表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/88

ラストパフォーマンス

今日で一巻をでかそうとしましたが、時間的に無理なようです。また明日です。zzz


 キノコのパフォーマンスが始まる。ピンマイクが入っていた。


「森山キノコのキノコント」


 彼女が右手を突き上げる。


 ……。


 静寂があった。

 

 俺は眉をひそめる。

 

 キノコが口をぽかーんと開けていた。


 あの馬鹿。


 セリフ飛んでやがる。


「キノコー!」


 俺は叫んだ。


「キノコー!」

「頑張れー!」


 つられてレンとマリナも声を上げた。


 キノコの顔に血の気が戻る。


「あ、ごめんなさい。皆さんびっくりしましたか? 突然ですが、私、今、頭の中真っ白です。でも、大丈夫。なぜなら、好きな人のことならいくらでもしゃべれるから。さあ、やり直しますよ」


 彼女が右手を突き上げる。


「森山キノコのキノコント。好きな人」


 キノコは笑顔だった。だけど俺には泣いているように見えたんだ。


「私の好きな人はユザと言います。いまそこにいます」


 キノコが俺を指さす。お客さんや審査員がこちらを向いた。俺は困ったような表情をしていることだろう。


「ユザ、付き合ったって言うのに、どうしてデートに連れて行ってくれないの?」


 彼女は声を低くする。


「高校生は金が無いんだ」


 俺のモノマネだった。


「お金のかからないところに行けばいいじゃないですか。私は別に公園でも、ウインドウショッピングでも、町を散歩するだけでも、どこだっていいのに。貴方と一緒だったら、どこに行ったって楽しいのに。それなのにユザは、毎日毎日お笑いの練習ばっかりばっかり、もう、私の気持ちに気づいてください。もしかして、私と一緒にいるのが楽しく無いんですか?」


 彼女は俺を指さす。


「答えてください」

「ごめんなさい!」


 俺は仕方なく叫んだ。


「謝ったって許しません。明日はちゃんとデートに連れていってくださいね」

「分かった!」


 誰かがクスクスと笑う。


 キノコは両手でハートを作る。


「貴方のハートにキュンキュキュン。痛い子痛い子飛んで行け。パタパタパター」


 一回転する。


「続きまして、森山キノコのキノコント。好きな人の好きなところ」


 明らかにアドリブの即興だった。


 俺たちの負けが確定していた。


 だけど俺は不思議に、悲しいとか、そういう気分じゃなかった。


「ユザはハゲてるけれど、とっても面白くて格好良いです。優しくて強いです。馬鹿だけど頭は良いです。何よりも、私がピンチの時にはいつも駆けつけてくれて、救ってくれる。私の王子様。もしも私が、私が」


 キノコの瞳に涙がつたう。


「学校を転校することになっても」


 声が鼻声だった。


「学校を卒業して、また東京に来て、会いに来る」


 顔がくしゃくしゃになった。


「ユザ。スベスベステューデントを、この大会を最後に、終わらせないでくれますか?」


 もう見てられなかった。


「当たり前だ!」


 俺は立ち上がった。


 レンが俺の背中をはたく。


「行ってこい」


 マリナが呼んだ。


「お兄ちゃん」


 観客席を抜けて、ステージの脇から階段を上がる。審査員たちが動揺の声を上げた。


 キノコの隣に立つ。


「ユザ」

「お前、馬鹿だろ!」


 俺にマイクは無い。だから目一杯叫んだ。


「はい、馬鹿なんです」

「キノコ!」

「はい」

「高校で、俺たちの最後の舞台だ!」

「はい」

「スベスベステューデント! 行くぞ!」

「はい!」


 良い返事だった。


「スベ!」俺はつるつるの頭をなでる。(繰り返し★)

