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雨
地元の町を、俺は当てもなく歩いていた。
どんな顔をして家に帰れば良いのか分からなかった。レンとマリナはさぞかし機嫌が良くて一日のデートの余韻に浸っているだろう。両親にだって心配をかけたくなかった。
雨に濡れたままどこまでも歩いた。
線路を通り過ぎていく電車の音。
交差点を横切る車の駆動音。
赤から青に変わる信号。
幸せそうに肩を並べて歩くカップル。
どこまでも続く雨雲。
太陽は出ない。
夜になった。
体が冷たい。
死ぬ。
死とはなんだろう。
そんなことを考える俺は。
だいぶ頭がイッちゃっている。
「腹減ったな」
右手を腹に当てる。腹は減っているが食欲は少ないと思った。早くも夏ばてだろうか。俺はため息をついた。道路の向かいコンビニが見えた。左右を確認して横断歩道の無い道路を渡る。
けたたましいクラクションが鳴った。
「は?」
見上げると大型トラックが目前に迫っていた。
顔面いっぱいに広がる大型のヘッドライト。
不注意の交通事故。
そんな……。
まあ。
いいか。
俺の体は宙を舞った。




