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小さな絶望


 外では雨が降っていた。


 今日は雨予報だったろうか。


 よく覚えていなかった


 俺は近くの電柱に右手をついて顔を落とす。


 死にたい。


「何やってんだ俺は」

「ユザッ」


 背後でキノコの声が聞こえた。


 俺はゆっくりと振り返る。


 彼女はトートバックの中から折りたたみの傘を取り出している。広げてさして、近づいてきた。


「ユザ、大丈夫、ですか?」


 可愛い奴だ。


 ――俺は。


 体がストレスでいっぱいだった。


「ああ」


 こんな時どうしたらいいだろう。


「キノコ、俺、二十四日棄権してもいいかな」

「何を言っているんですか!」


 キノコが険しさと悲しみの入り交じった顔をする。


 怒っているのだろうか。


「さっきのは気にする必要ありません。あんなの、卑怯者のやることです」


 慰めてくれているのだろうか。


 だけど、俺は。


「キノコ」

「どうしましたか?」

「俺、帰る」

「はい、帰りましょう」

「一人で帰る」


 キノコは唇をかむ。


「今の気持ちを、お前にあたりつけたりしたくないんだ」


 言葉の矛盾に気づかず。


「俺は転校する」


 雨の中歩き出す。


「コンビは解散だ」


 俺は右腕を上げた。


「じゃあな」


 キノコは立ち尽くしていた。彼女の顔が濡れているのは雨があたったのだろう。


 異常発生。


 思考開始。


 二十四日。お笑い対決に出場したとする。今の俺はもちろん負ける。約束通り俺は転校する。敗北という傷跡とトラウマを心に抱いて生きることになる。


 しかしお笑い対決を棄権すれば。


 負けるのと逃げるのは違う。


 逃げるも勇気だ。


 心に受ける傷を最小限にすることができる。勝てない相手との戦いを避けたのだと自分自身に言い訳することができる。いつか強くなって戦う自分を信じられる。


 何よりも。


 こんなどうしようも無い男と、キノコは縁を切ることができるんだ。


 答えは出た。


 俺は。


 俺はなんて頭が良いんだ。


「あっはっは……」

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