「スベ」キノコは右手をなでる。

「スベ!」★

「スベ」キノコは両手で頬をなでる。

「スベ!」★

「スベ」キノコは滑って転びそうになる。

「スベスベ!」★

「もう、このステージの床、スベスベですよ!」右足を強く踏み出した。


「「どうも、スベスベステューデントです。よろしくお願いします!」」


 拍手が鳴る。


 審査員は苦笑いしていた。


 こうなったら、もうめちゃくちゃだ。


「キノコさん、大会のトリを任されたって言うのに、セリフをど忘れしちゃあダメでしょう!」

「すいません、私、鳥頭なんで」

「いっそのことステージの上から飛んでみたらどうですか!?」

「そしたらユザさんが受け止めてくれますか?」

「受け止めねーよ、放置するわ!」

「放置プレイですか? ユザさんったら、エッチなんだから」

「放置プレイのどこにエロ要素があるんだ!」


 俺はキノコの頭をはたいた。キノコは両手を頭に当てて防御する。


「おい、防御すんな!」

「当たると痛いですから、えへへ」

「くっそ、防御するボケがどこにいる!」

「ここにいます」


 キノコが自分を指さす。


 俺たちは背中あわせになる。


「ハゲと!」

「キノコだけに」


「滑って!」★

「セリフをど忘れして」キノコは頭を抱える。

「滑って!」★

「審査員にあきれられて」キノコは審査員席を指さす。

「滑って!」

「それでも頑張る」両手をグーにして掲げた。


「キノコさん、明日のデートはどこに生きたいんだ!?」

「ディズニーランドに行きたいです」

「金がかからない場所で良いんじゃなかったのか!? 第一、本当に俺、金無いぞ!」

「ディズニーランドがいいですぅ」

「ワガママ言うな! 子供か!」


 俺はキノコの頭をはたく。


「仕方ないです。ユザさんの部屋で我慢します」

「な、俺の部屋!?」

「はい」

「女が男の部屋に一人で来るなんて、危ないぞ!」

「大丈夫です。ユザさん、私はもう心の準備ができています」

「俺が出来てないわ!」

「さあ、ユザさん、二人で保健体育の地平線の向こうへ行きましょう」

「もうちょっと付き合ってからにしてくれ!」

「女に恥じをかかせましたね」

「あ、悪い! すまんな!」

「大丈夫。なぜなら」


 キノコは両手を掲げる。


「私って、汚れ芸人だから」


 二人で背中を合わせる。


「ハゲと」

「キノコだけに」


「滑って!」★

「付き合って」キノコが両手でハートマークを作る。

「滑って!」★

「喧嘩して」キノコが両手の人差し指で角を作り後頭部に当てる。

「滑って!」★

「仲直り」両手のひらを合わせた。


「キノコさん、実は今日でお別れなんだ!」

「ユザさん、実は私も、お別れを言いたいんです」

「俺、転校するんだ!」

「私も転校するんです」

「え!?」

「ええ?」

「もしかして!」

「まさか、まさかっ」

「「同じ高校に転校すれば、離ればなれにならない!?」」

「キノコさん!」

「ユザさん」

「「これからも、よろしくお願いします!」」


 俺たちは頭を下げる。頭がぶつかった。


「痛って!」

「いたた」


 俺は右手を突き上げる。


「ハッピーエンドに必要なこと!」


「食べ物を好き嫌いしないこと」


 俺は後ろを向いて、顔だけ振り向く。人差し指を観客席に突きつけた。


「ハッピーエンドに必要なこと!」


「早寝早起き」


「ハッピーエンドに必要なこと!」


 俺は親指を立てて胸につけた。


「ちょっぴり勇気」


「キノコさん、ところでこの物語は矛盾だらけの上にツッコミどころが満載で。手直しをするにしても、二週間ぐらい時間がかかりそうなんですが!」

「ユザさん、一体何の話をしてるんですか?

「お前が好きだってこと!」

「明日はディズニーランドってことですか?」

「それは無理!」


「スベ!」★

「スベ」キノコは左手を撫でる。

「スベ!」★

「スベ」キノコはお腹を撫でる。

「スベ!」★

「スベ」キノコはお尻を撫でる。

「スベスベ!」★


「明日はジェットコースターで滑りまくりですよ!」


「「どうも、スベスベステューデントでした。ありがとうございました!」」


 二人で腰を折った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