突き上げる。
「森山キノコのキノコント。好きな人」
キノコは笑顔だった。だけど俺には泣いているように見えたんだ。
「私の好きな人はユザと言います。いまそこにいます」
キノコが俺を指さす。お客さんや審査員がこちらを向いた。俺は困ったような表情をしていることだろう。
「ユザ、付き合ったって言うのに、どうしてデートに連れて行ってくれないの?」
彼女は声を低くする。
「高校生は金が無いんだ」
俺のモノマネだった。
「お金のかからないところに行けばいいじゃないですか。私は別に公園でも、ウインドウショッピングでも、町を散歩するだけでも、どこだっていいのに。貴方と一緒だったら、どこに行ったって楽しいのに。それなのにユザは、毎日毎日お笑いの練習ばっかりばっかり、もう、私の気持ちに気づいてください。もしかして、私と一緒にいるのが楽しく無いんですか?」
彼女は俺を指さす。
「答えてください」
「ごめんなさい!」
俺は仕方なく叫んだ。
「謝ったって許しません。明日はちゃんとデートに連れていってくださいね」
「分かった!」
誰かがクスクスと笑う。
キノコは両手でハートを作る。
「貴方のハートにキュンキュキュン。痛い子痛い子飛んで行け。パタパタパター」
一回転する。
「続きまして、森山キノコのキノコント。好きな人の好きなところ」
明らかにアドリブの即興だった。
俺たちの負けが確定していた。
だけど俺は不思議に、悲しいとか、そういう気分じゃなかった。
「ユザはハゲてるけれど、とっても面白くて格好良いです。優しくて強いです。馬鹿だけど頭は良いです。何よりも、私がピンチの時にはいつも駆けつけてくれて、救ってくれる。私の王子様。もしも私が、私が」
キノコの瞳に涙がつたう。
「学校を転校することになっても」
声が鼻声だった。
「学校を卒業して、また東京に来て、会いに来る」
顔がくしゃくしゃになった。
「ユザ。スベスベステューデントを、この大会を最後に、終わらせないでくれますか?」
もう見てられなかった。
「当たり前だ!」
俺は立ち上がった。
レンが俺の背中をはたく。
「行ってこい」
マリナが呼んだ。
「お兄ちゃん」
観客席を抜けて、ステージの脇から階段を上がる。審査員たちが動揺の声を上げた。
キノコの隣に立つ。
「ユザ」
「お前、馬鹿だろ!」
俺にマイクは無い。だから目一杯叫んだ。
「はい、馬鹿なんです」
「キノコ!」
「はい」
「高校で、俺たちの最後の舞台だ!」
「はい」
「スベスベステューデント! 行くぞ!」
「はい!」
良い返事だった。
「スベ!」俺はつるつるの頭をなでる。(繰り返し★)
「スベ」キノコは右手をなでる。
「スベ!」★
「スベ」キノコは両手で頬をなでる。
「スベ!」★
「スベ」キノコは滑って転びそうになる。
「スベスベ!」★
「もう、このステージの床、スベスベですよ!」右足を強く踏み出した。
「「どうも、スベスベステューデントです。よろしくお願いします!」」
拍手が鳴る。
審査員は苦笑いしていた。
こうなったら、もうめちゃくちゃだ。
「キノコさん、大会のトリを任されたって言うのに、セリフをど忘れしちゃあダメでしょう!」
「すいません、私、鳥頭なんで」
「いっそのことステージの上から飛んでみたらどうですか!?」
「そしたらユザさんが受け止めてくれますか?」
「受け止めねーよ、放置するわ!」
「放置プレイですか? ユザさんったら、エッチなんだから」
「放置プレイのどこにエロ要素があるんだ!」
俺はキノコの頭をはたいた。キノコは両手を頭に当てて防御する。
「おい、防御すんな!」
「当たると痛いですから、えへへ」
「くっそ、防御するボケがどこにいる!」
「ここにいます」
キノコが自分を指さす。
俺たちは背中あわせになる。
「ハゲと!」
「キノコだけに」
「滑って!」★
「セリフをど忘れして」キノコは頭を抱える。
「滑って!」★
「審査員にあきれられて」キノコは審査員席を指さす。
「滑って!」
「それでも頑張る」両手をグーにして掲げた。
「キノコさん、明日のデートはどこに生きたいんだ!?」
「ディズニーランドに行きたいです」
「金がかからない場所で良いんじゃなかったのか!? 第一、本当に俺、金無いぞ!」
「ディズニーランドがいいですぅ」
「ワガママ言うな! 子供か!」
俺はキノコの頭をはたく。
「仕方ないです。ユザさんの部屋で我慢します」
「な、俺の部屋!?」
「はい」
「女が男の部屋に一人で来るなんて、危ないぞ!」
「大丈夫です。ユザさん、私はもう心の準備ができています」
「俺が出来てないわ!」
「さあ、ユザさん、二人で保健体育の地平線の向こうへ行きましょう」
「もうちょっと付き合ってからにしてくれ!」
「女に恥じをかかせましたね」
「あ、悪い! すまんな!」
「大丈夫。なぜなら」
キノコは両手を掲げる。
「私って、汚れ芸人だから」
二人で背中を合わせる。
「ハゲと」
「キノコだけに」
「滑って!」★
「付き合って」キノコが両手でハートマークを作る。
「滑って!」★
「喧嘩して」キノコが両手の人差し指で角を作り後頭部に当てる。
「滑って!」★
「仲直り」両手のひらを合わせた。
「キノコさん、実は今日でお別れなんだ!」
「ユザさん、実は私も、お別れを言いたいんです」
「俺、転校するんだ!」
「私も転校するんです」
「え!?」
「ええ?」
「もしかして!」
「まさか、まさかっ」
「「同じ高校に転校すれば、離ればなれにならない!?」」
「キノコさん!」
「ユザさん」
「「これからも、よろしくお願いします!」」
俺たちは頭を下げる。頭がぶつかった。
「痛って!」
「いたた」
俺は右手を突き上げる。
「ハッピーエンドに必要なこと!」
「食べ物を好き嫌いしないこと」
俺は後ろを向いて、顔だけ振り向く。人差し指を観客席に突きつけた。
「ハッピーエンドに必要なこと!」
「早寝早起き」
「ハッピーエンドに必要なこと!」
俺は親指を立てて胸につけた。
「ちょっぴり勇気」
「キノコさん、ところでこの物語は矛盾だらけの上にツッコミどころが満載で。手直しをするにしても、二週間ぐらい時間がかかりそうなんですが!」
「ユザさん、一体何の話をしてるんですか?
「お前が好きだってこと!」
「明日はディズニーランドってことですか?」
「それは無理!」
「スベ!」★
「スベ」キノコは左手を撫でる。
「スベ!」★
「スベ」キノコはお腹を撫でる。
「スベ!」★
「スベ」キノコはお尻を撫でる。
「スベスベ!」★
「明日はジェットコースターで滑りまくりですよ!」
「「どうも、スベスベステューデントでした。ありがとうございました!」」
二人で腰を折った。




