78/88
独走
「待ってください」
「どうしたの? キノコ」
「舞台は、私一人で出ます」
「な、何言ってんだ?」
俺は勢いよく顔を向けた。
「おい、昨日のコンビを解散するって言うのは、取り消しだ」
「私っ」
キノコが俺を鋭く睨みつけた。
「ユザがあんなに弱っちいとは思いませんでした」
昨日のことを言っているのだろう。
「ユザなんかと出場したら、負けちゃいます」
彼女は前を向く。部屋の扉へ歩いて行く。
「「キノコ?」」「どうして?」
三人の声が重なる。
彼女は扉のノブに手を当てて回した。
「ユザみたいな負け犬男は」
声を大きくした。
「私が守ってあげます!」
「どこへ行く?」
俺も立ち上がる。
「ネタの創作です」
彼女は出て行った。
残された俺たちは面を付き合わせて首をかしげた。




