ヒロインズ
二人は恋ヶ海高校の制服姿だった。高校生であることを売りとして、テレビもその格好で出ているい。メイはいつものピンク色の枕を持っていた。
オトハが両手を口元に当てる。
「うふふふ、潜入成功」
メイは突っ立ったままオトハを凝視している。
「なるほど。ここがひな鳥オーディションの舞台ね。狙う宝物は、もちろん皆の大切な笑顔よ。どうもこんにちは、怪盗オトハです」
彼女の芸名のフルネームは怪盗オトハである。
相方が声を張り上げていた。
「メイは見ていた!」
「誰?」
オトハは振り向く。
「探偵メイ。探偵だ」
彼女の芸名のフルネームは探偵メイである。
「また貴方なの? 私の狙う宝物の前にいつもいつも登場して」
「またお前か。性懲りも無く来たな。今回もトリックをあばいてやるぞ」
「二人そろって」
オトハが声を高くした。
「「ヒロインズ!」」
二人はポーズをとる。
観客の拍手が鳴った。
音がひく頃、オトハがしゃべり出す。
「メイ。どうして貴方はいつもいつも邪魔をするの? 私はちょっと、お客さんの大切なものをもらおうとしているだけなのに」
「それはだ」
「何よ」
「信じないかもしれないけど、私の行くところ行くところにはいつも事件があるんだ。殺人事件も多い。そこで分かった」
「何が分かったのよ?」
「私がどこにも行かなければ、事件なんて起きない。だから寝る」
メイは枕を床に置いて横になった。
「ちょっとメイ、寝てる場合じゃないわ」
オトハがメイを引っ張り起こす。
「ふわあ。あれ、オトハじゃないか。おはよう」
「もう熟睡したの!」
「夢を見た」
「夢の内容とか、つまらない話はやめてくれる?」
「ノンノン」
メイが指を振る。
「何よ」
「真実は夢の中。オトハ、お前のトリックは分かったぞ」
「嘘、もうばれちゃったの?」
「お前は高校生という身分を利用して、このひな鳥オーディションに応募したんだ。あまつさえ、お客さんのハートを掴むために漫才の練習をして」
「……そんなことする訳無いじゃない。第一、私は高校生よ。もうすぐ定期テストがあるの。漫才の練習をする暇なんて無いわ」
「アリバイがあるのか?」
「そうよ! 私はずっと恋ヶ海高校にいたの。夜は家で勉強。漫才の練習なんてしてないわ。クラスメイトや私の家族に聞いてみなさい。証明してくれるわ」
「違う」
「何が違うって言うの?」
メイが枕のジッパーを開いた。中から一冊の大学ノートが出てくる。
「あ、それ、私の数学のノート」
メイはノートを開く。そして書いてある文字を読み出した。
「怪盗オトハ。ひな鳥オーディション用漫才。うふふふ、潜入成功」
「読まないでーっ」
オトハはノートをひったくった。
「オトハ。勉強をする振りをして、漫才のネタを作っていたな。うふふふ、潜入成功というのは、さっきお前が言ったセリフと同じだ」
「ばれちゃあしょうが無いわね。そうよ、私は漫才の練習をした。そして高校生であることを利用して、この大会に応募したの。見事受かって、潜入したわ」
「なんでそんなことをしたんだ?」
「決まってるじゃない!」
「分からない」
「分からない? そうよね、メイには永遠に分からないと思うわ。でもね」
オトハは遠い目をする。
「どうしても、欲しかったのよ」
「何が?」
「お客さんの笑顔が」
「笑顔を奪って、どうするつもりだったんだ?」
「家に帰って、お客さんの笑顔を思い出して、私もニヤニヤするのよ」
「卑劣だな」
「何とでも言いなさい。私はね、欲しいものは何でも奪うことにしてるの。それが例え、ハンバーガー屋さんで、ゼロ円で売っているスマイルであろうともね」
「ハンバーガー屋に行って来い」
「勘違いしないで欲しいわ」
オトハは腰に両手を当てた。
「アリバイとトリックを見抜いたからって、まだ犯行は終わってないのよ? お宝は、私のものだわ」
「オトハ、お宝は渡さない」
「そんな大見得切ったって、怖く無いんだから」
「漫才は相方がいないと成り立たないぞ?」
オトハは唇をすぼめてびっくりしている。
「私は寝る。さらばだオトハ。お客さんの笑顔はあきらめることだな」
メイは横になり、枕に頭を乗せる。
「オトハ必殺、ひゃくれつビンタ」
オトハはメイの顔をビンタした。メイは飛び起きる。
「痛いな」
「寝かせないわ」
「そんなに笑顔が欲しいか?」
「欲しいわ」
「メイの迷推理によると」
彼女は右手を顎に当てる。
「お客さんを笑わせるには」
彼女は観客席に顔を向ける。
「オトハが服を脱いで踊れば良い」
「変態か!」
オトハがメイの頭をはたく。
「こんなお客さんの目の前で服を脱いだら、犯罪よ」
「大丈夫だ、オトハ」
「何が大丈夫なのよ」
「怪盗オトハじゃないか。犯罪はいつものことだ」
「私にもプライドってものがあるの」
「芸人にプライドは要らない」
「いい加減にしてよ。もう帰る」
「じゃあ私はもう少ししたら寝る」
「またあんたに邪魔されたわ」
「「どうも、ヒロインズでした。ありがとうございました」」




