ヒロインズのフリートーク
響屋市の会場は思ったよりも広くなかった。響屋つばき旅館の建物の中、宴会の間にはステージが設けられていた。パイプイスが百組ほど並べられている。お客さんは賑わっている。ステージの中心には、ヒロインズ、トークショーという文字の幕が掲げられていた。
俺とキノコは真ん中辺りの席に座り、そこで売っていた飲み物をストローで吸った。
パイプイスが人で埋め尽くされる頃。
照明がゆっくりと暗くなる。
「いよいよですね」
「ああ」
俺は気をひきしめた。
舞台裏からオトハとメイが出てくる。
「「どうもー」」
二人がステージの中心に立つ。
「「ヒロインズです」」
お客さんからは歓声と拍手が鳴った。生のトークライブに来る人はファンが多いのだろうな。
二人は恋ヶ海高校の制服を着ている。メイはテレビでいつも持っているピンク色の枕を持っていた。ピンマイクが入っている。
「オトハ、私眠い」
「メイ、あんた昨日ちゃんと寝たの?」
「寝たよ」
「何時間?」
「二十四時間」
オトハはメイを凝視する。
「あんた一日寝てるわ」
「起きて時計を見たら、もう寝る時間だったの」
「それで、もしかしてまた寝たの?」
「うん」
「あんた死んでるのと変わらないわね」
「違うよオトハ。死んでるんじゃないよ。寝てるんだよ」
「永眠って言葉知ってるかしら」
「馬鹿にしないで。永遠に寝続けるってことだ」
「……まあ、状態を見れば、そういうことよね」
「永眠したいな」
「私が首を絞めてあげるわ」
「首?」
メイが頭をかしげる。
二人のだらだらとしたフリートークが始まる。お客さんのウケは良かった。決して言葉だけで笑わせているのではない。身振りや手振り。声の抑揚。そう言った演技力や肩の力の抜き方が、俺たちと比べると断然に上手い。学ばされることが多い。悔しくて目が痛くなった。隣に座っているキノコは無邪気に手を叩いて笑っている。平和な奴だ。
始まってから二十分も経った頃だろうか。
ヒロインズの話題の内容が何回目かの変化となる。
「メイ、そう言えば最近なんだけど」
「うん。何?」
「私たちが高校生だって言うのは、お客さんも知ってると思うけど、私たち、二人そろって転校したのよね」
「え? そうだっけ?」
オトハはあんぐりと口を開ける。
「あんた、また寝てた?」
「まあ、脳みそはね。体は動いてたと思うよ」
「ロボットなの?」
「右目を閉じると、そういうことができるんだ」
オトハがメイの頭をはたく。
「嘘はついちゃダメよ」
「ごめん、今のはさすがに嘘」
「お客さんに謝りなさいよ」
「永眠してわびる」
メイがステージの床に枕を置き、寝ようとする。
「メイッ、寝ちゃダメでしょ。今私たち仕事中よ」
「ステージの上で永眠できるなら、本望」
「どさくさにまぎれて上手いこと言わないで」
「今日がメイの命日だ。オトハ、頑張れ」
「起きなさい。話が前に進まないわ」
オトハがメイの腕を掴み引っ張って立たせる。
「オトハ。私に生きろというの? お客さんの前で嘘ついたのに」
「大丈夫よ。この舞台が終わったら、楽屋であの世に行かせてあげるわ」
オトハが両手をパチンと合わせる。
それが合図だったのかもしれない。
メイが表情をひきしめる。
「オトハ、何の話だっけ?」




