大物の狩猟
キノコは受付で手続きを終えて控え室に行った。俺とマリナは入場料を支払い観客席に向かった。前の方が空いていた。三人かけられる席を見つけて陣取る。
スマホを開くと午前九時過ぎだった。十時からひな鳥オーディションが始まる。
レンはどこだろう。
「マリナ、レンを探してくる」
「うん、分かった」
俺は立ち上がった。
トイレ。
通路。
階段。
どこにも見当たらない。さっきから電話をかけているが出る気配は無い。
外に出て駐車場を探してみる。
いた。
背の高いイケメンがどう猛に口をふるわせている。その視線の先にいるのは、カグヤだ。
彼女はあの目つきをしていた。
見る者を動けなくさせる蛇睨み。
二人は立ったままでどちらも動かない。
「変だな」
俺は近づく足を躊躇した。
立ち止まって二人を観察する。
レンは瞳が狂気に染まっていた。
(食ってやる、食ってやる、食ってやるぞ)
唇がそう動いた。
カグヤの顔は汗でだらだらだった。あの勢いでは熱中症か脱水症状を起こしてしまう。
俺は乾いた笑いをはき出した。
カグヤは誤解している。
オオカミに蛇睨みは利かない。
だけど利いているのだと思っている。
そして。
レンが今まさに自分を殺そうとしているのだと、恐怖している。
カグヤの両目から涙がこぼれだした。鼻、口からも液体が伝う。顔は青ざめてその場に倒れた。レンはポケットの中からケータイを取りだして、どこかにダイヤルした。救急車だろうか。俺は近づいて行った。
「レン」
「ぐるるる」
レンが俺を威嚇する。しかしすぐに人間の顔に戻った。
「お、ユザか」
「レン。ナイスだ」
「おう」
「救急車か?」
「まーな。早くしないと、死んじまうかもしれん」
「観客席、イスとってあるぞ」
「後で行く」
レンは右手を上げた。
「分かった」
俺は手を振って建物へと引き返した。




